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第160話 ネット
「ペンキをかけた修行僧は、行動が外に向かったってことだ。内にため込まないで。
日常生活では、人は制限を設けて生きている。ネット上では完全に無制限だ。
匿名性を保ったまま、何を言っても、何をやっても何の結果も伴わない。」
ロジが学者の顔をして話し始めた。
「そのため反社会的な行動が、オンラインコミュニティに大量に移行している。
アメリカの哲学者がそんなことを発言している。
ネットにアクセスしたとたんに現実社会は、より懲罰的になる。
人種差別的で、女性差別的で、有害で辛辣になる。」
ハジメも頷いて
「日常の抑圧が、その匿名性に隠れて、ネット上での暴発を呼ぶんだ。」
と言った。小鉄も
「私達ゲイは恰好の餌食なのよ。」
小鉄は、たまにテレビに出たりするから、いつも同性愛者嫌いの標的にされてきた。
ドラァグクイーンはテレビでは『客寄せパンダ』みたいなものだ。
LGBT に理解を示すふりをしている某国営放送も、おかま、を出せば視聴率が稼げるのだろう。出演依頼が来る。
小鉄は敢えてフルメイクで凄いドレスでテレビに出る。小鉄の美学。
「だから匿名性の裏に隠れて誹謗中傷する輩(やから)より、一足前に出たペンキ野郎は、ある意味行動力があるといえるだろう。その行動力が危険なんだが。」
「なんか、寂しそうだね、そのペンキさん。」
ミトが言った。ミトの中の天使が顔を出した。その場にいる人はみんな暖かい気持ちになった。
「僕、友達になりたいよ。
ひきこもっていた時、ロジに救われたんだから。
僕も誰かの手を引っ張ってあげたい。」
「ミトとは違う精神構造の奴かもしれない。ミトは危険だなぁ。」
タカヒロは、心配そうだ。ミトよりは世間を知っている。
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