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17.「心のどこかで」*真奈

   あまりに予想外過ぎて、思考はまっすぐ斜めに向かって突き進んでいく。  言葉通りにとるなら心配してると思えなくもないけれど、そんなことは思えなかった。    ……迎えに来て、直接とどめを刺そうというのかな。  それ以外、こんな状況で、しかもそんな嘘ついた中、すぐに迎えにいくなんて言う意味が思いつかない。    何も言わずに考えていると、凌馬さんはふと怪訝そうな顔をして、首を傾げた。   「……何で真奈ちゃんはそんな顔で固まってんだ?」 「……え……あ…… 本気で殺されるのかもっておもっ」    言い終わらないうちに、凌馬さんが吹き出して、爆笑を始めた。   「凌馬さん……??」    ますます強張っていると。  はあ、と息を付いて笑いを収めようとしているらしいけど、それでもまだ笑い続けている。   「おっもしれえ。……ほんと馬鹿だよな、毎日一緒に暮らしてまだこんなこと思わせる、なんてな……」    クックッと肩を揺らして笑う凌馬さんに、思わず眉を顰めてしまうと。  凌馬さんは笑いを少し抑えて。 でも、やっぱりまだクスクス笑ったまま。    「……愛されてんじゃねえの?多分」 「……は?」    愛されてる? 「…………」     ……愛ってなんだっけ、なんて思ってしまう位、「俊輔に愛されてる」なんて。  俊輔と、愛、なんて言葉が、全く結びつかない。   「ちゃんと聞いた訳じゃねえけど……絶対そうだと思うけどな。大丈夫、さっきの感じなら、絶対ぇ殺されたりしねえし、もう二度とこんな真似もしねえよ」    綺麗に巻き直された手首を、ごく軽く触れてそう言って、凌馬さんは微笑んだ。    「あいつとの付き合い長いけど……今まで全然見たことのねえあいつが見れて、面白くてな……」 「……」    ……俊輔のことを面白いなんて言えるのは、絶対この人だけだと、思うんだけど。  心の中で呟いてしまう。    「ま、それはいいや。とにかく迎えは車で来るだろうから……飛ばしても三十分は掛かるし、多分この時間、道も混んでるだろうしな―――……とりあえずタオル、持ってくるわ」 「すいません……」    言うと、凌馬さんはにこ、と笑った。   「あぁ、良いよ」    立ち上がって、凌馬さんは出ていった。   「……」    三十分……道が混んでたとしても、とにかくもうすぐ俊輔と、顔を合わせるのか……。 「…………」    憎んではないと思う。   さっき、オレは、凌馬さんに、そう伝えた。  何でオレ……憎んで、ないんだろ。    取引って言ったって、理不尽極まりないし。その内容なんか後から分かったし。普通からしたら絶対おかしいし。  ……ずっとされてたことだって、ありえないことなのに。    「……」    ……多分、分かってるからなんだろうと、思う。    多分、俊輔が……オレを憎くて、やってたんじゃないって。  オレは、心のどこかで、分かってたのかも……。    さっき凌馬さんが言ったように、愛されてるなんては思えないけど。    最後のあの夜だけ別にすれば。  俊輔は、多分、俊輔なりに、特別にしてくれてたんだと……思う。    でもだからって、普通に見たら、俊輔のしてることなんて、全部全部ひどいことな気がするんだけど。  だけど……オレは、俊輔のことが、嫌いではなくて。  ……あのよく分からない執着が。心底嫌ではなかった、てことなのかなと。  オレって……変な奴……。  そんな風に思って、ため息をついた時、ドアが開いて、凌馬さんが戻ってきた。     「ほら」    そっと、額の上に冷たいタオルが乗せられて、気持ち良くて。  思わず、少しだけ微笑んだ。   「……ありがとうございます」 「……おう」    くす、と笑って、 凌馬さんは椅子の背もたれに凭れた。    

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