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第2話 春樹
営業部に所属している。だけど、どれもこれも、いつもいつの時も、何をどうやってもうまくいかない。
自分には向いていないんじゃないか。いや、しかし、そもそも自分に向いていることとは何だろうかと、春樹 は考えていた。
株式会社モンジュフーズに入社し、最初はスーパー店舗に配属されていた。だがその後、営業部に異動となった。
春樹は、営業部に所属して既に二年も経過している。新人でもなけりゃ、配属して間もなくでもない。
以前のスーパー勤務は楽しかった。だけど営業に異動してからは上手くできず、周りからは当たり障りなく、腫れ物に触るように扱われている。
そんなだから、下野に面倒と思われていることは、自分でも理解している。
「大っ嫌いだ!美桜 に酷いことをしたの覚えてるだろ?先週だ、美桜を振っただろ?何故、振った。美桜は泣いていたぞ!」
「美桜 って…えーっと…どんな感じ?」
コイツは鬼か!悪魔だな!と、春樹は思った。女の子を振ったのに名前も覚えていないとは、史上最悪な男に決まっている。
「佐藤 美桜 だ!俺の妹だ」
「あ!あーっ…はいはい…思い出した」
下野に「ちょっとこっち」と、社内のコミュニティスペースに連れて行かれた。
「あのな…大きな声で言うなよ、人聞きの悪い。総務の佐藤さん?のことだよな?先週、飯食べに行ったっけ…あーっ、確かにそんなこと言ってたけど、アレって本気かよ?付き合う?ってノリで言われたから、やんわり断ったんだけど…つうか、お前の妹なの?」
美桜は何でまたこんな男がよかったのだろうか。名前を言っても覚えていない奴なのに。
下野は、おそらく他にも美桜と同じようにデートしている女の子は沢山いるように感じる。やはり最悪な男だ。
「…美桜は俺の妹。俺と美桜は双子だ」
「へっ?双子?はぁー、そう。似てないんだな。しかし、双子が同じ会社で働いてるのは珍しくないか?ん…?あっ、あれか!お前、コネ入社の人か?」
下野は春樹をジロジロと眺めながら、思ったことをドンドン口走っている失礼な奴だった。
「俺は!コネ入社ではない!」
下野がいうコネ入社とは、政治家や財閥関係者の子供がこぞってこの会社に入社しているからだ。所謂、縁故 入社をしている人がここには多くいる。
実のところ、美桜は親のコネ入社である。だが、双子である春樹は正面から入社試験、面接をクリアして入社をしていた。
ただ、入社後は双子の美桜同様、春樹も周りからコネ入社だと思われて扱われているのは確かだった。
「あっそう…そんなことはどっちでもいいけど。あのな、佐藤さんのことは勘違いだぞ。そもそも付き合ってないし…それより、ほらあのペアで営業活動するやつ、よろしくな」
よろしくと右手を出している。
コイツはこちらの話を聞いていない。
自分勝手でムカつく男だ。
「こちらこそ!よ!ろ!し!く!」
と、春樹は下野の手を乱暴に握り、ぶんぶんと手を振り回し握手をしてやった。
ふんむっ!と舐められないように両足を踏ん張って立っていたが、下野は何故かゲラゲラと笑っていた。
「よし!じゃあ、作戦会議するから今日の夜は飲みに行くぞ。いいな?」
「お、おお、う…もちろんだ!」
何だか敵の陣地に入ってしまったような気もするが、負けていられないから話に乗ってやることにした。
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