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第36話

 佑里斗が安心して発情期を過ごせるようにと、琉生は一日のほとんどをリビングで過ごしている。  日中はどうしても受けなければならない講義の時だけ家を空け、夜はソファーで眠る。  そこで眠るのは、何かがあった時いつでも佑里斗の元にすぐに駆けつけられるようにと思ったらである。  佑里斗の苦しそうな声が聞こえると薬や飲み物、それから体を拭くタオルを持って行ったり、ドアが開く音がすれば、例えそれが眠りに落ちていた時だとしても目を覚まし、起き上がって佑里斗の部屋まで駆けつける。  トイレに行きたいようだけれど、やはり体が辛いようで上手く動けない彼をそっと抱き上げてトイレに連れて行くこともあれば、汗を拭くだけでは気持ち悪さが拭えなくなってきたらしい佑里斗をお風呂に入れてあげたり。  正直番でもないアルファが、発情期のオメガをここまで甲斐甲斐しくお世話するのはあまりないことだ。理性の糸が切れて襲ってしまうことだってある。  それでも、佑里斗の辛そうな姿を見ると薬を飲んで耐え、彼を支えてあげないととしか思わなかった。  まあ、変な感情が全く湧かなかったかと聞かれると嘘になるが。    発情期が始まって四日目の夜。  安心してベッドに眠る佑里斗を見ると琉生は心の底から『よかった』と思えた。    それから数日経った頃、佑里斗が一人で歩いてリビングに出てきて、その足音に浅い眠りから覚醒した琉生は、「大丈夫か」と慌てて佑里斗に駆け寄り体を支えた。 「ぁ、大丈夫です……。ちょっと、お腹すいちゃって……」 「何か作るよ。座ってな」 「え、いいです。自分でやる」 「フラフラしてんだろ。危ないから大人しくしてろ」  少し厳しめに琉生が言えば、彼は申し訳なさそうな顔をしてソファーに座る。 「ごめんなさい。迷惑かけて」 「迷惑じゃない」 「でも……先輩、アルファだから大変でしょ……?」 「薬飲んでるし平気。俺のことはいいから、お前は自分のことだけ心配してろ」 「……」  琉生はそう言ってから、なんでもっと優しい言い方ができないんだと反省する。  もう少し、寄り添うような言い方をしてあげれば佑里斗も申し訳なさを感じなくて済むだろうに。

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