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第3話:フィガロの兄妹達

「そんな顔すんなって!!」 「そうだよ、フィガロ。おれ達は強いから安心しろ!」 「でも!父さんだって前線に配置されて・・・」 「オイオイ!父さんが死んだのって、オレよりも 20 は歳取ってからだろ!?」 「そーだよ!ネロウ兄さんも、トネリ兄さんもお兄ちゃんと違って、父さん似だし!」 通達を受けてから、出発の日の朝まで、フィガロは2人を見る度、申し訳ないと涙ぐんでいた。 兄弟は、狩猟猫獣人の父の資質を強く受け継ぎ、フィガロよりも数倍大きくがっしりとした骨格で、フィガロを両サイドから抱きしめれば、フィガロは埋もれてしまう程だった。 妹のロマも、ネロウとトネリと同じ様に、耳や尾の色も一般的なMIXに多い、茶や錆色。尻尾を隠してしまえば、一見すると小型犬獣人との見分けがつきにくかった。その事をフィガロは十分理解していた。だから、自分を見捨てないで一緒に居てくれた、家族が大好きだった。 成獣として独り立ちをする頃になっても、ネロウは家に残り、トネリが大陸警備隊に入隊出来る歳になると、兄弟二人で入隊した。ロマもまた、番を迎えても良い年頃なのに、フィガロの所為で良縁に恵まれる事が無かった。 ロマもフィガロとは系統は違うが、可愛らしい顔立ちで、猫獣人という事を差し引いてもお近づきになりたいという獣人もいた、、、、が、フィガロが黒猫と知ると、大半は逃げて行った。逆に逃げなかった者は、フィガロに鞍替えをしたのだった。そのことも、フィガロの心を傷つけた。それでも、家族がフィガロを見捨てないでいたから、このイースでも頑張れた。 「フィー兄、私たちはお兄ちゃんを犠牲にして、幸せになんてなりたくないの。」 「ロマ・・・。」 自分よりも体格の良い妹とギュッと抱き合いながら、フィガロは家族に恵まれて本当に良かったと思った。 「それに、さっきお兄ちゃん達から手紙が届いてたから!」 「!!本当に!?」 ロマが、フィガロに差し出すと、随分前にその手紙は出された様だった。 「ロ、ロマ!早く夕飯の準備しないと!!二人が帰ってきちゃうよ!!」 「え!? でも、今日その手紙届いたのに!?」 「ほら!急ごう!!」 手紙の内容は、「これから帰る。」とだけだったが、切手に押された消印の日付と兄弟達の手形と共に端に書かれた代筆屋のサインと日付が同じだった。 兄達はこの手紙と共に南大陸を出発していた。 その日の夜、討伐から帰ってきた二人は、フィガロの人生に大きな転機をもたらした。 討伐からネロウは左目、トネリは左腕を負傷して、帰ってきた。 一瞬、言葉を失ってしまったが、日常生活には支障は出ない程度の傷と聞いて、フィガロとロマはホッとした。けれど、これ以上大陸警備隊での仕事は続けられないと、いつもより少し奮発をしたスープで夕食をしながら、兄はフィガロ達に言った。 「それでだ…フィガロにロマ。ここを出て、サウザへ行かないか?」 「「え?」」 「オレ達は、サウザで番と暮そうと思う。」 「つ、番!?」 「え、お兄ちゃん達、いつの間に!?!」 今回の討伐は、ノーザの主導の元、他3大陸が隊や、救援物資を支援していた中、サウザから来ていた救援部隊で派遣された獣人に手当を受けたのが切っ掛けで番に成ったと、フィガロ達の前に座っている二人は説明した。 「オレと、トネリは救援部隊と共にサウザへ向かうつもりだ。ロマには、救援部隊の手伝いとして一緒に馬車に乗れるよう手配してある。ただ、フィガロ・・・すまない。サウザには1人できてもらう事になるんだ・・・・・。だ、だから・・・お前はどうしたい?」 「え? そ、そんなの…勿論、ボクもサウザに行くよ!!」 「! そうか! なら、時間が無い! 明日の早朝発、サウザ行きの馬車を手配したからそれに乗ってくれ。」 「え・・・?? 急過ぎじゃ・・・・。」 と、兄の顔を見ると、どこか思い詰めた表情を一瞬し、トネリはずっと俯いていた。 その二人の様子に、隣にいたロマも何か感じたのか、何も言えずにいた。 「・・・解った。後で、荷物を用意するよ。」 その言葉に、トネリが顔を上げフィガロと目が有った。 その目には薄っすらと涙が浮かんでいた。かちゃりと、テーブルに小さな革袋が置かれた。フィガロが中を確認すると、見た事が無い金や銀色をした薄くて丸い物が数枚入っていた。 「こ、これって。」 「道中、何かと必要になると思うから・・・。」 それは、きっと隊からでた見舞金なんだとフィガロは思った。 そして、それが出たという事は兄さんの左目はもう光を感じないのだろうと・・・。 それでも、フィガロの事を見捨てず一緒にサウザで暮そうと2人が、言ってくれた事が嬉しかった。 だから、イースからサウザまでのおよそ一週間の一人旅位我慢しなければと心に強く決めたのだった。そうと心が決まれば、数枚の着替えと食料をバックに詰め、兄から渡された革の小袋を首からかけた。万が一、道中獣化する事が有っても、服や靴は脱げてしまうが、首に付けたものは、身に付いたまま持ち運べたからだ。 黒猫に成った時に、少し違和感はあるかもしれなけど・・・、この方が安心出来るしな。 ぽふりと簡素なベットの上で、見納めに成るとは思わなかった部屋の天井を眺めた・・・・筈が、感傷に浸る前に意識が途切れ・・・次、目が覚めた時には、フィガロは薄暗い箱の中に膝を抱えた状態で縛られていたのだった。

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