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第3話 いにしえの天使 其の三

「お疲れになったんですか? はいかんな。確かに俺は君の倍は生きている。だが年寄り扱いするにはまだ早い!」 「……は、はぁ」    曖昧に神璃(しんり)が返事をする。  今の自分の言葉使いが研究所幹部者に似てしまって、優也(ゆうや)はああいやだいやだとひとりごねだした。童顔を隠すために伊達で度の入っていない眼鏡をしているが、それでも歳相応に見られない時がある。彼らからしてみれば、肩書きが何にしても優也はまだまだ若造なのだ。   「すこし現実に帰ってきたみたいだな」 「……おかげさまで」    先程まで覇気のなかった神璃の表情が、少しずつだが元気な表情になりつつあった。  まさに()てられるとはこのことだろう。    『天使』という異名を持つ未知なる生命体は、今から二十数年前に、世界的遺産に登録されている遺跡から見つかったと言われてる。生命反応はあるのだが、これが果たして何なのか今現在も解明されていない。  特待生ということもあり、神璃にはこの謎の生命体の毎日のデータを取るという課題が出されている。  天使は元々『頭脳中枢(シンクタンク)』と呼ばれる研究機関の管轄であり、本来ならば佐々木優也を中心にチームを組んで研究が行われるはずだった。だが『天使』の肌はどんな刃物を以ってしても傷付けられず、またどんな薬剤も受付けることはなかった。何年もの間、何の変化も反応を見せない天使にいつしか『頭脳中枢』は研究対象物に対する興味と重要性を次第に失っていった。現に興味を抱くことが出来なくなり離れていった者もいる。  『頭脳中枢』は佐々木優也付きで尚且つ(さざなみ) 神璃(しんり)ならばという条件で特待生に対し、課題研究の一環として『天使』を明け渡したのだ。無論異例のことながら特殊セキュリティの登録者にもなっている。  神秘と人知を超えた美しい生命体と毎日にらめっこをしていては、夢心地になるのも無理はないだろう。   「──祐亮(ゆうすけ)と、いうらしいんです。あの天使」 「え」 「あんなに綺麗な翼も生えているのに……似合わないな」    耳を疑った。今、神璃はなんと。   「ちょ、ちょっと待て」    優也は神璃の肩を力強く掴んだ。  神璃が驚いた表情を見せていたが、おかまいなしに詰め寄る。    

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