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帰還の確信と解呪

 感動の再会は、夕食が過ぎても冷める事はなかった、  蒼真がこんなに明るいのを本当に喜んでくれたさらは、彼女自身日本に住んでいたことあるという腕で、圭吾の好きな日本食を作ってくれた。  それを喜んで頂いて、今は食後の一杯の時間。 「蒼真はね、圭吾(あなた)が亡くなったって聞かされてからは、それはもう人が変わっちゃってね、いい子だったのよ」  今だから言える冗談だが、実際の話、『ご飯よ』と言われれば素直にすぐ来るし、『お風呂に入ったら?』といえばうん…といってすぐに入るような生活だったのだ。  その他の時間はずっと、あの窓辺に座っていたのだが。 「何言ってんだよサラ!」  いい子のフレーズに慣れていないのか、蒼真の頬が染まる。 「だってほんとのことだもの。あなたもっとやんちゃじゃない、本来は」 「ヤンチャって!」 「でもこれでまはやんちゃに戻っちゃいそうだけど、高梨さんがいれば大丈夫ね」 圭吾を見てサラはほほえむ。   「面倒を押し付けられるからだろ」  姉弟喧嘩のような言い合いに、トシヤが苦笑した。 「トシヤ!面倒ってなんだよ!」 「それはそうよね〜面倒ごとはごめんだもの」 「サラまで!」  一度トシヤに来るかと思った蒼真の騒ぎは、ふたたびサラの方へ戻り、騒いでは軽くいなされている蒼真に圭吾もつられて苦笑してしまう。 「でも本当に良かったよ。あんな蒼真はもう見たくない…」  サラとギャーギャーやり合っている蒼真を見て、トシヤが呟いた。 「ご迷惑をおかけいたしました…」  圭吾は神妙に頭を下げた。 「いや、あんたのせいじゃないし、そう言う意味でもないんだけどさ…そんだけ蒼真の中のあんたが大きいってことだよ。大事にしてやってくれ」 「はい…」  トシヤの背景として翔が言っていた『顔が効く』と言うのは話を聞いてみたら、シドニー近辺の暴走族のトップ3の1人だという。  トシヤは圭吾より3歳年上なだけであるが、人生の場数の分だけ圭吾もいい加減年齢よりは落ち着いているが、トシヤの言葉には重みがあった。一言一言に軽くは返事ができない迫力も備えている。 「しかし、サラが言うように蒼真(やつ)はやんちゃではあったけどいつもどこか張り詰めていて、見てるこっちが苦しかったよ。日本で何があったかは俺たち聞かないけど、今はそれが無くなって…なんて言うか…『ただの』やんちゃ坊主になったな」 ーなんていっていいかわかんねえけどさーと笑うトシヤに、圭吾も笑い返すが、確かに今日久しぶりに会ってからの蒼真は、以前と違ってなんていうかこう… 「生意気さが一枚剥けたと言うか、ギスギスしたところが無くなったっていうか…安心したんでしょうね」 「そうそう、結構キツかったよな」 「ええ」  そう言う感じだった。そうして2人して笑い合ってると、 「何2人してコソコソ笑ってんの」  蒼真が言いながら、圭吾の足元に座り込んできた。 「お前の悪口言ってたんだよ」  と、トシヤが蒼真の口にあーもんどのちょこを突っ込んだ。それを唇に挟みながら 「ほんほは?へいほ」  と圭吾を見上げるが、圭吾はそのチョコを外して 「食ってからしゃべるか外してから喋れ」  そして自分の唇に咥えた。 「本当に悪口言ってた?」  蒼真の言葉に頷いて 「ほんほは」   と応えると 「圭吾も外してから喋れ!」  と立ち上がって、圭吾の口元から口でチョコを奪い返すという暴挙に出た。 「っつ」  そして次の瞬間には、圭吾が口を押さえる光景が…。 「悪口のお礼だ」  ベッと舌を出して、蒼真はアーモンドをカリッと噛み砕いた。 「どうした?」  とトシヤが問うと 「唇を噛まれた…」  と、呻いている。 「キャハハッ!蒼真やるー!さすがやんちゃ坊主」 「サラ、酔ってんな」  ケラケラ笑うサラに、今度はトシヤが眉を寄せた。  なんだかドタバタしてきた様相だが、当事者の蒼真は1人離れてしれっとビールを飲んでいた。 「部屋に風呂ついてるから勝手に使ってくれ。蒼真と一緒の部屋でいいんだろ?」  そう言うトシヤにーはい、お世話になりますーと礼をして、圭吾は蒼真に連れられて部屋へやってきた。 「やーっと落ち着いたな」  こっちのセリフだ、と圭吾が言いたくなりそうなことを言って、蒼真はベッドへ飛び込む。 「シャワーを使わせてもらうが、先でいいか?」  ベッドに転がる蒼真に一応聞いて、圭吾はタオルを手にした。 「入るき満々じゃん。いいよ、お先にどうぞ」  手をヒラヒラと振って、行ってらっしゃいと見送る蒼真は、身体を回転させて、ベッドへうつ伏せになる。  そしてジーッと圭吾が歩いて行った方をみつめていた。  トシヤの家は、シドニーから車で1時間ほどの郊外にあって、周りが最低限の整備しかされていない自然保護区の端っこにあった。  レンタルした車で来たから、砂に塗れることはなかったが、それでも少し気になっていて、先にシャワーを浴びたかった。  シャワーをぬるめにして頭からかぶる。  上から流れる水を見ながら、圭吾は今漸く蒼真と再開した実感を感じていた。  長かったのだ。たった8ヶ月…だが何年にも感じる長さだった。今日まで一体何年かかったんだ…という魔法にかかったような感じだ。  全身がとりあえず流されたのを確認して、湯温を上げたところに 「使い方、解る?」  と蒼真の声。声の方を向くと、既に服を全部脱ぎ捨てた蒼真が立っていた。 「解ると思うが、それだとお前が風邪をひきそうだからな。細かいところがわからないかも知れない」  と言って蒼真に手を伸ばした。 「すごい傷だな…」  ボディシャンプーの泡をそうっとそうと伸ばしながら、傷に触れる。 「もう痛くはないから、そんな怖そうにしなくても平気だぞ」  傷に遠慮がちな蒼真に圭吾は笑った。 「カマクラの翔の知り合いの医者って、カーシーのとこ?」 「ああ、お前の話にも少し出ていたから名前くらいは覚えていた」  蒼真は圭吾の金髪をカーシーに重ね、優しい顔を思い出していた。 「カーシーは、MBL(ラボ)ではハワードに並ぶほどの腕を持つ優秀な外科医だったんだ。だけどハワードのあの実験にかなり反発してたらしくて、俺たちがあそこを出てすぐに、MBLを出たみたい。何度か訪ねて聞いたんだ。でも、実験が実験だっただろ?だからカーシーには自宅周辺からネットの中まで、ハワードの監視がすごく付いたみたいなんだけど、カーシーはそんなこと言いふらすやつでもなかったからね…」 「それで、カマクラで開業医を始めたんだな」 「うん。…で、カーシーはこの傷なんて?」 「人工スキンで跡形もなくなる、とは言ってくれたけれどな」  蒼真はホッとした。カーシーほどの名医が治せない傷を圭吾に残してしまったと思いたくなかった。  蒼真はお湯を流して、ケロイド状になったその傷に頬を付けた。 「いつか、俺が治してやるからな…」  圭吾はそんな蒼真を背中から前に来させて、 「何をそんな感傷的になってるんだ?女じゃないから傷の一つや二つ俺は気にしない。それより、久しぶりに会って…他にすることあるだろ?」  ん?と両頬を挟んで言われて蒼真も苦々しくも微笑む。  圭吾は軽いキスをして相馬を抱きしめた。  バスローブをきた圭吾がベッドに座っている。  圭吾よりも少しだけ遅く上がってきた蒼真は、腰にタオルを一枚巻いただけの姿で圭吾の前にたった。 「ちょっとぬるいけど、飲む?」  とビール瓶をちょいっと上げて、首を傾げる。 「ああ、頂こう」  と手を伸ばしたが、蒼真はそれをそっとよけてー飲ませてやるー と圭吾の膝の上にまたがりビールを口に含むと圭吾に口移しをした。  圭吾の喉が上下すると、蒼真は満足そうな顔を浮かべる。 「もっと…飲むか?」  圭吾は黙って首を振ると、蒼真の手から瓶を取り上げベッドサイドのテーブルへ置いた。  そして腰を引き寄せると 「そんなに、いじめるな…」  言いながら、唇を重ねた。  ひとしきり唇だけを味わうキスを交わし、離れると、蒼真は目線を圭吾の唇に落とし 「いじめてるつもりはない…んだけど…」  その間も背中や、既に剥ぎ取られたタオルの下の膨らみ等を撫でられて、それに酔いながら言う。 「けど…?」  圭吾の唇は、蒼真の耳の後や首筋やらを這い、手の動きと相まって蒼真を翻弄していた。  意地悪なのはどちらかと言えば… 「ん…どうしていいか…」 ーわかんなくなっちゃった…ーと圭吾をそっと引き寄せて抱きつく。 「お互い長い間…触れ合えなかったからな…」  とそう言って、圭吾は蒼真にキスをした。  舌を絡め、深く唇を貪り、そして息を交換するような熱いキスをした。 「すぐに思い出す…」  圭吾は蒼真を抱き上げて、ベッドへそっと横たえた。  足を手繰られて、蒼真の身体が反応する。  高く上げられた足は、その内側に舌を這わせられ、何度も何度も反応を繰り返す。  一度圭吾が触れた中心は、それ以降放置されているのだ。 「け…ご…はぁ…あぁイかせ…んぅ」  足を舐め下ろしてきた圭吾の舌は、決定的なところには触れずに足の付け根やその周辺をゆっくりと徘徊している。 「ね…もう…たの…むから…あぁ…」  首を振って、そこへの刺激を望むように蒼真の腰が揺れていた。  その光景は圭吾にとっても扇情的で、何ヶ月かは覚えていないが、離れていた期間の長さを思い知らされる自分自身の限界。 ー仕方ない…かー  圭吾は抱えていた蒼真の足を下ろし、腰を両脇から掴んでゆっくりと蒼真の中へと入って行った。 「んっ…あぁあ…あ……」  期待とは違った快感が押し寄せて、蒼真は戸惑ったがなんだか安心感が広がった。  ずっと疑っていたわけではない。さっきまで触れてたし、食事もしたし、チョコも取り返したし…でも今の一瞬で、蒼真は圭吾の帰還を実感した。 「あっあっああっ…んっあぁ」  蒼真の足を再び肩にかけて、圭吾は蒼真を揺らしながら自身を蒼真に打ち付ける。  とにかく一度感じ合わなければ…そう言う思いがあった。  蒼真の手が両脇のシーツを握りしめている、唇を舐め、時に唇を噛みながら喘ぐ蒼真が圭吾には堪らない。 「ああっあ…んっ…」  蒼真の身体を深く折りまげてキスをする。それを蒼真は待っていたかのように首にしがみつき、折られた苦しさよりも唇を合わせる快感に身を寄せる。  その間にも圭吾は蒼真を苛み続け、そして仕上げとばかりに自分との間で張り詰めていた蒼真の中心に手を添えた。 「んんっぁっああ」  二つの快感に蒼真は唇を離し、喉を大きくのけぞらせる。そのラインに見惚れながら圭吾は蒼真の足を下ろし、蒼真へ刺激を与えることに専念をする。勿論『蒼真』に添えられた手もそのままだ。 「けい…ご…あ…もぅ…あっあっああっだっだめだ…も…ああっ…」  蒼真は激しく痙攣し、圭吾の手の中で弾けた。圭吾はイきついた蒼真を愛おしく見つめながら、自らの腰の動きを速め、そして蒼真の中へと自分を解放した。 「が…まんが…はぁ…きかない…」  荒い息を吐きながら。余裕のなかった自分を蒼真は笑う。 「お互いな…」  蒼真が出したものを指で掬って舐めながら言う圭吾に、 「余裕あるじゃん…」  と ティッシュを数枚投げて悔しそう。 「まあ、仕方ないだろうな…。こんなに感じあう奴と何ヶ月も離れて居たんだから…」  蒼真が起き上がって圭吾の頬に手を当てる。 「まぁ…これからと言うことで…」  蒼真は息も治らないうちにそう言って笑うと、拭うために座っていた圭吾の足の付け根に顔を落とした。 「そっ…」  一瞬驚いた後、自身をつつむ滑った感覚に息を詰める。  吸い上げる音や蒼真が息を継ぐ吐息、そして追い上げてくる快感に、圭吾は頭が痺れるようだ。  しかしやられっぱなしは性に合わない…とベッドの上で圭吾を苛んでいる蒼真のバックに指を差し込み緩く出し入れを始めた。 「っ!んっっ」  思わず口を離し、いきなり来た切ない感覚に蒼真は圭吾自身に頬を寄せていた。 「もういい…蒼真…」  圭吾は蒼真を起こし体勢を変え、四つに這わせる。腰は圭吾に向けるようにして… 「なに…」  圭吾から離されて不満そうな蒼真だったが次の瞬間に甘い声を洩らさざるをえなかった。  圭吾の舌がバックに入り込んでいる。  指でももちろん性器でもない、舌の感覚は蒼真は初めてだった。  右手はふたたび蒼真自身を擦り上げ、バックへ舌を這わせる圭吾に、頭をシーツへとおしつけ、咽び泣くような…細い声を上げ続ける。 「っ…ぁ…ぁぁ…んぅ…はぁ…」  味わったことのない感覚に蒼真はどうしていいかわからず、腰を揺らし、少しの羞恥心にシーツを顔に寄せてしまった。  舌を離してその光景をみた圭吾は、笑って蒼真の双丘を撫で上げ、そして 「蒼真……来い」  と、蒼真の上半身を後むきに起き上がらせ、腰を掴みそのまま緊張し切った自分自身の上へと落とし込んでいく。 「うっ…あぁあ」  圭吾の肩に頭を預け、その侵入に身をすくめた。  自分の体重で圭吾を受け止めた蒼真は、衝撃に身体をこわばらせていたがほんの少しだけ息を吐いたら、そこから深くため息を出す。 「そう…息を吐いて力を抜いて…上手だ…」  蒼真の腰を持って揺らしながら、圭吾は耳元で囁いた。 「きゅ…うに、んっ…ひどい…よ」  うなじに感じる圭吾の舌に酔いながら、うっとりと蒼真は言う。 「欲しかったんだろ?」 「そりゃあ…」  圭吾に揺らされる腰の動きと、深く穿たれた圭吾自身が身体の中からじわじわと得体の知れない感覚をもたらしてくる。 「………はぁ…」  漸く慣れた感覚に、蒼真は気持ちの良さそうな息を吐き、圭吾の肩に頭を乗せて腰をゆらゆらと前後に揺らした。  圭吾は安定した蒼真を確認して、再び蒼真の前に手を回し、蒼真自身を擦り上げ始めた。 「んっ…」  さらなる快感に口元を綻ばせ、顎を上げる。こすりあげられているモノは、角度を最高までに達し、指の感覚に後は上り詰めるだけ… 「んっんぅっけ…ぃご…圭吾…あっああんっけい…あ」  何度も名前を呼んで圭吾を確かめる蒼真を、圭吾は片手で抱きしめて、その耳元に 「ここにいる…ここにいるから…」  とこちらも何度も囁き返していた。 「でも…けいご…これ…や…だ…やなんだ…」  胸を弄んでいる圭吾の手に手を重ねて、蒼真は動きを止めさせる。 「どうした…?」 「顔が…顔が見えないと、怖い」  その言葉にーバカだなーと優しく囁いた。 「ずっとここにいるぞ…大丈夫だ…」  そう言って蒼真自身から手を離し、後ろからキツく抱きしめてやった。 「ダメなんだ…圭吾がいなかった時でも、声だけは思い出せた…。けど、本物の圭吾だけは感じられなかった…。消えそうで怖い…から…真っ直ぐに俺を見てよ」  こんな時だから素直なのだろうが、こんな時の素直さだからこそ…本当の感情だ  圭吾は一度蒼真を自分の上から外し、ベッドへ寝かせると 「消えやしないよ…だから、しっかり俺を感じろ」  侵入しながら圭吾は蒼真の頬にキスをした。  圭吾にしっかりとしがみついている蒼真は、激しい突上げにも腰を合わせる。  極まりそうになっては躱され、蒼真は知らず涙ぐんでいた。 「一緒に…いこ…けいご…一緒に…」  熱い頬を合わせたまま、蒼真は足を圭吾に絡める。 「あっあっああっ………んんんっ…あぁ…」  突き上げる速さに蒼真の声が同調して、そして…2人は同時にはてていった…  激しく求め合うのも確かに良かったのだが、今こうして静かに抱き合っているのも、とても気持ちが良かった。 「本当に圭吾だ…」  圭吾に抱きついたまま、蒼真がつぶやく。 「まだ疑ってたのか?」 「そう言うんじゃないんだけど…なんか…ああ、圭吾だなって…」  なんだそれは…と笑って、圭吾は蒼真を抱きしめた。 「記憶障害ってどの程度だったんだ?」  圭吾の腕の中で、頭を上げる。 「自分が誰か…と言うのは解っていたんだ。ただ、その他 のことが全くな。なんていうか、何でここにいるんだ?という感じで…。ジョイスと翔の事も、聞き覚えはあるんだが、と言う感じで」 「それはもう、完璧な記憶喪失じゃないか…」  そうなのか?と圭吾は今更ながら驚く。よく戻れたなと。  そして思い出した記憶の一片に、伝えようか迷っていたことがあったことも今思い出した。  横になりながら目線を天井へ向け、圭吾は話し始める。 「言わずにいようと思っていたことがある。でもこれは、記憶が戻った後でも欠損がなく戻った記憶だから、伝えなければいけないんだなと思って…今から言うが…」  圭吾にしては歯切れの悪い話し方に、蒼真も黙って聞いていた。 「この事は、翔と俺しか知らないことだから、誰にも聞いていない話だと思う。2人して爆発に巻き込まれた理由というのは…ハワード・リーフのせいなんだ」 「え?」  蒼真は起き上がって圭吾を見つめた。 「何言ってんの…?ハワードは俺たちの目の前で…あの奈落に…」 「ちゃんと話もして、翔も見ている。あの時死んだと思ってたのは、やつのクローンだった」  そんな…と蒼真は呆然とした。 「自分から何もかも奪った蒼真への復讐に、俺と翔を殺そうとしたんだ。勿論ハワードが爆心なんだから、今度こそ本当に死んだが、そのお陰でお前のことも、翔もジョイスも忘れてしまったらしい。俺もかなりショックだった。まさかハワード・リーフが生きていたとは思ってもいなかったからな…」  ぼーっとしている蒼真の手をとって、圭吾は 「でももうハワードは完全にいない。大丈夫だ」 と強く見つめてやった。 「こうして、俺も翔も助かって生きてる。蒼真も1人じゃないだろ」 「ハワードか…往生際の悪い奴とは思っていたけど、それほどとは思わなかったぜ」  無理にではあったが、笑って蒼真はそう言った。 「そうだな」  ハワードの話をしても前ほどの反応をしなくなった蒼真に安堵して、圭吾も起きあがると 「そんな事より」  と話を変えた。 「翔とジョイスの、できたか話…だけど…」 「え!聞きたい聞きたい!出来たのか?」  途中で食い気味に言葉を取って、蒼真が身を乗り出す。 「いや、聞いていない話をしようと…」 「なんだよ!聞いてないのかよ〜」 お前が先走るからだと圭吾は笑った。 「あの爆発が起こった日は、翔とジョイスが送別会を開いてくれることになっててな、そこで聞き出してやろうとおもってたら、今日になってたってことだ」 「まったく!どこまでも憎いのはハワードだな!」 「全くだ。悪いことは全部あいつのせいだ」  圭吾の言葉に2人は爆笑する。  ひとしきり笑って、もう一度シャワーだけでもと準備を始めた圭吾は思い出したように離し始めた。 「蒼真、暫くしたらここを出てシドニー近郊に部屋を借りよう」  急なことに蒼真は目を見張らせた。 「なんで?ここでいいじゃん」 「そういう訳にもいかないだろう。いつまでもここで世話になる訳にはいかないし、それにジョイスが今、俺のこちらでの委任状を取り付けてくれているはずなんだ。だから引っ越したほうが何かと都合がいい。仕事に関してもな」 「復帰できるの?」 「たぶん…ジョイスがうまくやってくれればな」 「そっかあ」  蒼真は嬉しそうに笑って、ーそれなら仕方ないねーと言って 一緒にシャワーを浴びるべく。圭吾の手を取った。  その2日後、翔がジョイスと一緒に遊びに来ると圭吾が教えてくれた。 「ほんと?…翔に会えるんだ…」  蒼真はちょっと感慨深そうに、クッションを抱き抱えた。  こんなに長く離れたことがなかった翔が、どんなふうに変わってくるのか楽しみでもあり、寂しくもあり、ちょっと複雑な心境。  2人が来るのはその日から1週間後のことである。  それまで2人は、サラとトシヤの家ではあったが、今までできなかった2人の生活を楽しむことに専念することにした。

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