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微笑む顔の下で(3)
◇
「転校生を紹介します。 古里 くんよ。ほら、自己紹介をして」
「 古里和 です。よろしく」
担任に促され渋々行われた短い自己紹介は、いてもたってもいられないような、そんな感情を突き動かした。
二年生のこの時期に転校とはそれなりの理由があるわけで、それに進学校に編入してくるにはわりと学力が必要なのに彼は勉強ができるようには見えない。
職員室で初っ端から怒られたであろう染められた髪の毛は少し遊ばせていて、切れ長の目で鋭い視線には良い印象はどうしたって持てるはずがない。名前が 和やわらなのに、どこにその要素がある?
「ふはっ、」
彼は操作されてしまう側の人間だ。
たったこれだけの時間で、俺は彼にたくさんの勝手なイメージを押しつけた。内面的なことは知らないけれど、外見的な要素でだいたいの人物像を把握した気になった。
きっと俺だけじゃあない。このクラスのほとんどが同じように考えただろう。この自己紹介を見ていて、彼が積極的に俺たちに関わりを持ちたいと思っているとは感じられないし、線を引いて内には入らせないとでも言うような表情をしている。
どうなる? このクラスでの彼の立ち位置は?
「じゃあ古里くんは、早坂くんの隣に座ってくれる? 後ろのあそこ、空いてるでしょ?」
仕組まれた運命かのように、彼は俺の隣の席を指定された。興奮で指先が踊る。俺はトトントンと、机にリズムを刻んだ。
「和くん、よろしくね」
「ッせ、和って呼ぶな。下の名前嫌いなんだよ」
「へぇ、じゃあ尚更下の名前で呼びたいなぁ。和くん?」
「てめぇ喧嘩売ってんのか」
緩む頬を隠すことなく、彼を見つめた。彼の形の良い唇からは汚い言葉が紡がれる。支配される要因。第一印象は最悪だ。この俺にそんな言葉遣いをするなんて、何も知らない彼はそうして自分の首を絞めていく。
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