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第8話
ぬくもりが熱さに変わり、シャツが肌にまとわりつくのを感じながら意識が浮上する。
犬養が満足するまで――は流石に玲央の体が持たなかった。あのあと一度だけまぐわい、犬養に支えられながらシャワーを浴びた。
汚れた部屋はそのままに、犬養の寝室で眠らされていたことを思い出す。
玲央の頭の下には犬養の腕が通っている。
犬養は玲央を我が子のように抱きながら、起きてなにかをしているようだった。
背後で手が動いている気配がして振り返ると、スマホの光が目を襲ってくる。
「うわ」
「おはよ」
犬養はスマホを投げ捨て、玲央を抱いた。
「暑いんだけど」
玲央が文句を言うと、犬養は無言で布団を剥ぐ。玲央を抱く腕はそのままだ。
「おかげでキャッチコピーできたわ」
「へえ」
「通るといいな〜」
そういえばキャッチコピーなんて書けないと、玲央が来たときに嘆いていたのを思い出す。結局書けてしまうのだから、書けないなんて二度と言わないでほしい。
「レオ、ずいぶんえっちになっちゃったねえ」
片手が、玲央の筋肉でやわらかい胸を掬い上げるように揉み始めた。
嫌だと言える立場ではないので、じっと触られるしかない。
「こっち向いて」
黙ったまま振り向く。
裸の玲央と違って、犬養は上下スウェットだ。
誘われるまま、仰向けの犬養の上に乗った。犬養の手のひらが無遠慮に玲央の全身を撫で回す。たまに尻たぶを掴んでは後孔が広げるように左右に引っ張られた。
「んっ! ぅう……♡」
ねえレオ、と犬養が問いかけてくる。
指が尾てい骨をなぞっていた。その先には散々弄ばれ、まだ閉じていない気がする後孔がある。
今度こそ本当に無理だ。血の気が引いていく。慌てる玲央を、犬養は楽しそうに笑って見ていた。
「ゼリー出すの、気持ちよかった?」
「そんっ」
そんなわけないだろ、と出かかった言葉をどうにか押し込める。正解を言わなければまた犯されてしまう、尾てい骨に添えられた指はたぶんそういうことなのだ。
ふと、そんなわけない、と反抗したらどうなるのだろうと思ってしまった。玲央はまた犬のように躾けられ、オナホのように揺さぶられるのだろうか。
「……きもち、よかった」
心のざわめきに気付かないふりをして答える。
犬養は感情の読めない笑みを浮かべた。
「今度はどんなことしようね」
玲央は、無意識のうちに、犬養の頬にキスをする。これは媚びだ。余計な目に遭わないための予防線だ。
驚いているのか、玲央を撫で回す片手の動きが止まる。これは少し気分が良い。
「別に、普通のセックスだけでいいだろ」
「嫌だよ、もったいない」
玲央が犬養に抱きつくと、そのままぎゅ、と抱きしめられる。
不服にも、帰るのが億劫になって、このままここで眠ってしまいたいと思ってしまった。疲れているからだ。絶対に、たぶん、きっと、そのはずなのだ。
*
土曜は何度だってやってくる。
妹の美玲を見送って、玲央はすぐに家を出た。
――なぜわざわざ、殺したいほど憎い男のところに行かなければならないのだろう。でも、今日は、特に寒いから。
そう自分に言い聞かせながら、玲央は早足であのマンションへと向かった。
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