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 あんな事があって、さすがに放課後を皆と一緒に過ごす気にもなれず、鞄を担いで席を離れた。 「き、桐人っ。帰んの?」  後ろから知希に呼ばれて振り返る。少し眉を下げた心配気な顔。  まあ、俺が昼から機嫌悪いのなんか分かってるか。 「ああ、うん。今日は…」  お前とは一緒にいたいけど。 「あ…そっか…。じゃあ」  そんな風に残念そうにされると、少しは心が浮上する。  視線を泳がせている知希の後ろに、黒田が近付いてきた。    今こいつとは顔を合わせていたくない。  いくらなんでもまた同じ話を蒸し返したりはしないだろうけれど、顔を見るとイライラして精神衛生上よくない。  放課後1日分、もったいない気もするけど。  控えめに見上げてくる知希をちらりと見て、こいつだけ連れて帰れたらいいのにと思った。  そんな事不可能なのは解ってる。 「じゃ」  不安気な大きな瞳から目を逸らして、大股で教室から出た。  ぐずぐずしていたら教室に高橋が来る。  あいつにも会いたくない。  あの時、高橋さえ口を開かなければあの話の流れにはならなかったのに。  昼休みに集まっていたメンツの中で、俺に彼女がいた事を知ってたのは高橋だけだったから。  昇降口から出て、駐輪場に向かう。暑いからどうしても足が重い。  だらだら歩いていると、後ろから走ってくる足音が聞こえた。 「遠野っ」  思わず眉根が寄った。 「待ってよ、遠野」  なんでお前を待たなきゃなんないんだよ  振り返るのも忌々しい。そう思って迫ってくる高橋を無視した。 「ねえ、遠野ってば」  腕を掴まれて思わず振り払った。高橋の表情が引き攣る。 「何?」 「何…って」  苛々しながら高橋を見下ろすと、上目遣いで見上げてきてムカついた。 「昼休みの事、まだ怒ってるの?」 「高橋、お前何であの話したんだよ」  幸い周りに誰もいなかった。校舎裏にある駐輪場、まだ皆が帰るには少し早いからだろう。 「あれは…、そういう流れだったじゃん」 「んな流れ、乗る必要ねぇだろ」  話の内容的に、あまり人に聞かれたくはない。だから離れていると話しにくいのだけれど、近くに来られるのも嫌だった。 「でも遠野、別に隠してなかったじゃん、彼女の事。てゆーか、何? ああいう話、聞かれたくない人でもいるの?」  相変わらずの上目遣い。そりゃあ身長差があるから、そうなるのは仕方がないんだけれど、どうにも腹が立つ。 「そんなんじゃねぇよ。話のネタにされんのが嫌だったんだよ」 「…そんな事言って、ホントは森下に聞かれたくなかったんでしょ」  高橋が俺を上目に睨みながら言った。  こいつ、どこまで気付いてんだよ  俺そんな分かりやすかったか?  黒田とは同じ穴のムジナだからお互いすぐにそうだと気付いた。  じゃあ高橋はなんで…。  

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