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第16話
「ん、あっ、か、すみ、っ、い、んぅ、っ」
唇を角度を変えながら何度も吸いつかれる。離れたかと思うと、顎に伝う唾液を舌で受け止め、それを辿り、もう一度口内に戻ってくる。お互い、ふーふーと獣のような鼻息をしているが、どうしても、唇を離したくない気持ちになる。僕も彼の服の下に手を差し入れる。腰元からシャツの下に手をいれ、捲るように上へとたどると、熱い身体にはしっかりと筋肉が鍛え上げられていることに気づき、より彼の雄を感じ、オメガが花開いてしまう。脇の下まで手を這わしてくると、彼は早急にシャツを脱ぎ捨てた。でも、すぐに唇は押し付けられてしまい、口内は激情を受け止めるのに精一杯になってしまう。その間に佳純はジーパンも乱暴に脱ぎ捨ててしまった。乱され続ける僕は衣服をまだ纏っているのに、目の前の美丈夫は全裸であることに隠微さが高まり、また吐精しかけてしまいそうになる。
背中や脇腹を撫で回す、ひやりとした手を捕まえて、胸元に導く。冷たい手のひらが平らな胸を包んだ瞬間、びくりと身体が大きく揺れた。
「ん、ぁあっ、んんぅ、ぁっ、しゅ、み、ぃんんっ」
その手首を柔く掴んでいると、ゆっくりと揉まれ、嬉しさに声が漏れる。大きな手に合わすように、自分の手を重ねる。彼の長い指が桃色に染まりふっくらと盛り上がる頂上をかすめ、腰が跳ねる。見つかったそれを長い指がつまみ、回すようなこりこりと遊ばれたり、弱い先端を優しく撫でられたりする愛撫につま先を突っぱね、何度も腰が跳ねる。与えられた快感を堪えるように、口元にあった舌を思い切り吸う。ちゅぽ、と唇が離れて物寂しさに瞼を持ち上げると、佳純は眉間に皺をよせ、額に汗を浮かべていた。
「っ、ダメだッ…一回、出す…っ、くっ」
「あっ、あ…っ」
佳純は、自身の手を丸め、その立派にノットを膨らませたそれをしごき、僕の上で吐精した。びゅ、びゅるる、と勢いよく大量の彼の精子が僕の顔や額にかかり、胸元や腹を汚す。目の前で、きつく目を閉じて、快感に震える佳純からは意識を混濁させるほどのフェロモンが惜しげもなく出されていた。
「あっ、あぁ……」
たまらず僕も射精していた。僕のが全部出切っても彼の射精は止まらない。奥が、ぎゅぅ、と締まってしまうのがわかる。
「もっ、たい、なぃ…」
へそに溜まった彼の白濁を指で掬い取る。彼がその指先を見つめており、指と同じように目線があがってきた。彼の遺伝子に塗れた指を、僕は躊躇いなく舐めとった。彼は少しだけ目を見開いたが、僕は、今日、新しい彼の色々な表情を見ることができて、気分がよかった。
「おいし…ん、もっと…」
身体を起こすと、たらたらと彼の精子が重力にあわせて落ちていく。それにすら快感を与えられながら、彼のアルファに口付けた。ちゅ、ちゅと吸い付くと出遅れた精子が飛び込んでくる。ごく、と喉を通すと、身体の奥で、佳純のものになっていく身体の変化を感じて、嬉しくなる。大きいそれは、少し萎んだかと思ったが、舌や唇を合わせ、彼の立派なそれを愛しんでいると、また質量を増してくる。
「な、なみ…」
ひやりと肩が温度を感じると同時にベットに押し付けられていた。目の前の彼の瞳は欲に塗れた劣情に悶える獣のそれと同じだった。
「ぅん…僕も、佳純…佳純が…」
一度も今日は触れていない孔は、くぱくぱとアルファの侵入をずっと待ち望んでいる。彼の手のひらに合わせて、自分の手を重ねると、力強く、指と指を絡め合わせ握りしめられた。どちらからとともなく、唇が重なる。甘い彼の唇に恍惚としていると、長い指が数本、オメガをほぐし始める。にゅぷ、と入口の浅いところを軽く出し入れされたと思うと、入り込んできて、中の道を擦り上げる。そして、僕の弱いしこりをすぐに見つけられてしまい、こしょこしょと遊ばれる。その刺激に合わせ、何度も足をつっぱね、身体が揺れる。
「んぅ、か、すみ、んん、ゃら、ぁっ…」
彼の腰に両手をゆっくりと這わせると腰が勝手にゆらめく。早く、早く彼が欲しい。佳純と、ひとつになりたい。至近距離で美しい瞳と見つめ合いながら、食まれる舌で懇願する。ぎゅ、と佳純の大きな背中に抱きつくと、オメガに、溶かされてしまいそうな、熱いアルファがぬめぬめと擦り付けられた。それだけで、僕の男の先端からは雫が溢れる。腹の奥が、きゅんきゅんと痺れように、彼の訪問を期待している。眦にも涙がにじみ、すがるように抱きつく。
「七海…」
いつも、無表情でクールな彼が甘く僕の名前を囁いた。身体の筋肉がその甘い響きに緩みきったときに、ずぐりと彼の凶器が侵入してきた。
やっと。
やっと、出会えた。
待ち望んだアルファの介入に僕の身体は全身で喜び、吐精する。ぶるぶると痙攣しながらも、彼はじっくりと味わうように腰を進める。下生えが、尻に当たると、彼の先端が僕の一番弱いところ、ナカの入口に当たるのがわかった。
「七海…」
佳純は、堪らず、といったように、僕の名前を熱い吐息と共に囁いた。抱きしめられて、耳裏にキスをされ、何度も名前を呼ばれた。僕も惜しみなくどんどん溢れる彼の匂いに酔いしれる。ずっとこうしていたい多幸感の真ん中に、僕たちはいた。
「あ、あっ…か、しゅみ…」
ずっと快感の渦の中に身体があり、勃起しっぱなしの自分の陰茎から絶えず白濁とした粘液がたらたらと垂れていることに気づく余裕は僕にはなかった。後ろでも、ぎゅぅぎゅぅと彼にしがみつき、まざまざとその凶悪さを感じて、身体が小刻みに震える。
ゆっくりと抽送がはじまり、とんとんと尻たぶに触るように腰が揺れる。その優しい腰使いもあっという間に力を持ち、粘液の濃い水音を響かせた。
「あっあぁ、か、すみ、か、すみぃ…ぁんっあっ」
「七海…七海…っ」
上半身は、逞しい腕にきつく抱きしめられ、何度も耳たぶを吸われたり、耳裏を舐められたり淡く愛される。僕もそれに答えるように、大きな身体に必死にしがみつき、甘く強烈な大好きな匂いに顔を埋める。しかし、下半身はそれとは真逆なほど欲を求める激しい律動が繰り返される。ぎりぎりまで抜かれ、そのまま去ってしまうのではないかと、身体は嫌がり彼をさらに締め付ける。すると、そのきつい壁を割り込むように、強引に大きいアルファが一気に僕を攻めたてる。その度に彼の腹の下にある僕のそれは、ぴゅ、ぴゅ、と何かをこぼす。ノットが膨らみ入口を遮ろうとすると、ベットに僕の腰を押し付けるように、上から遠慮なく力任せにピストンを繰り返される。ぎしぎし、ベットが大きな悲鳴をあげるが、それに負けないくらいの大きな叫声が僕からも出る。
「ひゃ、ぁああっ、か、しゅみ、ぃいっ、ら、めっ、らめっぇっ、ああっ、ああっ」
何度も子宮口を強引に叩かれ、彼の熱に喜ぶそこは、嬉しそうにキスをし、挿入を待ち望んでいる。
「きょ、本当に、変、ら、よぁんっ、あっ、あっ、ずっ、と、きもちぃ、かす、み、かしゅ、みぃ、いっ」
涙をぼろぼろこぼしながら、強すぎる快感に首を振り、彼にしがみつく。より一層、奥に届くように、ものすごいスピードで子宮口をノックされることはおそらく初めてで、身体は否応もなく奥を収縮する。抽送のリズムがより細かい振動のようなものに変わり、耳元で彼が何度も苦しげに僕の名前を呼ぶ。
「か、すみ、いっ、イクイクっ、あぁっ、イッちゃ、ぅう、一緒、に、イこっ、イこ、ぉっ」
ぢゅ、と最後の力を振り絞って、彼の耳に吸い付くと同時に、彼は呻き、大きな身体を痙攣させた。そして、奥の奥に、びゅ、と勢いよく彼の吐精があたり、驚きに目を見張ると、今まで感じたことのない快感が頭の先から爪先まで巡り、激しく身体が震える。身体の奥は、やっと出会えた佳純を絶対に離さないと言わんばかりにきつくきつくしがみついている。彼の射精のどくどくとした血の巡りでさえ、僕の身体に響くようだった。その卑猥さに混沌としながら、僕の吐精も勢いなくだらだらと続く。
「ぁっ…なな、み…っく…」
「ぁ、あ……か、しゅ、み……ぁ…」
身体の奥からじわじわと熱が分け与えられ、初めて奥底が冷え切ってきたことに気づく。子宮に精液が満ちると、視界が晴れ、身体は甘い痺れだけになる。
長い長い、彼の射精が終わると、きつく抱きしめていた腕を解いた。その時に、関節がぎしぎしと違和感があり、それほど力一杯に縋っていたのだとお互い実感していた。
涙と涎で、もしかしたら鼻水も垂れていたかもしれない、まだ微かに痺れるように震えている身体だったが、彼と瞳が合う。今までで、初めて見るような佳純の蕩けるように甘い微笑みを見てしまい、また奥が締まる。ん、と喘ぎ、佳純は眉を寄せるがその顔も、いつもの彼からは想像できなかったもので…、僕がずっと、見たいと思っていたものだった。震える指で彼の頬に触れると、汗を流しながらも甘く微笑み、愛おしく唇を合わせてくれる。唇が触れそうな距離で見つめ合い、お互いに髪の毛をすいたり、汗を拭ってあげたり、じっくりと二人の時間を楽しむ。本当に、目の前にいるのは、佳純なのだと、この優しい指付きに再確認する。
「佳純…」
言葉が溢れそうになるのを、全部想いを込めて、名前にすり替える。彼も、甘い響きを持って、僕の名前を囁く。何度も、何度もそうした。
ずく、と彼が僕のナカでまた熱を持ったことに気づくと、その甘いやりとりを一度終わらせる。
「かしゅ、み…まだ、僕……たりない…」
たっぷり注がれたにも関わらず、既に僕のオメガはきゅんきゅん、と疼き、ナカにいる彼に愛らしくいやらしくオネダリをしている。彼は、僕の唇を舐めるので、その舌に吸い付くと、お互い舌を絡め合う。甘い唾液を分け与えられると、また爪先を突っぱねてしまい、腰を揺らす。
「ん、ぅ…もっ、と、ん…かしゅみ、で、ぁん…ぼくを、いっぱ、いに、してぇ…」
目を瞑ると、まざまざと彼の熱烈な舌や、凶悪に僕を作り替えていくアルファを感じてしまい、興奮と喜びに脳が思考を止めてしまう。じぃん、と身体の奥が温まると、溢れる精液とお互いの体液が卑猥な音を演出しながら、彼の抽送が始まる。佳純は、キスで翻弄しながら、合間に空いた手で胸への愛撫も繰り返す。
「ゃら!やら!そこ、やる、と、すぐ、ぁっん!ん!い、っちゃ、ああっ!いっちゃうからぁ!」
いつもの優しく甘やかしてばかりの彼からは想像が出来ない、乱暴なピストンに驚くものの、それだけ求められている現実にたまらなく興奮する。僕だけが、知っている今の彼。アルファの牙を剥き出しの獣のように貪る佳純への恐怖がさらに僕の身体を痺れさせる。その牙を見せないように、残ったすべての理性で優しく優しく僕に触れる佳純の微笑みと、血管を浮き上がらせノットを膨らませた性器で僕をこじ開け染め上げるものとの差異が、さらに僕をくらくらとさせる。あっという間に昇天した僕を攻め立てるように、どちゅどちゅと最奥をいじめてくる。力なく、口から喘ぎ声を絶え間なくこぼす。佳純は身体を起こし、僕の太腿に冷たい手のひらを当てがいい、腰を打ちつけることに専念する。長い前髪が水音に合わせて揺れ、汗が散る。目を固く瞑り、快感に睫毛を振るわせる佳純からは強いアルファのフェロモンが際限なく溢れてくる。
「か、すみぃ、あっ、あっぁ、か、しゅ、ぃっ」
手のひらを彼に向けてかざすと、それに気づいた佳純は、相変わらず眉根を寄せながら、眦を下げ、柔らかく微笑んで、僕の手のひらに沿わせて、指を絡めてくれる。ぐ、と力強く握りしめられると、より彼が僕を求めてくれている気がして、ナカがうねってしまう。それを受けて、彼のノットが膨らみ、ナカをごちゅごちゅといじめられると、佳純に三回目の射精が訪れる。ぐ、ぐ、とさらにナカに押し込まれ、ぶるぶると身体が痺れ、恍惚と彼を眺める。長い射精の快感に堪える彼のもう片方の手首に指を絡める。
「か、しゅみ…きて……」
彼は緩む頬のまま、素直に抱きしめてくれる。どくどくと、ナカで彼が脈打ち、同じように、ぴったりとくっつけた胸元からは心音が響く。
「七海…」
「…佳純…」
頬を擦り合わせ、お互いの匂いを、性を享受し合える、やっと訪れた今この瞬間にうっとりとため息をつく。
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