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第175話 ポスター

 また新しいポスターが発表された。今度はキチンとしたスーツ姿で、クラシックな雰囲気の セピアカラーのポスター。イギリスの貴族のように気取ってお茶を飲んでいる。 今回は盗まないで、譲ってもらえるように話をした。スーパーの人は 「このポスター、欲しいっていう人が多くて、これ最後の一枚なんだけど、あなた毎日、見に来るから、特別ね。」  その人は親切だった。ポスターと一緒に自分の電話番号を書いた紙を渡してきた。 「私、鈴木いずみ。暇な時、電話して。」 「あ、ありがとう。」    そして、あの日、ミトとタカが触れるようなキスをしているポスターが出た。 「いずみさん、あのポスター欲しいんだけど。」 「ふふふ、タダじゃあげないわ。私とデートしてよ。」  友也はその展開を全く予想していなかった。鈴木いずみは友也を自分のアパートに誘った。 東京に出て来て一人暮らしをしているという。友也は学生だが実家暮らしで、いずみの部屋へ しぶしぶついてきた。 「ポスターあげる代わりに私とキスして。」 初めてのキスは苦い味がした。いずみもそんなに経験があるわけではなく、二人たどたどしい初体験だった。友也はポスターの、キスしているミトとタカを思い浮かべながらいずみを抱いた。終わって、ポスターを丸めて大切に掴むと 「ありがとうございました。 ポスター、宝物にします。さよなら!」 逃げるように帰って来た。  そのポスターをベッドの横に並べて貼ると、タカの代わりに毎日ミトに口づけをした。 (つらい。ミトは二次元の中から出て来ない。つらいよ。この手で触りたい。抱きしめて、あなたが大切だ、って囁きたい。) ミトへの思いは募るばかりだった。

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