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華やかなパーティの中で

 伯爵家次期当主にあたる、アンドレア様の誕生日パーティーに、たくさんの貴族がお越しになられた。記念すべき20回目ということもあり、専属執事の私は朝から大忙し。夕方からおこなわれるパーティーの最中も、まったく気が抜けない。 「カール、カトレア嬢のドレスが、ワインで汚れてしまったそうだ。代わりのものを、すぐ用意するように!」 「かしこまりました。カトレア様、どうぞこちらに」  アンドレア様は私に声をかけたあとも、カトレア様に気遣う視線を投げかけつつ、丁寧にもてなす。こういう所作を見る度に、この方に仕えることができてよかったと思える。 「あのカール様、聞いてもよろしいかしら?」  別室に移動後、カトレア様の体型に合うドレスを選んでいると、背後から話しかけられた。 「カールで結構ですよ。なんなりとお訊ねください」  ドレスを手にして振り返ると、カトレア様が神妙な面持ちで私を見据える。 「アンドレア様の結婚相手について……なにかご存知かしら?」  結婚相手という言葉に反応しそうになり、慌てて表情を取り繕った。 「申し訳ございません。一介の執事には、わかりかねる事情でございます」 「今は執事でも、もとは貴族なんでしょう? 確か男爵家だったかしら」 「はい。男爵家三男の生まれでございます」 「しかもアンドレア様の専属執事なのに、本当にご存知ではなくて?」  理由付きで知らないことを告げたというのに、しつこく食いつかれることに、内心うんざりした。それを表情に出さぬよう、真顔を決め込みながら口を開く。 「大変申し訳ございません」  深く一礼したのちに、カトレア様にドレスを手渡し、了承を得てからメイドを呼び寄せ、着替えていただいた。その間、扉の外で待つ。カトレア様が着替えた後は、私がパーティー会場にお連れしなければならない。 「アンドレア様の結婚相手の候補が、大勢いらっしゃるせいで、誰なのかさっぱりわかりません」  彼が16歳になったあたりから、伯爵家次期当主にふさわしいご令嬢の紹介が増えていくのを、目の当たりにした。  アンドレア様がお相手の写真を眺めたり、直接逢瀬するお姿を垣間見るたびに、胸が締めつけられるように痛んだ。そのことで、自分がアンドレア様に好意を抱いていることを知った。 「男爵家の三男で執事の私が、アンドレア様に邪な想いを抱くだけでも罪なことなのに、結婚相手を妬くなんて、大それたことをしてはならない」  言葉にしてしまうと、なおさら意識するというのに、口に出さずにはいられなかった。だって私はアンドレア様に、この世で一番近い距離でいられる、専属執事なのだから。  その後も次期当主たるオーラを漂わせて、来賓に接する彼の背後で、自分の想いをひた隠しながら、仕事に全うしたのだった。

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