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32.「俊輔って」*真奈

 もう、すっごくドキドキして返事を待ちながら、ひたすら歩いてると。隣で俊輔が、ため息をついた。 「前に真奈が使ってたスマホ。家に帰ったら、返してやる」 「……え」 「和義が持ってる。着信はチェックさせた。何か至急の連絡とか無視し続けて騒ぎになったら困るし。普通に充電してたから、普通に使える。病気が治ってから修理に出したってことにでもして、そのまま使えよ」 「――――……」  思ってもなかった返事に、なかなか言葉が出てこない。 「え。と……いいの?」  辛うじて、そう聞くと。 「何? 連絡先も入れるなって言うと思ってたのか?」  ……そう思ってた、ような気がする。返事が出来ずにいると。 「無理矢理閉じ込めてた時は、スマホで助けを求められてもとか思ってたけどな」  苦笑してそんな風に言う俊輔に、なるほど……と口には出さずに頷いていると、駐車場に入ったところで、俊輔が車のキーを開けた。 「助手席、乗れよ」 「うん」  言われた通り、俊輔の隣に座る。  俊輔らしい、すごくカッコいいスポーツカー。革張りのシート、なんかとにかく、すごく高そう。……ぽいなあ。この車いくらなんだろ。……怖くて聞けない。  シートベルトを着けていると、俊輔が、エンジンをかけて、オレに視線を向ける。   「出すぞ」 「うん。……ありがと、俊輔」  俊輔が微笑して、前を向く。  前と比べたら全然違う。オレを見て、笑ってくれるようになった気がする。  音楽もかかってるし、俊輔が話さないので、オレもただぼーっと、外の景色を眺めていた。  静かではないので、まあそこまで気まずくはないし。  俊輔の屋敷の、門の少し手前で車が止まった。いつも和義さんは、遠隔で門の鍵を開けるので車を下りないのだけれど、俊輔は「待ってろ」と言いながら、運転席から降りて行った。  なんだろ??  今、何待ち……?  気になって振り返ると、後ろの方に止まってる車の所に寄って行って、降りてきた誰かと、何かを話しているみたい。少しして俊輔が戻ってきたと思ったら、「ほら」と、何かを手渡された。何だろ。なんか、耐衝撃性のありそうな、袋? ちょっと重みがある。 「ノートパソコン。持ち歩けるように小さいのにした」 「……え」 「すぐ使えるようにしてもらったから」 「え? 新しいパソコン??」 「そう。いつも行くデパートの担当に頼んだ」 「え。さっき??」  あ、そういえば、電話しに行ってたっけ。え。それで買ってもう今ここにあるの? 「あり、がと」  何だかとても驚いたまま、とにかくお礼だけは言っておこうと、そう言うと。 「家でやりたかったら、オレのデスクトップ使っていいぞ。プリンターもあるし」  うん、と頷いて。なんとなく、落とさないように、ぎゅ、と抱える。 「……ありがと、俊輔」  そう言うと、俊輔は「ああ」と頷いた。キーで門を開けてから、車を中に走らせた。  おかえりなさいと、西条さんが迎えてくれた。俊輔が、持っていたお弁当と水筒の袋を渡すのを見て、オレは「西条さん」と声をかけた。 「お弁当、ありがとうございました」 「いえ」  ふふ、と笑ってくれるので、「美味しかったです。お茶とコーヒーも」と伝えると。 「飲み物は私からですが、お弁当は、若が持ってくと言ったんですよ?」 「え」  あれ? 和義から、って言ってたような……。  そう思って、俊輔を見上げると、俊輔はなんだかムッとした顔で、ちら、と西条さんに視線を走らせる。 「私からということになってたんですか?」 「……もういい」 「真奈さんが気になってしょうがないんですよね。食事をしながら、腹減ってねーかな、とか言い出したんですけど」 「黙れ」  俊輔の顔がますます険しくなって、すると、西条さんは、可笑しそうに笑う。……こんな睨まれても、へっちゃらで笑ってる。 「……和義、真奈のスマホ持ってきてやって」 「分かりました」  少し笑いながら、西条さんは頷いた。  ――――……俊輔って。 「ほら、部屋行くぞ」  肩に触れた手に、そっと押される。 「うん」  頷いて歩き出しながら。  ……俊輔って。  ほんとに、よく分かんない。分かりにくいし。黙って色々して、説明とか、全然してくれない。もう色々、足りなすぎるよと、ほんとに思う。  思うんだけど、でも。   なんだか、今日の色々を思い出すと、嬉しくなってしまって。  抱えてたパソコンを、ぎゅ、と抱き締めた。

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