1 / 1
怖がりケーキは年上フォークにおなかいっぱい食べられたい
「んっ、う……しゅうちゃ、柊ちゃん……っ」
「どうしたの、繭。怖いならやめようか?」
「うっ、でも……っでも」
「ほら、こんなに震えてる……無理しなくて良いからね。また今度にしよう」
「あ、でも……っ」
そう言って、この前もそのまた前も――ううん、もう何年もずっと、繭 が怖がるたびに柊 は途中でやめてくれた。
フォークである彼にとって、それはとんでもないストレスのはずなのに、柊はいつでも繭を優先してくれる。
それが、繭の心臓の柔らかい部分をいつもゆっくりと締め付けた。
「繭、そんな顔しないで。焦らなくて良いんだよ。こんなに泣いたら目が溶けちゃうな」
指で掬った繭の涙を柊が口に含む。
「美味しい」
うっとりと向けられる笑みに、繭の体はぞくぞくと震えて、熱くなった瞳の裏からまた涙が溢れ落ちた。
この世界には、男女の性別の他に『ケーキ』と『フォーク』という性質を持ったものが生まれる。
『ケーキ』とは生まれつき『美味しい』と称される人間のことで、対して『フォーク』はそのケーキを『美味しい』と感じる人間のことだけれど、世界の人口の大半はそのどちらの性質も持たない『その他』の人間だ。
というのも、『ケーキ』は自分がケーキであることに自発的に気付くことはなく、『フォーク』に出会わなければ自分がケーキであると知らないまま一生を終え、一方の『フォーク』もまた、後天性に発症する性質のため、たとえ潜在的にその特性を眠らせていたとしても、目覚めることがないまま一生を終えることが多いからだ。
繭だって、あの日あんなことをしなかったら、自分がケーキだなんて一生知らずに『その他』の人間として生きていっただろう。
そして、それは柊も同じだ。
「繭?」
息が上がる。はぁはぁ、苦しくなって、繭はぎゅっと柊の腕に縋り付いた。
「柊ちゃ……」
「ああ、そうか。何もしないでも辛いね」
繭の背中に移動した柊の脚の間に後ろ抱きに挟まれる。
慣れた姿勢にほっと体の力が抜けると同時に、もたれかかる繭の耳には柊の優しいテノールが触れた。
「繭、少し我慢できる? ほんのちょっとだけ、食べてもいい?」
いつもと同じ。すこぉしだけだよ。と耳元で囁かれて、縋り付いた腕に額を擦りつけるようにして頷く。
「ありがとう」
お礼を言うのは、繭の方だ。
『食べてもいい?』なんて、柊はあたかも自分の欲を優先させるような言い方をするけれど、この行為は別に柊のためではなかった。
(まゆが、柊ちゃんに食べてもらわないと、いけないから……)
だから、柊は繭に付き合ってくれているだけ。
もちろん、フォークである柊にとって、これが少しも無駄な行為ではないと思うし、フォークとしての欲を満たすおやつくらいにはなっていると思う。
けれど、柊が自ら望んでしているわけではないのだと、繭は自身にいつも言い聞かせていて、そう自分に暗示を掛けるたびにひどく悲しくなってしまうのだ。
「繭?」
目尻に溜まった涙を、柊の唇がちゅうっと優しく吸い取っていく。
触れた唇はこめかみを伝い、頬を食んで、緊張に滲む汗を舌の先で絡め取った。
「んっ、う、……う、ぅっ……ふ」
「繭。ぎゅってしないで。傷ついちゃうから」
きつく丸まった拳を解すように、柊の指がトントンと優しく甲を叩く。重なった手のひらが円を描くように小さな拳を包み、指の一本を摘ままれて繭はびくりと背を丸めた。
「ひっ、やっ……!」
「ああ、ごめん。痛かったね?」
繭の右の人差し指のちょうど第一関節の辺りには、まるで指輪のようにくっきりと痕がついていた。一見タトゥーのようにも見えるそれは、歯形だ。
もう随分前についたものだというのに、それは一向に薄くなる気配はなく、繭の細い指に何かの証のように残っている。
触れられてももう痛くない痕に過剰に反応してしまうのは、繭の性格の問題だった。
繭は怖がりで、痛みにひどく敏感だ。
幼い頃から少しの刺激にも大泣きをして、それは成長し二十一歳になった今でも大きくは変わらない。
未だに注射の針が怖くて一人で病院には行けないし、輪ゴムが弾ける程度の痛みにだって泣いてしまうくらい。
柊はきつく握りしめた繭の拳を解くように、人差し指を軽く摘まんで撫でただけだ。それだけで痛みなんか感じるはずもないのに、繭の体は最初の痛みを思い出して、過剰に反応してしまう。
「ふっ、え……しゅう、ちゃ……ごめんなさ……っ」
こんな大人になってまで泣き虫で、恥ずかしい。
ごめんなさい。ごめんなさい、柊ちゃん。
(繭のお世話をさせて、ごめんなさい)
柊を独り占めして縛り付ける、ケーキの中でも特殊な自分が繭は嫌いだ。
「繭」
ちゅ、と首の後ろに吸い付かれて、吐息が漏れる。
「ぅ、……ふっ」
柊の舌はいつもやさしく繭を味わってくれて、肌を伝うあたたかさにとろとろと思考が溶け出してしまう。
「はぁ、ハ……っしゅ、ちゃ」
徐々に弛緩し始めた隙を見逃さず、柊の足はゆっくりと繭の脚を開かせていった。
ルームウェアのハーフパンツを下着ごと脱がされても、ぼんやりと惚けた繭はされるがままで、抵抗とも言えないわずかな身じろぎだけが柊の体を押す。
「うン……っん」
「繭、こっちも触るからね」
すでにぴんと張り詰めたペニスに触れられて、跳ねた脚を絡んだ柊の脚が押さえつけた。
「あっ、あ……!」
「ふふ。もうとろとろになってる……いっぱい出してくれて嬉しいな」
小さく丸めた指の輪で絞るように擦り上げられて、繭はカクカクと内腿を震わせた。
「あぅっ、アッアッ」
与えられる快感が怖くなった体が無意識に逃げようとしても、後ろから抱きしめる柊の腕が真綿のように優しく繭を拘束して逃げ出せない。
「んぅっ、しゅうちゃ、しゅうちゃ……ぁん、もっいや、やぁ……っ」
柊はいつも優しいけれど、これをするときだけは、繭がいくらぐずっても宥めるばかりでやめてはくれなかった。
「繭、まゆ。力抜いて、ね。この前の気持ちいいところもしようね」
双球を揉んでいた指がぐしょぐしょに濡れた渡りを通り、慎ましく閉じた蕾に触れる。
柊の指を知るそこは、少し突かれただけで嬉しそうに口を開き吸い付いた。
「あん、ンッ、ひ」
びくっと大きく跳ねた脚を、柊の脚が押さえつける。
「ゆっくり、集中して。……そう、良い子だね。気持ちよくなるよ。ほら、気持ちよくてお尻揺れてきちゃったでしょう」
蜜を泣き零すペニスを擦りながら、隘路を開く柊の指は優しいようで強引だ。
にゅぷ、くぷと確実に中を広げながら容赦なく愛珠を捏ね愛しいケーキに甘い蜜をたっぷりとかけていく。
「まゆ……」
荒げながらうっとりと唇を舐めるフォークの顔も、繭には見えない。
「んっ、ン……ぁ、ん、あ、ン柊ちゃ……しゅうちゃん」
何の抵抗もできず、くったりともたれかかる頃には、フォークに捕食される悦びで繭はいっぱいになって、恥ずかしさも何もよくわからなくなっている。
「ふっ、ぐす……っぅう、ン」
「はぁ、っ……まゆ、お口開けて」
「んっ、ふ……っん、む」
後ろから強引に口づけられて、舌を絡められたと思ったらぢゅるぢゅると容赦なく唾液を吸いあげられた。
「まっ、て、まって、しゅうちゃ、まって、こわっ、こわ、ぃ……ッ」
思わず腕を突っ張って顔を背けると、互いの唾液で濡れた柊の唇が宥めるように首筋を這った。
「大丈夫だよ。こっちにおいで、もたれかかって。そう……もう怖くない」
「ひっん、ン……っ」
「まゆ、かわいいね。美味しそうな匂いがいっぱい……堪らないな」
れろ、と耳の後ろの敏感な部分を舐められて首が竦む。
何度も舐められて、時折囓るように歯をあてられて、繭は怖くなって涙を零しながら身を捩った。
「あっ、しゅうちゃん、だめ、まって、いや、いや……っはなして、こわいの、出ちゃう、いや、アッアッ――」
「はぁ……っ、ぐちゃぐちゃのまゆ……」
かわいい、美味しそう。
呟きながら、柊は繭の涙を舐めた。
舐められて、囓られて、ペニスは扱かれたまま中の襞もこね回されて、繭は恐怖と快感にもがく。
「このまま、イッて。イけ。ほら、出して、まゆ」
「ひゃっ、ひ……っあう、ぅン――……ッ」
羽交い締めにされたまま、がぷ、とうなじに歯をあてられて、繭はぎゅうっと体を強ばらせた。
びゅっと白濁が散り、頭が真っ白になる。
ころんとひっくり返されて、そのままペニスをしゃぶられる。根元まで呑み込こまれて、溢れる精を搾り尽くす勢いで吸い付かれて、繭はぎゅううと背を丸めて弾けさせた。
「ン……とっても美味しいよ、まゆ」
大きく波打つ腹に柊の舌が這い、飛び散った精液までも綺麗に舐め取られる。指をべったりと汚した蜜を舐めながら、柊はうっとりと自分のペニスを扱いていた。
「はぁ、はぁ……しゅう、ちゃん……しゅうちゃ」
「大丈夫だよ、まゆ。ここにいるからね」
抱きしめられて、ほっと力が抜ける。
びゅるる、と腹のうえに吐き出された柊の精が熱い。
「ごちそうさま」
人差し指に、今日もじくじくとした痛みを感じる。
このまま、柊の好物が自分だけになればいいのに。
ずるい自分を誤魔化すように、繭はちいさく「しゅうちゃん」と呟いた。
ともだちにシェアしよう!