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第12話

 地方アイドルたちの公演が終わり、片付けも終えたところに大輝が駆けつけてきた。 「來、お疲れ」 「お疲れ様です」  コーヒー缶の差し入れだ。來好みの甘さ控えめ。少しリカの言葉が突き刺さっていて苦しかったが、裏からライブを見て気持ちを上げ直した。  彼女たちを最後まで美しく輝かせるために最後までしっかりと自分の仕事をしなくてはいけない。動揺している場合ではなかった。  でも緊張の糸が切れてさらにこのコーヒーでようやく大きくため息をつくことができた。 「すごく疲れたか?」 「疲れた、というかまぁ、参りました」 「若い女の子たちの相手は大変だろう……いくら年が近いからと言ってもさ」 「そうですね」  また一口、二口、コーヒーを飲む。 「今日は話があって来たんだ」 「話?」 「そこに座って。ほんと疲れただろ」 「はい」  実の所大輝はあまりこの現場が好きで無いため來に振っていたこともある。  2人は外のベンチに座った。大輝自身もカフェオレ缶を飲んでいる。  普段あまりコーヒーは互いには飲まない。接客中は匂いの強いものは避けているからだ。タバコも、香辛料の強いものとか。 「……そろそろお前の店を出さないか」 「えっ……っ!」  話がいきなりすぎて來は少しコーヒーを詰まらせむせた。  大丈夫か? と大輝に背中をさすられしばらく呼吸を整えるのに時間がかかった。  ようやく來が大丈夫です、と言ったところで大貴は申し訳ない顔をしながらも話を続けた。 「そのな、今の僕の店からのれん分け、っていう感じかな。來の後輩も出来て、ステップアップしたわけだし、それに君のファンも増えて……」  ファン、と言っても也夜のファンが大多数占めるのだが。  大輝は元々、也夜の専属だった。來が学生時代から也夜にシャンプーの練習をさせてもらったりメイクアシスタントをして交流を深めたりしてそれがきっかけで交際に発展したのだ。  來もモデルに負けず劣らずの身長とスタイルの良さ、そして手際の良さでファンも増えて来たことも事実である。  でも來にはその実感はない。 「ファンって……まぁ確かに紹介いただいた常連さんやお世話になってる方はいますが……。ファンというファンというのか。それに店って……お金かかりますよね」 「そりゃそうだ」  だよな、と來はコーヒーをぐびっと飲む。 「もう來も25歳、僕もその頃には店を出していた。だから……新しい店を構えてみないか」  來の中では店を構える、その道は無かった。ここ最近になってようやく他の店に応援に行くようになってでてみたのだが、自分が店長になる、そこまでは考えてもいなかった。  それに一つ、來は……。 「……大輝さんの店から出るってことですか」  大輝のそばから離れることはない、と思っていたからだ。 「出るって……明るく考えれば……巣立つ、かな。來ならできる……独立を早くしてって望んでいたのは僕だけじゃ無いってわかっているだろ?」  ふと來は思い浮かべた。 「……也夜」  たしかに彼からは言われていたようだが來は考えられなかった。やや頑固な來。  しかしそんな來に店を巣立ち独立することを一番望んでいたのは也夜だった。 「でもまだその、資金がないですし……最近この辺も土地の値上がりが」  と、回避を試みる來。流石にそう言うというのはわかっていた大輝。口角を上げた。 「そこらへんの心配はしなくていいよ」 「えっ」 「君の独立に手助けしてくれる人が現れてね」  先回りされた、と同時に手助けしてくれる人とは誰だろう、來はそんな神様な人がいるのか? と疑問に思った。

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