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第6話

「それ……って……」 「ずっと前の事だけど……鷲尾くんが、僕の噂を『下らない』って言ってくれたの、聞いてたんだ」  蓮の噂。成績優秀で、先生から一目を置かれ、大学部への推薦も確定しているという蓮の、噂話。 「だ……って、なんか、そんなことって、なかなかないだろ? その……」 「色仕掛?」 「そ、そうだけど……」  蓮には噂が付き纏う。  成績優秀なのは、先生に性的なご奉仕をしているからだ、と。主要な先生方の『公衆便所』という呼ばれ方をしているのを、蓮は知っている。 「噂の出処は知ってる。あと、事実じゃないのも」  噂は、同じ学校に、通う蓮の従兄弟。  そもそもうちの鳩ヶ谷家は、蓮の兄が継ぐはずだったが、ちょっと微妙な展開を見せ始め、跡取り争いという前時代的なイベントが、勃発しつつある。  そこでライバルになるのが、蓮と従兄弟。本来ならば、本家の息子である蓮が有利だが、従兄弟は噂を流した。 『妾の子は性質も母親に似ていて、身体で以下略』  社交的で友好的な彼は。あくまでも『素行の悪い従兄弟の蓮を心配する風情』で噂を流しまくっているらしい。  跡取りには興味がない蓮には、どうでもいいことだ。 「なんで、否定しない?」 「噂の否定は面倒だから。それと、たまに、鷲尾くんみたいな人もいるし。まあまあ悪くないかな」 「お前、結構、良い性格してるんだな」  啓司が苦笑する。蓮は「まあねー」とだけ答えて、啓司に向き合った。 「だから、どうせ処理ってするんでしょ? なら、手伝わせてよ」 「その、『だから』がわからないよ」  啓司が困ったような顔をするが、完全に、拒否でないことは、蓮も薄々悟っている。 「理由……って、必要?」  蓮は頭一つ低いところから、啓司を見上げる。啓司が、一瞬、たじろいだのが解った。 「シェヘラザード姫の心境なんだけど」 『明日の夜はもっと楽しい話です』 「っ……!」  蓮は一歩啓司に近づいた。後ずさろうとして失敗したらしい。蓮は啓司の胸に手を当てた。シャツ越しの胸は、見かけより、ずっと筋肉がついている。しっかりした感触だった。鼓動は早くて、そして体は、熱い。啓司は、運動が得意だったはずだ。部活動をしているかまでは知らなかったが、引き締まった身体つきをしているのは、まちがいないようだった。 「心臓。すごく早いね」 「お。お前が、急に……」  口ごもりながら反論しようとしたのが、止まった。蓮が、そのまま手を、下の方へ移動させたからだった。胸から、腰をすぎ、そして、中心へ……。  啓司が息を呑んだ。喉が動くのがわかった。優しく撫でるだけ。そっと、柔らかな触れ方で。 「って……」 「ここも……少し反応してる」  手に伝わる感触は、確かなものになっていた。熱くて、張り詰めていく。 「僕的には……鷲尾くんが、気に入ってくれたなら嬉しいんだけど」 「気に入る?」  声の端が、少し掠れて震えていた。欲情の響きがあるように思えて、蓮の腰も甘く震える。 「僕のことじゃなくて……こういうことを」 「っ……その……」 「目でも瞑っててくれたら、誰にされてても一緒でしょ? それに、僕は……鷲尾くんを抱いてみたいとは思わないわけだし」 「そ、そう、なの?」 「うん。抱きたいとは思わないよ。だから、鷲尾くんは抜くだけ。なら、誰だって良いでしょ?」 「ま、まあ? そういうことなら?」  なるほど、と蓮は納得した。こういうシチュエーションならば、啓司のほうが、『される』側になりそうなものだ。だが、本当に、蓮にはそのつもりはない。 (どちらかといったら、抱かれてみたいけど……)  啓司には、そういうつもりはなさそうだ。だから、これ以上はない。それでも、いまは良かった。この先、もしかしたら触れて欲しくて苦しむのかもしれないけど。でも、きっと、恋人とかセフレのような関係にはなりたくない。 「じゃあ、今日は立ったままでするね?」

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