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3.「一番今が」*真奈
このスマホ……くれるって……。
そういえばオレが持ってたスマホは……西条さんが持ってるのかな。
ここ来てすぐの頃、一応父さんには連絡してあって、先輩の家にしばらくお世話になるって言ってある。それきり、友達とかとは連絡は取ってない。
……オレのこと、どうなったと思ってるのかなあ、皆。
大学も休んでるし。家族じゃないし、行方不明届とかまでは出さないだろうけど、病気かとか、思われてたりするのかな……。
まあでも連絡しても外に出られないから虚しいし、今は誰かに連絡したいとも思ってないからいいんだけど……。
こうしてスマホを手にしても、誰の連絡先も分からないし。
正真正銘、俊輔としかつながらないスマホ。
電話かけろって言ってたけど。くだらない事で掛けたら怒られそうとか思ってしまうし。いや、でもなんか……逆に掛けなくても怒られそうな……。
複雑な想いで、手の中のスマホを眺めてしまう。
「……」
ソファに座りなおして、新しいスマホを、ひととおり弄る。
……前なら、新しいスマホとか絶対わくわくしたし、ゲーム入れたりもしてたと思うんだけど。今は全然する気にならない。
……わかんない。
俊輔と、どう接したら、良いのか。
その後も、同じようなことを堂々巡りに考えながら、ため息を付くしかなかった。
◇ ◇ ◇ ◇
「……?」
ふ、と気がついて目を開けると、俊輔がソファの横に立ってて、オレを見下ろしていた。
「……あ」
帰ってたんだ。あれ、オレ、いつ寝ちゃったんだっけ……。
そっか。しばらくスマホ握ってて。その後はテレビつけたけど面白いのもなくて……コーヒー淹れて、飲みながら、ウトウトしちゃってたんだ。
外はもう、薄暗い。
――――……ほんと、なんか、一日って早いな……。
ゆっくり起き上がると、俊輔はオレを見て言った。
「今、夕飯運ばせてる」
「あ、うん……」
……一緒に食べるのかな。
――――……あんまり……ていうか。無い、かも……っていうか、絶対初めてだ。
ここ数日、おかゆを食べさせられたりは、してたけど。なんか、それとは違う気がする。
何、話せば、良いんだろ……??
突然の試練な気がして、おなかの上に置いてあったスマホを握り締めながら、少し俯いていると。
「熱は? 上がってないか?」
そんな風に聞かれた。
どうだろ、測ってないから分かんないけど……。
そう思いながら自分の額に触れる。
「無さそう、な気がする」
「――――……」
俊輔の手が、オレの額に近づいてくるので、オレが自分の手をどけると、触れてくる。
……これだけは、なんか慣れた。
毎日、されてたから。ほっとした感じで、俊輔が手を離す。
「今はないけど、無理すんなよ」
「……ん。でも一日上がらなかったから、大分良くなったかも」
そう答えると、無言で頷いて、そのまま俊輔は奥の部屋に姿を消した。
……うう。
本当に、調子、狂う。
言葉は、優しい気がするんだけど。
普通ならもっと、ニコニコして話したりするんじゃないかと思うんだけど。
俊輔はなかなか、オレには笑わない。……気がする。
でも、優しくは、しようとしてくれてるとは思う。
……オレには、笑うことができないのかなあ……。
もう、なんか、あの無表情が張り付いちゃってる?
……そう言ってるオレだって、なかなか俊輔に対しては、うまく笑えない。
凌馬さんには、自然と笑いが出たのに、俊輔には……。
どうしたらいいんだろう。こんなこと、初めてすぎて、分かんない。
ぐるぐるしてる頭を、抱え込みたい気分に陥りながら過ごすこと、数分。
俊輔が近寄ってくる足音に、顔を上げる。
「シャワー浴びてくる」
「……うん。……いってらっしゃい」
そう言うと、俊輔は、わざわざ前に向けた顔を一度オレに戻して、オレを見つめた。ほんの少し固まって、それから、何も言わず、バスルームの方へ。
……思わず、ソファの上で膝をかかえて、頭を膝の上に落とす。
いってらっしゃいって、変だった?
普通言わない?
……母さんは言ってたと思うけど……言わないのかな、普通。
あんな風にすごくびっくりしたみたいに、振り返らなくても……。
うう。
誰か助けて……。
なんか、ここに来て、もしかしたら、一番今が、どうしたらいいか、分からないかもしれない。
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