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ノンケの先輩を堕とすためのミッション♡9

「やっぱりいい名前ですよね、熱寿って」 「おまえの発音は、ひいとじゃなく、ヒートテックのヒートにしか聞こえない」 「またそれ! 僕は大和ですよ、ほら呼んでみてください」  新人がわざわざポケットからスマホを取り出す時点で、俺に脅迫するのが嫌でもわかる。 「や、まと……」 「なんですか? ヒート先輩っ♡」 「俺の名前呼びをやめてくれ。あまり好きじゃないんだ」  明確な理由をつけてやったのに、新人は瞬きを数回してから小首を傾げる。 「先輩の性格を表しているような、とてもいい名前なのに?」 「嫌いだと言ったろ。それに俺らは仲のいい友達じゃないんだし、先輩後輩の間柄ということで、名字呼びにしてくれ」 「前に言ったでしょ、僕の名字はお父さんを連想させるって。せめて僕を呼ぶときは、名前で呼んでください!」  ああ言えばこう言う。先輩にたいして、言うことをきかないヤツじゃないのは、コイツの面倒を見ている林から情報をもらっている。 (――どういうことなんだ? 俺にだけ、こんなワガママを言ってるのだろうか?)  ジト目で新人を見上げた瞬間、例の写真を画面に表示させたスマホをまざまざと見せつけられた。しかも黒い笑みを、頬に滲ませながら。 「先輩は断れない立場なのに、僕にワガママを仰るんですかぁ?」 「ワガママなのは、どっちだ……」  美味しいタバコが不味すぎて、大きく吸った後に灰皿に押しつけ、火を消した。 「すみません、そういうふうに育ったもので。だったらこうしましょう」  新人はスマホをポケットに戻し、偉そうに右手の人差し指をぴんと立てる。 「仕事中は先輩のことを、島田先輩と呼びますが、ふたりきりのときは、ヒート先輩って呼ばせてください」 「俺はおまえを大和と呼ぶのは、デフォルトだというのか?」 「そういうことです。お願いしますね♡」  こうして、変な決めごとが新人からなされたせいで、朝からどっと疲れてしまったのだった。

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