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第23話

 タクシーの中、各々窓際に座り、外の流れる風景を見つめる。夕闇に埋まる森は、底知れぬ冷たさがあったが、佳純の指が絡まる指先からは身体に向かってどんどん熱があがっていってしまう。さっきから、吐息が勝手に漏れる。内股をついさする様に足を合わせてしまう。早く、早く二人のあの家についてほしい。  佳純が手早く精算を済ませると力強く腕を引かれ、家に入る。真っ暗なロッジの中は、ヒノキの匂いで満ちているのに、僕の鼻は後ろにいる彼の匂いを嗅ぎ分けてしまう。さっきから荒い呼吸はだんだんと短いものになってきた。ソファの前まで来て、座り込みたい身体をなんとか立たせ、気持ち悪い感触の下着を脱ぎ落とした。ぺちょ、と水音をさせてフローリングの上に落ちる。彼が後から、室内に入ってくる。窓から漏れ出づる月光に彼が照らされると、視界がゆらゆらと雫で滲む。彼が選んでくれた浴衣を少し開くと、内股を伝う粘液がぽたりと床に落ちた。 「か、すみ…」  ぎ、と床が鳴り、彼がゆっくりと近づいてくる。頬を染め、息を荒げた彼は、必死に理性をかき集め、僕を抱きすくめた。 「あっ…」  彼の熱い体温と、一層濃い匂いに頭の中が歪み、また孔からどろり、と愛液が溢れた。頭の後ろに手が回ると、優しくソファの上に押し倒された。 「七海…」  月明かりが淡く僕らを照らす。すぐ目の前にある瞳は、情に揺らぎ、底深く美しく光っている。そ、と浴衣の中に冷たい手のひらが入り込み、肋骨をなぞる。くすぐったさに身を捩ると、突起をかすめてしまう。大袈裟なほど身体がびくんと跳ねると、彼は僕の一挙一動作も見逃さないように、じっとその熱い瞳で見つめているのだ。その熱さに背筋を電流が駆け抜けて、腰に響く。 「ん、んぅ…、は、ん…っ」  両手で弱い尖りをじっとりと、こねくり回される度に、腹の奥が重く痺れ、入口がくぱくぱと物欲しげに喘いでいる。着心地よく涼しい、素人の僕でもわかるほどの上質な浴衣がぞんざいに扱われ、どんどん尻のあたりが湿っていっていることがさらに背徳感を高めてじりじりと頭の奥を焦す。快感を耐えるように指を舐め、噛み締めると優しい彼は僕の指の替わりに自分の指を唇にあてがってきた。無骨な親指が唇にあてがわれ、むにむにと柔らかさを味わうように動く。それに吸い付くと、ぬ、と口内に侵入してくる。舌の弱いところをこしょこしょとくすぐられたり、頬裏を撫でられたりすると、涎を垂らしながら喘いでしまう。佳純は胸をいじっていた片手をするすると下げていき、僕のオスの部分を撫でた。強すぎる感覚に腰が大きく跳ねてしまう。両手ですがる様に彼の浴衣を無遠慮に握りしめると、きれいに着付けたそれは肌けていき、引き締まった胸元や肩が露になる。確かめる様に、浴衣の中に手を入れ、その肌を味わう。どくどくと脈打つ心臓をなぞり、彼の乳首に触れると大きな体躯が揺れる。そのお返し、と言わんばかりにオメガの部分を撫でられ、溢れる愛液を塗り込むように指が往復する。ぎゅう、と勝手に身体がそこを締め付けて、彼の侵入を心待っているようだ。ぽた、と頬に彼の汗が垂れた。それが頬から頭を通り、腰を通り、爪先までびりびりと甘い快感になって全身の情欲を高める。は、は、と合間なく息継ぎをし、ふるふると身体を震える僕を、眦を緩めながら見つめる。ちゅう、と彼の親指を吸い付いたと同時に、ぬ、と指が挿入され、弱いしこりを撫で付けた。その瞬間に目の前に星が飛び、身体が大きく痺れた。勢いよく僕の精子は飛び出し、彼の頬にかかる。佳純は垂れてきた液体を舌で掬い取り、口角をあげた。その艶かしい動作に後ろに入っている指をぎゅうぎゅうと締め付けてしまう。 「かしゅ、みぃ…」  涙をぼろぼろ零しながら、彼の指を舐めしゃぶる。名前を呼ぶとぎらつくその瞳で見据え、柔らかく微笑む。 「ちゅ、したい…ぎゅぅ、したい…」  お願い、と佳純の手をつかみ、頬を擦り付けて指や手のひらにキスを降らす。足を彼の腰に巻きつけ、ぐいぐいと、腫れ上がったそれにオメガを擦り付ける。彼の指先がかすかに震えたと思ったら、力の入らない身体を引き起こされてしまう。 「七海の全部、見たいんだけど…」  彼の膝の上に乗せられ、佳純の先っぽが下着越しにぐいぐいと押し付けられる。それだけで、身体の隅々まで快感が駆け巡る。 「ゃら…ちゅぅしたい…佳純と、ぎゅぅしたい…」  我慢できず、佳純の腕の力が抜けた瞬間に両腕を首に回して身体を密着させ、唇に噛みついた。はふはふ、と言いながら、彼の熱い唇を舐め回す。観念したように彼は僕のうなじに手を当てがい、舌を絡めてくれる。 「ふぁ、ん、んん、ぁあっ」  舌先に佳純のきれいな犬歯をたてられると、またもや勢いよく射精する。強い快感に彼の舌を吸い込んで、痙攣する身体が落ち着くのを待った。ちゅぽ、と唇を離し、彼の肩口に顔を埋める。屋台の油、物の焼けたにおい、花火の火薬のにおい、その奥から彼の脳髄をとろかす甘い匂いが溢れてくる。 「あぁ、あっ…ぁ……」  精は出ないのに、その匂いを嗅いでいるとぴくぴくと全身が痺れている。 「きょぉ、へん…」  ひや、と熱がたまりすぎている頬に心地よい手のひらがあてがわれ、顔を起こされる。熱い眼差しとぶつかるも、僕はもう何も考えられないくらいとろけていた。 「ずっ、と、きも、ちぃ…」  佳純が、やや瞠目し、く、と息を詰まらせた。柔らかく熱い唇が僕をふさぐと、瞼を下ろしてその恍惚さに酔いしれた。勝手に腰が動き、尻の後ろで反り立つ彼の大きなそれに愛液まみれのあれを擦り付けてしまう。 「ひゃ、ぁ、あっ、んむぅ、うぁっ」  は、は、となんとか酸素を吸い込む。そして、彼のもとにまた倒れ込み、ひたすらに腰を振る。 「かしゅ、み、かしゅ、みぃ、っ、いれて、いれて、よぉっ」 「ゃ、めろ、だめ、だっ」  勝手に動く腰を佳純が両手でつかみ、動きを阻止する。僕はそのありえない行動に目を見開いて涙をこぼす。対照的に彼は固く目を瞑り、眉根を寄せて耐えている。 「なんれ、なんれ、よぉ、っく、かすみ、ぼくじゃ、やなのぉ?」  ぐずぐず泣き出す僕に、佳純は表情を和らげてから、頬を包んだ。そして、前髪を撫でつけたり、耳を優しくいじったりして、微笑む。 「今日は、七海のこと、全部見てたいんだ」 「ん、んぅ…」  その優しい手つきが、愛情溢れるような指先で、うっとりとまどろんでくる。 「ちゅうもぎゅうも我慢するなら、いれてもいい」  佳純が、ふ、と口角を上げて笑うが、その瞳は獣のような熱い視線だった。あの佳純の口から幼稚語が出てきて、それにもまたいつもと違う興奮が募り、奥がぎゅぅ、と締まった。 「やらぁ、かすみと、ちゅうしたい、ぎゅうしたい…」 「じゃあ、挿入はなしな」 「あんっ」  佳純が腰を大きく揺らすと、孔を大きな肉棒が擦り上げた。 「やらぁ…かすみと、えっちしたぃ…ゃらよぉ…」  めそめそと泣き出す僕をあやす様に頬を撫でていた手は、首元を撫で、胸の小さなしこりを弾いた。その衝撃に身体が跳ねる。それがきっかけで、また愛液がどぷりと溢れ、もうほしくてほしくてたまらなく奥が疼く。尻に当たる灼熱の棒で、ナカを呆れるほど突き乱して欲しくなる。 「見せてくれるな?」 「…ゃら、けど…ぁんっ…ぅ、ん…」  じゅ、と乳首を吸われ、舌で転がされると、頷いてしまった。すぐさま、下着からその凶悪なアルファが、ぶるんと溢れ、濡れそぼったそこへ挿入された。体重がかかると、うっかりそのアルファは僕の奥に潜んでいたオメガを突き破る。会いたかったそれに、身体が全身をきつく締め付けて吐精した。それが終わるのを待たずに佳純が腰を突き上げる。 「ぁああっ、ま、っ、て、いま、イッ、てる、イッる、のにぃ、い、あっ、あんっ」  敏感になっている身体なのに、佳純は追い立てる。佳純の陰茎は僕の弱いところすべてをいじめる形をしている。身体はずっと快感の痺れを駆け巡り、放出出来ずにいる。それなのに、佳純はソファのスプリングを操り、僕の奥の奥に入ろうと腰を勢いよく打ちつける。ノットが膨らみ、より激しく小刻みな動きに変わる。彼のイク時の顔が見たくてなんとか瞼を上げると後悔した。彼は、劣情にまみれた艶めく瞳でまばたきせず、僕をじっと見ていたからだ。 「やら、やらっ、あんっ、あっ、み、なぃ、でえっ、あっああ、あっ」  恥ずかしくて目を瞑りたいのに、彼の瞳に捕まるとどうしても目線を外せなかった。ナカで、彼が大きく膨らむのと同時に僕は大きな快感の波に飲まれた。足は伸び切り、爪先は大きく痙攣していた。思わず僕は仰け反り、後ろに倒れかけたところで、佳純が抱き寄せた。ぶわ、と全身に甘い匂いが流れ込み、余計に痙攣を大きくさせた。僕の陰茎は何も出ないのに、痛いほど勃起しており、ぶるぶると震えていた。 「七海…っ!」  耳元で、呻くように名前を呼ばれる。痙攣するナカには、びゅうびゅうと熱い精子が注がれている。そして、ふいに鎖骨の辺りをがり、と噛まれて、ようやく僕は吐精できた。その瞬間に、そこじゃない…と朦朧とする頭で思ったのだ。噛んで欲しいのは、そこじゃない…。でも、声に出すことは気力がなかったせいか、なけなしの理性が働いたせいなのかは、わからなかった。  吐精できて、快感の渦が少しは晴れる。しかし、彼はまだ僕のナカで精を出し続けていた。佳純の頬を撫で、長い前髪をかき分けると玉の汗を浮かばせながら、まつ毛を震わせ、僕を呼び続けるその眼差しに、じわと欲が湧いてしまう。ちゅ、ちゅ、とその唇にキスをしてから、僕は腰を動かした。 「ぅあっ…ん…な、なみ…やめ…っ」 「あ、ん…ふふ…か、すみ…」  膝をついて、腰を前後にゆらめかす。いいところに当たってため息も出るが、それ以上に僕に喘ぐ彼がたまらなく唆るのだ。むくむくと僕の陰茎は勃ちあがる。吐精の勢いの減った彼を追い立てるように腰を上下に揺すり出す。 「ぼくに、いじわる、する、からぁ、あんっ」  両手を回して、身体を密着させながら、唇に舌を差し込む。震える身体で僕を受け入れるその扇情的な佳純に、どんどん腰の動きは早まる。ふーふー、と鼻息荒く身体を跳ねさせ続けていると、目元を手で覆い隠され、べりっと身体を剥がされてしまった。目元に月明かりが戻ってきて、彼の瞳とぶつかると鳥肌が立つほどぎらついていた。 「俺を攻め立てるなんて、覚悟出来てるよな?」  え、と声を出す前に、投げ捨てるかのように乱暴にソファにうつ伏せにさせられてしまった。声を上げる前に後ろから一気にアルファが押し込まれた。ヘソ裏の一番ダメな場所をごりゅ、と押しつぶされ、息がつまった。それでも、佳純は腰を止めず、今までかけられたことのないほどの圧をかけて、犯される。どちゅどちゅ、と粘り気のある液体が尻たぶにこびりつき、彼の骨とぶつかり合う。そして、奥の奥をごりごりと削り取るかのように押しつぶされる。 「ひ、あっああ!ごめ、ごめんなさ、あああっ!や、やらぁっ!とま、とまって!かしゅ、かしゅみ、いっいい!」  必死に彼の太腿に爪を立てて、止めるよう懇願するが、大きな身体が背中にのしかかると、肩口を噛まれる。何度も場所を変えて、食べられるのかと錯覚するほど、強く歯を立てられる。ぐ、と犬歯が食い込んだ瞬間に二人して絶頂を迎えた。僕の前は、さっきと同じで何も出すことなく、震えてるだけだった。身体は長く絶頂の渦の中にいる。  いつも、僕を優しく甘やかしてくれるだけの佳純から、こんなにも雄々しい乱暴な性を受けるのは初めてで、身体はずっと震えていた。それは、暴力的な佳純にではなく、あの温かい佳純から与えられる、初めて出会う強い快感に喜び震えていた。こんなに野性味溢れる佳純は初めてであったし、本能のままに自身を貪り食おうとする姿に、僕も本能で喜び乱れていたのだ。 「七海…」  耳元で、いつもの優しい佳純が甘く囁いた。ぐったりとソファに頬をつけていたが、彼が手のひらで顎を掬うと、促されるままに口付けをする。唾液を舐め取られ、じぃん、と甘い優しい疼きが芽生えた。 「か、しゅ、ん、み…ん、ん…」  慈しむように、何度も柔く唇を吸われると、うっとりと瞼を下ろす。佳純が吐精しながら、僕の身体を反転させる。僕は佳純の熱い身体にしっかりと抱きついて、甘い唾液を交換し合うように濃厚な口付けを交わす。腰が淡く、とちゅとちゅ、と動く。ちゅ、と下唇を吸って離れる。 「やっぱり、こうが、一番、しゅき…」  僕が頬を緩ませきって、そう呟くと、佳純も微笑みながら、頬を擦り寄せた。耳裏の濃い匂いをお互い分け合い、それぞれの身体にお互いの匂いでいっぱいになるよう、深く吸い込んだ。佳純の身体からは、より一層濃厚で勢いのよいフェロモンが発せられ、腰は淡く、奥を撫でるように動く。小さく喘ぎながら、佳純の唇に自分のものを重ねる。 「七海……」 「ん、んぁ…か、すみ…っん」  好き。  好き、好きだ。  言葉が溢れてしまいそうになるのを、唇をはみあって誤魔化す。  僕は、佳純が好きだ…  認めて、心の中で何度もつぶやくと、涙が溢れた。そこだけ避けるように首回りを噛みつかれ、うなじが佳純に気づいて欲しくて、じりじりと疼いていた。

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