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ノンケの先輩を堕とすためのミッション♡4
あっけにとられる俺を尻目に、花園常務はなぜか盛大に笑いだした。
「お父さん、笑いすぎですよ。先輩が困ってます」
「ああ、島田くん。済まないね」
目尻に浮かんだ涙を拭いながら、あらためて姿勢を正した花園常務の姿を見たからこそ、俺も同じように背筋を伸ばしてしまった。
「先輩すみません、ちょっと受付まで行ってきます。うな重が届いたそうです」
新人は俺と花園常務にそれぞれ視線を飛ばしてから、スマホを耳に当てつつ、慌ただしく出て行った。
「私はね、島田くん。悪いことをした大和を叱ったことはあるが、叩いたことは一度もなかったんだ」
扉が閉じられたタイミングで語られた花園常務のセリフで、変な声が出そうになる。丹精込めて大事に育てた息子に、思いっきり平手打ちを繰り出した俺を、父親として恨んでいてもおかしくはない。
慌ててソファから腰を上げ、45度に腰を曲げて頭を深く下げる。
「その節は息子さんを叩いてしまい、大変申し訳ありませんでした!」
「頭を上げてくれないか。君を責めているわけじゃない、むしろ感謝していてね」
花園常務は立ち上がって、頭を下げる俺の肩に手を添え、無理やり起こすと、ソファに押し戻した。
「あの……感謝とは?」
アホ面丸だしで呆けた俺に、今度は花園常務が済まなそうに頭を下げる。
「お恥ずかしい話なんだが、あのコを甘やかして育ててしまったせいで、どうしようもないバカ息子になってしまってね」
(そんなことはないですよと、花園常務に否定してあげたいところだが、実際はアレなので否定してあげられない……)
ちゃっかりそんなことを考えつつ、神妙な表情をキープして、話に耳を傾けた。
「今回バカ息子がやらかした失態がもとで、君が叩いた行為がきっかけとなり、大和が今までのおこないを、深く反省することにつながったのを聞いたんだ」
「へっ?」
こちらとしては、まったく話がつながらないせいで、何度も目を瞬かせた。ゆっくり頭を上げた花園常務は、困惑を滲ませた瞳で俺を凝視する。
「それなりの大企業に勤める、私の息子だからか、周りもチヤホヤする有様でね。あのコが悪いことをしているのに、君のように叱ってくれる人間は、ひとりもいなかった」
「それは、あの……ワガママに育ってしまう環境下と言いましょうか」
たどたどしく告げつつ、新人が時折見せる、質の悪い黒い笑顔を思い出した。
自分の立場や見た目を利用し、意のままに相手を操って、自分の思いどおりにしてきたからこそ、先輩である俺の前でも堂々と振舞っていたように思えてならない。
「父親として、バカ息子を真人間にしてやりたいと考えているんだ」
「真人間、ですか……」
「そのうち知らされるだろうが、近いうちに第一営業部と第二営業部で、合同プロジェクトをはじめる」
「それはいつもより、タイミングが早いですね」
昨年のことを思い出して口にすると、花園常務は苦笑いを浮かべた。
「鉄は熱いうちに打てと言うだろ。合同プロジェクトのついでに、島田くんにはウチの息子の面倒を見てもらおうかと」
「エエッ!?」
思わず大きな声を出してしまい、口元を利き手で押さえる。驚きのあまり「ゲッ!」と言わなくてよかった。
「あのコにまったく媚びることなく、普通に接しているところを、ほかの職員にも見せつけてやってほしい。そうすれば少しは、あのバカ息子もつけ上がることなく仕事をするだろう」
「すみません。それは結構、私情をまじえているのではと」
クセありまくりの新人の面倒を見たくなかったゆえに、ズバリと指摘した。できることなら、新人の指導を回避するために、ズバズバ切り込む言葉を、必死になって考える。
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