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 高橋は友人としては悪いやつではなかったと思う。  最近はかなりムカついてはいたけれど。  だから、清清した、とまでは思わない。そんなスッキリしたもんじゃない。  まあ、殴って縁を切るのとあんま変わんねぇか  どうしたって後味は悪い。  いつの間にか蝉は鳴き止んでいて、運動部の連中の声と吹奏楽部の楽器の音が空に響いていた。  さっき俺が高橋に向かって言った台詞は、口調は違えどそのまま俺に返ってくる。  知希の声で。    重い足取りで倉庫の陰から出た。西日が強くて思わず顔を顰めた。  俺の自転車の、4台向こうに知希の自転車が停まっている。黒田の自転車もまだあった。  俺が帰っても、別にどうって事ないって事だよな。  いつも通りみんなで遊んで帰るのかな。  さっきは残念そうな顔してたけど、まあ友達なんてそんなもんだろう。  ガチャンと鍵を外して、自転車を動かした。  なんかすっげぇ疲れた  晩飯どうすっかな  こんな時でも、食事の心配をしている自分が可笑しかった。  誰かが作ってくれるなら、こういう思考回路にはならないんだろうな。  とは言え、別に強制されて料理をしてる訳じゃないけれど。  そう思っているとポケットの中でスマホが震えた。  父から、部下を飲みに連れて行く事になったから夕食はいらない、とメッセージが入っていた。    今日は弁当にするか? でも冷蔵庫の食材が傷むしな。    わざと食事の事ばかりに意識を向けて、他の事を、知希の事を考えないようにしている。  必死で考えないようにしているという事は、知希の事ばかり考えているという事だ。  帰りがけに見た知希は、何か言いたそうな表情をしていた。  昼休みの出来事を気に病んでいたのかもしれない。  あいつは何も悪くないのに。  お前は気にしなくていいよと、言ってやったほうがいいのかもしれない。  でもそのために、自分からあの話題を出すのに抵抗感があった。  案外今頃もう復活してるかもしれないしな。  そう自分で考えたくせに、じくじくと胸が痛んだ。  息が上手く吸えてない。  自転車のペダルがやたらと重い。  ちょっと気分転換に本屋にでも行こう。  自宅とは違う方向に曲がった。1年の頃はよくこうして放課後に本屋に行ったりした。  そう考えると、2年になってからどれだけ知希と過ごしていたのか、改めて思い知った。  まあ、明日にはまた、元通りだ。  多少の気まずさは残っているかもしれないし、高橋はきっとうちのクラスには来ないだろうけど、それ以外は昨日までと同じような状態に戻れるだろう。  そもそも俺があの話を知希に聞かれたくなかっただけだし。  だから大丈夫。そう自分に言い聞かせた。  涼しい店内をうろうろして、いくらか気が晴れて、また暑い中を自宅に向けて自転車を漕いだ。  陽が傾いて、空が夕焼けに染まっていた。  自宅マンションの敷地に入って、あれと思った。  エントランスの前に、見慣れた小柄な後ろ姿。 「知希?」  声をかけると、びくりと知希が振り返った。    

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