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触れられる理由をちょうだい②(4)

 ここまで言うなんて、麦嶋さん的にはかなり頑張ったほうだと思う。  それが分かるから、もし明日早くに用があったとしても俺は断らなかっただろうな。 「全然いいですよ。というか麦嶋さんの都合が大丈夫なら、今日泊まってもいい? 終電を気にせず一緒にいられるし、どうせ遅くまでいるならもう泊まらせてもらった方が俺も楽なんだけど……」  そう言い終えてから、何を言っているのかと自分で驚いた。友人としてでも変ではないにしろ、今どういう気持ちでこの言葉を伝えたんだ? もう少し一緒にいたいと思ってもらえることが嬉しくて、俺もまだ一緒にいたいと調子に乗ってしまった。 「泊まってくれるの? じゃあ帰りにコンビニ寄って、下着とか歯ブラシとか買わなきゃいけないね。パジャマ……俺のだと手足の長さ足りないと思うけれど大丈夫?」 「それは全然……」  ケーキだけ食べるはずが泊まることになったと言うのに麦嶋さんはただただ喜んでいる。  あまりにも油断しすぎじゃあないだろうか。  友人になろうと確かに俺が提案して、それからずっとその通りに過ごしてきたけれど、あの痴漢にあった日、俺がトイレでしたことをこの人は覚えているのだろうか。  仕方なかったにしろ、他人の処理を手伝う人間などそうそういないだろう。  学校の友人のを触ることを想像をするだけで気分が悪くなるのに、麦嶋さんのは抵抗なく触れた俺も十分におかしいし、麦嶋さんだって自分の勃起したペニスを躊躇うことなく触った俺のことを警戒すべきなんじゃあないだろうか。  いくらその後で優しさを与えて、普通の友人として過ごしてきたにしろ、それはたった数ヶ月のことで、俺との出会いを忘れてはダメだろう。  それとももう、麦嶋さんは笑い話にできるってこと?

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