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微笑む顔の下で(6)

◇  古里和という人間は、俺の期待の遙か上を行く奴だった。  最悪な第一印象は塗り替えられることはなくて、このクラスに馴染む気は全くと言っていいほどに感じられず、いつも眉間に皺を寄せていた。  授業で先生に当てられても無視するか、明らかに簡単な解答の時だけ口を開くかで、転校生だからと気にかけてくれていた先生たちまで彼を冷めた目で見るようになった。  昨日あんなことがあったこんなことがあったと皆が盛り上がる中、肘をついて一人だけ窓の外を見つめているだけで会話には入らないし、どうして転校してきただとか、前はどこに住んでいただとか、何が好きで何が嫌いだとか、自分のことを話す気も一切ないらしい。  初めこそは、悪い印象は変わらずとも歓迎してあげようという雰囲気が多少はあったけれど、今じゃあ「こんな奴がうちのクラスに転校してくるなんて最悪だ」とのレベルにまで落ちている。俺が操作しなくとも、和は自ら孤立の原因を作ってくれていた。 「和、今日のテスト、満点だっただろ? 良い点数取ってたんだから、アイツらの会話に混ざれば良かったのに」  数学の授業の後半に行われたテストは、「この問題が解けるようになれば今度の期末テストは満点近く取れるだろう」なんて言っていたからか、授業終わりに採点をしてわりと点数が良かった奴らが興奮して騒いでいた。  ここで和が満点だと知られ、「古里くんって頭が良いんだね! すごい!」と尊敬される展開になるのは困るけれど、励ます振りをしてそう話しかけてみた。  放課後の教室は俺と和の二人きりで、それで落ち着いているのか和は窓の外を見ることはなく俺の目を見つめている。毎日毎日しつこいくらいに話しかけているせいか、最近では和呼びに嫌な顔をすることもなくなり、それどころか目を合わせてくれる回数も時間も増えた。

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