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第1話  カラスの恋

初めて見つけた時から 目が離せなかった キラキラと輝き 春の風が吹いた気がした 毎日 毎日 ただ眺めてるだけで ぽかぽかとカラダがあたたかくなった気がした ある日 その輝きが違う事に気がついた キラキラが更にキラキラと輝いたから カラダがギュッと つかまれた気がした それから もっと キラキラの観察をすることにした こつり こつり 白の石を一つづつ 3つ目でキラキラと輝き また こつりこつり 観察してわかった それからは ぽと ぽと 石の代わりに その日 目に止まった花を置くことにした ある日 いつものように ぽと ぽと と、花を置いて 3つ目 今日もキラキラと輝く アレが見れると思った なのに 輝きが消えていた どうして? どうして? キラキラ輝いてたソレは 酷く暗く陰ってしまった どうして? ああ、どこかで 間違えたのかもしれない ほとり ほとり ほとり ほとり そうか、小さな花じゃダメだったのかもしれない アレは いつも抱えきれない花を もっていた なら いつもよりも大きい花を置こう とさっ とさっ ああ、これだったのか だんたんと 暗く陰ってしまったソレに 光が戻りはじめた ああ 良かった また 見れる キラキラと輝くソレを とさっ 今日もいつものように 大きい花を一つ その時 ふと、見てしまった キラキラと輝くソレから 零れ落ちた雫を 見てしまった ああ また 陰るのか? キラキラ輝くソレが良かったのに ならもう 陰らなくしてしまえばいい そしたら かなしくない  ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 「っつ・・・。せ、先生・・・! 続きは!? この話の続き!!」 「それで御終い。 僕の作風は君が一番、知って居るじゃないか?」 「そうですけどぉ~!!」 手にしていた原稿を、とんとんと揃え封筒に仕舞いながら、少し小太りの男はすっかりと冷めきったカップへ手を伸ばした。 「気に入らないのなら、書き直そうか?」 「えッ・・・!? そ、そんな!! 駄目ですよ!!先生の話は、これで良いんですから!!」 「けれど、君は何か言いたそうな顔をしているじゃないか?」 カチャリとカップが置かれる。 小太りの男は、酸素の足りない金魚の様に口をパクパクさせたかと思うと 子猫の様な声で、目の前に座る男に聞いていた。 「・・・この話は、最後はハッピーエンドですか・・・?」 「ほぅ・・・。」 ああ、言ってしまった・・・。 目の前に居る、鳴澤鐘斗の書く作品は、どれも結末ははっきりと書かれておらず、読み手の解釈の数だけ結末の先がある。それが、先生の作品の売りでもあった。 ネットの掲示板では、色々な解釈をされ、批判や中傷も有ったりするがそれでも、先生の作品は出せば誰もが一度は話題に上げるのだ。 先生自身が、掲示板に上がった解釈にコメントを書く事もあり、熱心な信者とも言える読者も居る。 かくいう、私も先生の担当になりたくて、この出版社に入ったのだ。 先生の担当になるにあたって、いくつかの条件が有った。 1・朝の9時~17時以外に来てはいけない 2・来客とすれ違っても、相手を見てはいけない 3・物語の結末を直接本人に求めてはいけない そう・・・。結末を先生本人に確定させる様な質問は、してはいけないのだ。 一言、先生が肯定でも否定でもしたら、その物語の答えが、それが正しいモノとなってしまうから。 けれど・・・ どうしてか、この結末を知りたくなってしまったのだ・・・。 そんな事を聞けば、担当を降ろされというのに・・・。 言ってしまった事への後悔からか、視線が落ちてしまう。 コンコン  「鐘斗様、次のお客様がお見えですが・・・」 「ああ。もう彼は、お帰りになるから、案内してくれ。」 「!! せ、先生・・・。」 下げてしまったていた視線を上げると、ゾクリとする様な冷たい色を湛えた先生は席を立って居た。 「せ、先生!!わ、私はただ・・・先生!!」 「さぁ、お帰りはあちらです。お気をつけてお帰り下さい。くれぐれも、客人に失礼ない様にお願いしますね。」 「・・・あ・・はい。原稿、しかと承りました。・・・お世話になりました。」 扉を開けたままでいた、青年に軽く頭をさげ、部屋を出るとタイミング良く廊下に置かれていた柱時計がボーンボーンと鳴り響いた。 その意外と大きな音に、俯いていた頭を時計の方へと向けてしまった。 ボーンボーンと鳴り続け、ボーンと最後の鐘がなったのと同時に、自分と入れ替わりに案内されてきたであろう、客人の一人と目が合った。 「!!」 しまった!! さっきの失言と良い・・・、私はなんて事を・・・。 瞬間的に、首ごと視線を外したが、きっと相手も私と目が有った事に気が付いているだろう。 もう、先生の担当を続ける事なんて・・・。 出来ない。 それなら、別に提示された条件なんて守らなくても良いのでは? そんな考えが脳裏を過り、好奇心に負けてしまったのだった。 逸らした視線を、さっき目が合った客人へと戻したのだ。 だが、そこには杖を持ち、瞳を閉じている青年が立っていた。 あれ? 私が目が合った客人は? そう思いつつも、視線の先に立っている青年へ目を向けた。 その青年は、瞳を閉じていても顔立ちが整っており、きっとその閉じられている瞳はキラキラと輝いて居たのだろう。そう、先生の作品から、あの彼が抜け出たら、きっとこの様な青年だろう。 「あの、見えないのでしたら私が部屋へ案内致しましょうか?」 気が付いたら、そう声を掛けていた。 「・・・宜しいのですか? 御用が有ったのでは?」 「ええ、構いませんよ? 私の用は済んでしまったので・・・。」 そう、私の担当としての用事はこの原稿を受け取って終わってしまった。 斜めに掛けていた鞄を一撫でし、杖の青年へと顔を向けた瞬間。 目の前が真っ暗になった。 青年が何かを言った様にも聞こえたが、急に目の前が真っ暗になった事に気を取られていた。 一体、何が? 「え!?」 な、何事かと、辺りを見渡してもどこまでも暗く。 それならばと、手を伸ばし壁を探すと、すぐに硬く平な場所へ手が触れた。 そのまま、壁伝いに先程出てきた部屋へと戻ろうと、歩き始める。 「せ、先生? 鳴澤先生、停電ですか?!先生!!」 「ああ、僕は大丈夫だよ。」 「せ、先生!! 良かった! どうやら、停電してしている見たいで、廊下が真っ暗なんですが・・・」 暗闇の中、先生の声の聞こえた方へと進むが、先生の声はドンドン遠くなっている。 追いかける様に、壁を伝っていけばトンと、指先が何かに触れた。 「先生!!」 ドアノブらしきモノを捻り、勢い良く開けた瞬間 いい様の無い浮遊感に襲われたのだった。 「せ・・・先せ・・・」 コンコン コン 「鐘斗様、お客様のご到着です。」 「ああ、ありがとう。 狗澤、これを出版社に郵送しておいてくれないか?」 ティーセットに暖かな紅茶を用意していた鐘斗が、指差す。 「・・・かしこまりました。」 テーブルの上の封筒を手に取ると、客人と入れ替わりで部屋を後にした。 「やぁ、少し時間より早かったかな?」 長身の男の腕に寄り添う様に、入ってきた青年が鐘斗へ声を掛けながら、ソファーへと腰を掛ける。 「・・・いや、時間通りだよ。」 ソファーへ腰掛けた二人の前に、湯気の立つティーカップを置けば、青年がニッコリと微笑む。 「そうかい? それなら、良かった。」 つられて鐘斗も笑みを浮かべる。 ああ、僕の原稿を嬉しそうに読んで居た時も同じ様な目をしていたな。 それが、もう見れなくなるのは少し残念だ。 暖かな紅茶を飲みながら、鐘斗は目の前の青年へ問いかけた。 「・・・ところであの話の結末は、ハッピーエンドかい?」 青年のカップに付けていた唇が、弧を描く。 「・・・さぁ? 君は、どう思った?」 「さぁ・・・? 僕は、結末を決める立場じゃ無いからね。」 ふぅ・・・。 暖かな紅茶で、中から温まっていく。 ちらりと、目の前の青年を見れば、先程見た色はもう 跡形も無く消えていた。

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