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第14話 俺は死んじまっただ?(7)

「我の力が不安定であることを、エルディラントは長らく気に病んでいた。我の未熟さゆえだといくら説明しても、自分のせいだとみずからを責めつづけていた。そんなことは、決してないのに」 「あの、ちょっといいか?」  話の腰を折るのもどうかと思ったが、思いきって声をあげた。 「話を中断させて悪いんだが、あんたの言う『力』っていうのは、最初に言ってた、光の眷属とかに関係する特殊能力のことだよな? 泉に落ちた俺を助け出して乾かしたり、倒れて意識を失ってる状態のところを、この屋敷に運んでベッドに寝かせたり、みたいな」 「まあ、それも一部ではあるが」  答えたあとで、ふっと寂しげな微笑を浮かべた。 「そなた、本当にエルディラントではないのだな。むろん、わかっていたことだが、あらためてそんな質問をされると思い知らされる」 「あ、ごめん。なるべく早く、この躰の本当の持ち主に返したいとは思ってるんだけど」  バツの悪さをおぼえながら謝罪すると、銀髪美人は力なくかぶりを振った。 「もとはと言えば、我が発端だったのだ。我が不甲斐ないせいでエルディラントを苦しめ、このようなことになってしまった。巻き添えにしてしまったそなたにも、申し訳ないと思っている」 「いや、俺はべつに……」  気がついたらこうなってたし、もとの自分のこともわかってないんで、巻きこまれた認識はまるでないというのが正直なところだけども。 「俺があんたの恋人の立場だったら、あんたのせいだなんて思わないと思うぞ? って、なんにもわかってない俺が、こんなこと言うのも無責任だけどさ」 「いいや、エルディラントも、いつもそう言ってくれていた」  言ったあとで、そなたは優しいなと泣きそうな顔で笑った。そんないじらしい姿を見せられれば、どうにかしてやりたいと思ってしまう。神様相手にこんなことを思うこと自体、おこがましいのかもしれないが。 「俺になにができるかわからないけど、でも、できることがあるなら協力するからさ。本当の俺の躰と記憶を取り戻して、あんたの恋人にもこの躰をちゃんと返す。だからそのために、必要な情報を教えてほしい」  真剣に頼みこむと、少し驚いた顔をした銀髪美人はすぐに表情をあらためて、大きく頷いた。 「わかった。我もそなたとエルディラントのために、できるかぎりのことをする」  固い決意とともに、この世界のことについて丁寧に解説してくれた。  すなわち、この世界は人界と天界に別れていること。俺のいた世界でも宗教的にそういった分類は存在していたが、実際にあるのは人界――というか地上だけで、天国やら地獄はあくまで空想の産物だった。だがこの世界では、天界は実在しているし、そこに棲まう人々も存在していた。それが『神』と呼ばれるものだった。  人界に住む人間は、聞いたかぎりだと、俺のいた世界の人類と変わらない。寿命も外見も能力も、地球上に生息している、いわゆるホモ・サピエンスと同種ということで間違いないだろう。その一方で、あきらかに人類とは一線を画しているのが天界の住人たちだった。  天界は、光と闇、ふたつの領域に分かれているという。  それぞれの属性に応じた種属が自分たちの領域を守っており、その中から長として選ばれた者同士が、婚姻を結ぶ決まりになっている。それによって光と闇の調和が保たれ、天界と人界を含む世界の均衡が保たれるのだそうだ。  天界に住まう人々は、生まれながらに己の属性に応じた能力を有していて、その寿命は八〇〇年前後と長命であるという。それが、彼らが『神』と呼ばれる所以(ゆえん)にも繋がっていた。

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