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第17話 俺は死んじまっただ?(10)

「次代盟主に選ばれたことより、エルディラントの相手になれたことを、ずっと嬉しく思っていた。盟主になるために必要な知識や作法の修得、鍛錬も、どんなに大変でも頑張ってきた。少しでも彼に相応しい人間になれるように。己の未熟さが原因で、彼の足を引っ張ることがないようにと。我はそのためだけに、必死で努力してきたのだ」 「あ、うん。それは……」  悔しさの滲む口調で反論されて、自分が地雷を踏んだことに気がついた。 「あ…っと、その、ごめん。いまのはべつに、あんたらのことをどうこう言うつもりじゃなくて――」 「でも、エルディラントは違ったのかもしれない」  消え入りそうな呟きに、思わずハッとした。 「いや、だから、いまのは俺がわるか――」 「そなたの言うとおりなのだ」  まるで意地になっているかのように、銀髪美人は俺の言葉を遮って話しつづけた。 「本来であれば、同属の者にかぎるという縛りはあっても、だれもが自由に恋をして、好きな相手と結ばれることが許されている。だが、次期盟主として生まれついた我らには、最初から相手が決められていた。その相手と婚姻を結ぶことが盟主の座を引き継ぐ者の責務なのだと物心ついたころから言い聞かされて、それ以外の選択肢など、用意されていなかった」 「えっと、そう、だよな。だけどさ……」 「それでも我は、そのことをむしろ嬉しく思っていた」  銀髪美人はやはり、口を挟ませなかった。 「はじめて会った幼き日からずっと、我にとってはエルディラントがすべてだった。彼の伴侶となれる日を、長らく待ちわびてきた。現盟主様の退任の時期が近づき、それに伴っていよいよ我らがその跡を継ぐべく、この屋敷での共同生活を開始した。いまからおよそ半年前のことだ」  ともに暮らす中で、まったく異なる環境で育ってきた互いのことを少しずつ知っていき、距離を縮めながら心を通わせていく。そのための慣らしの期間なのだそうだ。 「盟主となった暁には、互いのエネルギーを循環させることによって天と地の調和を保ち、みずからの力も強めていくことになる。それは、自分ひとりの研鑽ではどうにもできぬゆえ、登位まえのこの期間に、相手とともに練成を重ねて互いを高め合う時期でもあるのだ」 「え、だとしたら、いまのこの状況は……」  パートナー不在のいま、継続的なトレーニング不能って相当まずいのでは、とさすがの俺でも事態の重要性に気づいて蒼くなった。だが、銀髪美人は寂しげに笑うばかりだった。 「いいのだ。エルディラントがいても、我らのエネルギーの授受は、もうずっと、うまくいっていなかった」 「え……」 「我が未熟なせいだ。それなのにエルディラントは、自分の力不足を責めて思い悩むばかりだった」 「いや、けどさ、ふたりの関係自体はうまくいってたんだろ? その、気持ちのうえでのってことだけど」 「我はとても嬉しかった。子供のころからずっと、憧れていた相手だ。でもエルディラントは、そうではなかったのかもしれない」  だからエネルギーの交換を、うまく行うことができなかったのではないか。銀髪美人は俯きながら小さく呟いた。 「そなたの言うとおりだ。エルディラントには、もしかしたら眷属の中に好いた相手がいたのかもしれぬ。だが、次代盟主として選ばれてしまったことで、その相手と結ばれることはもちろん、想うことさえ許されなかった。望んでいたのは我だけで、エルディラントにとって、我は望まざる者だったのかもしれない。だから我らは、互いのエネルギーをうまく取り交わすことができなかった。そういうことなのだろう」

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