28 / 132
第28話
琉生は佑里斗が性別に関してバレたくないと不安そうに言うので、あまりそう思わないでいいようにと、以前のように周りと接するようになった。
とはいってもさほど日常は変わらない。
琉生は元から友人とワイワイ遊んだりするタイプでは無いし、そもそも大学で友人はいない。たまに会話をする知り合い程度はいるのだが。
講義室を移動する時も一人だ。
今日もバッグを持ってスタスタ廊下を歩く。そんな時、たまたま佑里斗とその友人達が仲良く話しながらこちらに向かって歩いてきた。
琉生は彼の寝癖が直っているのを見て『ちゃんと遅刻せずに来れたのだろうか』と少し気になったのだが、あんまり接点があると思われたく無さそうだったので、わざわざ引き止めて聞こうとは思わなかった。
「──ぁ、先輩!」
「え、」
それなのに、通り過ぎようとした時、佑里斗の方から声をかけられ驚いて彼を見る。
『話しかけてほしくないんじゃなかったのか』と僅かに首を傾げた。
「お疲れ様です!」
「ぁ……ああ、うん」
「じゃ!」
佑里斗にとってはたまたま会った知り合いに挨拶をするのは普通の事だったが、琉生はそれだけが目的で声を掛けられるのは初めてで、不思議な感覚だった。
──声、掛けていいんだ。
新しいことを知った琉生は、ほんのり口角を上げて廊下を歩く。次は自分から声をかけようと思って。
ともだちにシェアしよう!