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4.束の間のバカンス

 それでも何テイクかはそれぞれのシーンでやり直したり、俺たち映研は部長の脚本を美しく彩るための試行錯誤を繰り返した。これもいつものことだ。結局俺たちは、どこかで部長の才能に心酔しているのである。そうしてある程度撮影が進むと、この孤島の滞在期間が五日ということもあり、午後には休憩時間ということでみんなで海に遊びに出ることになった。部屋で水着の準備をして、彼のムキムキマッチョを披露することを楽しみにしている安来先輩と一緒にまたロビーに戻ると、それぞれ水着の上にパーカーやらシャツなどを羽織った部員たちを、皆が照れ照れしながら眺め合う。 「ビーチは船着場とは反対側にあるの。今度は荷物も無いし……仕事モードとは切り替えて、思いっきり遊んできましょうね」 「「「はーい」」」  今度は元気な、げんきんな部員たちの声に部長もその釣り目を細めて笑う。さっさと皆で(安来先輩だけは部長用のパラソルなどを持って)軽々と坂を下り、プライベートビーチに着くとそこはまるで……南の島に来たかのような白い砂浜と透明度の高い海の広がる楽園のようであった。これでも一応都内の島とは思えないくらい美しい光景に、流石の俺も息を飲んでワクワクする。後ろから遅れてやってきた部長が、俺のシャツを羽織った肩を叩いてウインクしてきた。 「市原、ウチのビーチはどう?」 「や……なんていうか、凄く綺麗です」 「ふふん。そういう台詞は本来女性に言うものよ? アンタも今回の映画撮影で、恋愛の勉強くらいしなさいよね」 「はあ」  気の抜けた返事の俺を放って部長は安来先輩にパラソルを立てさせ椅子を設置して、彼女の上着を脱いでは大胆な白のビキニ姿になる。さすがにそれには男性陣が『おおーっ』と沸いて釘付けになって(俺は海を見ていたが)、それを無視して部長は椅子に俯せになって、メイクの二年女子に『オイルを塗ってくれないかしら?』と頼んでは『喜んで!!』とそちらも部長のプロポーションに釘付けの女子をメロメロにさせている。 「よぉ市原、ビーチバレーで勝負しようぜ」 「んっ、宇都木か……撮影で疲れてないか?」 「あれくらいでへこたれるたまじゃないさ。それよりも、負けた方は罰ゲームな!」 「罰ゲームって、子供かよ」 「ハハッ、良いだろ? その方が張り合いがある……響、審判頼んだ!」 「えっ、なに? 宇都木さん、市原さん」  宇都木の呼び声で俺もそちらを見ると、ワンピ―スタイプの可愛らしい水着にポニーテールになった響ちゃんが俺の視界に入るから(うわ、可愛い)と流石の俺だって思ってしまう。ビーチボールを持った宇都木と俺の元にサンダルで駆けてきた響ちゃんはニコッと俺に笑いかけるから思わず、 「可愛いね、響ちゃん」 「えっ!!?」  そう、主演女優を口説くみたいなことを言った俺を、隣の宇都木が肘で小突いてきた。 「市原! なぁに気障なこと言ってんだ。さっさと勝負だ、勝負!!」 「あ、ああ、うん……俺だって、まあまあ運動は出来るんだぞ?」 「二人はビーチバレーするの? 市原さん、宇都木さんって汚いところがあるから気を付けて」 「おいおい響。人聞きの悪いこと吹き込むなって」 「だって本当じゃない……私は市原さんを応援するからね」 「勝手にしろって、じゃー俺からサーブな!」  部長にサンオイルを塗っている幸せそうな二年生と、それを団扇であおいでいる幸せそうなムキムキの安来先輩。スタッフたちは早速海に入って波と戯れていて、なのに俺はこのクソ暑い中、何故か主演男優の宇都木とビーチバレー対決だ。それでもまあ、汗を流すのは嫌いじゃないから俺もバレーの構えを取って、宇都木の鋭いサーブを獲ることに専念し始めた。

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