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7.「後悔」2*俊輔

  「俊、おかえりなさいっ」  屋敷に戻ると、玄関から入った途端、梨花が飛びついてきた。 「どうしたの? 帰ってくるの早くない? ね、俊、どこか出かけない?」 「……悪い、気分じゃねえ」  梨花を遮り、和義を呼んだ。 「若?」  和義が驚いたように近づいてくる。。   「今日は午後サボることにした。和義、真奈は――――……」  真奈の名前を口にした瞬間、和義の視線がきつくなった。  それを見た瞬間、ホッとした。  この態度は、真奈がどうなったか知っているということだ。和義が、あの真奈を治療せずに放っておく訳はない。   「若、少しお話があります」 「分かってる、が――先に、部屋に戻る。話はそれから別の部屋で聞く」  話があるのは覚悟していたので、和義の言葉にはすぐに頷いた。  けれどそれより真奈の様子が気になって、先に確認したかった。  腕を掴んでいる梨花の腕を解き、後ろをついてくる和義と共に、部屋に戻る。  部屋に入るとまっすぐに寝室に向かった。けれど、そこに真奈の姿はなく、綺麗に整えられたベッドがあるだけで。  オレは、和義を振り返った。 「真奈は?」 「……別の部屋で寝ています」  瞬間、イラっとした感情が胸を灼いて。 「どこだ」  そう短く聞くと。 「……教えられません」  和義が、強い視線でオレを真正面から見返した。 「今日は若をお連れするつもりはありません」 「何……?」 「……若にお聞きしたい事があります」  まるで睨み付けるような強い、視線。  オレに対してそんな目を向けるのは……和義が本当に、怒っている時だけで。  オレは、眉を寄せながら、次の言葉を待った。 「真奈さんをどうされたいんですか」 「――――……」  自分でだって出ていない問いを、いきなり投げかけられて、黙るしか、無かった。  かなり長い間、無言しか返せないで居ると、和義は、再び口を開いた。 「……もう一度、お聞きします。真奈さんをどうされたいんですか」 「――そんな事、お前に関係」 「関係ない訳がありません。彼がここに居ることを、私が咎めるのをやめたのは、彼が若にとって大切なのだと思っていたからです。でなければ、今頃、彼がここにいることを、私は許していません」  途中で言葉を奪われて、キツイ口調でそう告げられた。 「真奈さんは、高い熱を出されてます。……手首の傷も、あなたが痛めつけた箇所もヒドイ傷で、診た医者が驚いてました」 「熱?」 「……あんな真似をする為に、彼をここに置いているのなら」 「――――……」 「彼が回復次第、私は彼をここから出します」 「……んだと……」 「若がどんなに反対されても、これに関して若の意見は聞きません。絶対に彼をここから出します」  強く言いきった和義に、言葉を奪われる。 「真奈さんが来てから、若は少しずつ変わられました。他人のことを考えるようにもなられましたし、穏やかになられました。それは決して悪いことではないと思っていたので、だからこそ、私は真奈さんがここに居ることを、黙認することに決めたんです。……ですが、やはり、間違いだった気がしています」  それは、初めて聞いたことだった。  真奈のことを強く反対していた和義が、途中から全く何も言わなくなって、進んで真奈の世話までするようになったのが、何故なのか。  ずっと不思議だったその理由が、突然分かった。 「とにかく酷い状態です。傷的にも体力的にも、精神的にもだと思います。朝は一度目を覚ましましたが、シャワー中に気を失って倒れました。……それを聞いて、何を感じますか?」 「気を失った……?」 「はい」 「真奈は……無事か?」 「ですから、無事じゃないと、申し上げています」  苛ついてるのを無理無理押さえつけているような口調で、和義が言う。 「……無事じゃねえのは分かった。……じゃなくて、今はどうしてるんだよ」 「点滴を打って、寝かせてます……今は落ち着いてます」  その言葉にやっと、少しだけほっとして……疲れて、ソファに沈んだ。  同時に目に飛び込んできたのは、目の前のテーブルに、並んで置いてある、バングル。  昨日投げつけたそれに、嫌でも昨日の自分が、脳裏によみがえった。

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