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第12話 俺は死んじまっただ?(5)

 え? あれ? まさかと思うけど、ひょっとして、?  俺、現世でなんらかの事情により死亡した? だから記憶もあやふやだし、都合よく入りこめてしまった躰を乗っ取ったというか、取り()いた、みたいな、そういう感じなのか?  まったくおぼえがない。ないけれども、すごくあり得るような気もしてきた。  え~っ、ちょっと待って。だとしたら俺は、ものすごく悲惨な最期を遂げて死にきれないとか、生前のなにかに恨みだか未練だかがあって、成仏できないみたいなことになっちゃってる? だとしたら、可哀想すぎない? いや、だからといって無関係の人の躰を乗っ取っていいってことにはならんけど。 「あ、いや……」 「ごめんっ」  銀髪美人がなにか言いかけたが、皆まで聞かずに頭を下げた。 「いや、俺も全然、悪気はなかったっていうか」 「え?」 「もちろん謝って済む話じゃないのはわかってるし、ごめんで済めば警察はいらねぇってことにもなるんだけど、ただ俺も、だったらどうにかしろって言われると、なんていうか、成仏?のしかたがわからないっていうか。なんか言い訳がましくてみっともないんだけど、でも正直、死んだ自覚も記憶も全然なくてさ。自分でも相当戸惑ってるっていうか。そもそもなんで、取り憑く相手があんたの恋人だったのか、とかも――」 「まっ、待ってくれ! 頼むっ」  切羽詰まった声で遮られて、思わず押し黙った。銀髪美人は、いまにも泣き出しそうな顔をしていた。 「その、真剣に話してくれているところを水を差すようで申し訳ないのだが、話の内容が理解できない。ケーサツ? ジョオブツ? エルディラントにとり…とりつ……?」  あ~、そういや『学校』が通じなかったんだったと、そこでようやく思い至った。  学校がわからなければ警察を知らなくても不思議ではない。ましてや成仏が通じるはずもないだろう。というか、見るからに仏教とは縁がなさそうだし、そういう概念自体を持ち合わせていないのかもしれない。 「あ~、悪い。ちょっと、その、動揺しすぎて配慮に欠ける説明になった」  言いながらも、どうやって内容を噛み砕こうか、必死に頭をめぐらせた。 「ようするに、俺は今世での生を終えて天に向かうはずだったみたいなんだけど、どういうわけか、あんたの恋人の躰に入っちゃったのがいまの状態ってことみたいで」  一応説明は聞いているが、銀髪美人の表情からは理解できているのかどうか、いまいち判断できなかった。 「申し訳ないとは思うけど、俺も気づいたらこうなっちゃってたんで、本来の肉体の持ち主であるあんたの恋人に、どうやって返したらいいのかわからないし、抜け出しかたもわからないっていう。だから、どうしたらいいのかなぁって」 「天に、向かう?」 「あ~、まあ、所謂(いわゆる)天に召されるってやつ?」 「天に、召される……」  なんだかオウムみたいになっている。あ、これ、全然わかってないやつだ。 「ん~っと、なんつったらいいのかな。神様がいるところに行く、的な?」 「神のもとへ、行く?」  呟いたあとで、小首をかしげた。 「それならばもう、来ているぞ?」  不思議そうに言われて、今度はこっちが首を(ひね)った。  んんん~? もう来ている、とは? 「『神族』――我らが『神』と呼ばれる存在なのだからな」  自信満々に言われて、ポカンと口が開いた。  は? えっ、神……?  待って、待って! ちょっと待ってっ!! 『エルディラント』の躰で目覚めてからずっと、このセリフばっかの気がするが、自分の中にある常識に理解が追いつかないのだからしかたがない。  はっ? なんてった? 自分たちこそが『神』と呼ばれる存在? ねえ、いまそう言ったっ!?  神? 神様なのっ!? あのっ!?  いや、うん、そういえば光の眷属だとか闇の眷属だとか言ってたな、最初に。厨二設定全開で特殊能力自慢もしてた。その行き着くところが『神』!?

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