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16:憧れの使い魔!
「俺達って遠距離攻撃だから、やっぱりどうしても敵の攻撃を引き付けてくれるヤツが必要なんだよ。そういう時に、ちゃんと躾けられた使い魔が居ると、戦場をひっかきまわしてくれるから、戦況が有利になる」
「……」
俺は黙って隣を付いてくるセイフに「ほら!」と、一つの露店を指さした。
そこには、様々な使い魔となりえる動物達が、檻の中に入れられていた。成獣も居るが、そのほとんどがまだ幼獣……赤ん坊だ。
「セイフ、ここが使い魔の店だ!見てみろよ、可愛いだろ?」
「……」
みゅうみゅう。
あぁっ、めちゃくちゃ可愛い!
俺は、憧れの使い魔ショップの前へセイフを連れて行くと、ストンとその場に座り込んだ。先ほどから、セイフは何も答えない。が、まぁこれはいつもの事なので気にしない。
「あとは、そうだな。セイフは俺と一緒に旅してるから知ってると思うが……俺達弓使いは、ともかく神経を使うから……睡眠時間の確保がめちゃくちゃ大事になる」
と、ソレっぽく言ってはみたものの、俗っぽく言うなら俺達弓使いは〝寝汚い〟のである。夜は夕食を摂ったら、気絶するように爆睡。朝は叩き起こされなければ、下手すると昼過ぎまで寝てしまう。
--------テル、テル。起きて。
--------んぁぁ、も。すこし。
--------テル。も、夕方。
--------へ?
と、こんなのは日常茶飯事だ。
そんなワケで、現状。野営する時の見張りは全てセイフが担ってくれている。それと、絶対に起きない俺を叩き起こす役割もまた、セイフの仕事だ。
最近、やっとしっかり起こしてくれるようになったものの、今でもたまに「起こすと可哀想」と言って俺をおんぶして運んでくれる時がある。
あぁ、何度思い出しても申し訳ない。
でも、勘違いしないで欲しい!ソレは俺個人の特性というより、弓使い全体において仕方のない習性なのだ!
だって!全体の戦況を把握しながら、走り回って矢を射る。これって、他の職業のヤツらよりも神経を使うのだ。近づかれたら終わりというプレッシャーも凄い。そんな性質もあり、ソロの弓使いの死亡原因の第一位は、野営時のモンスターからの奇襲攻撃とも言われている。
「その点、使い魔が一緒なら、何か危険が迫った時に起こしてくれるから、野宿の安全性も高まるしな」
「……」
「だから、弓使いにとって使い魔は必須パートナーなんだよ」
俺は何も言わないセイフに説明してやりながら、露店の使い魔達を見渡した。ミュウミュウと甘えるように鳴く使い魔達は、どれもこれも可愛くて堪らない。
「いいなぁ。飼いたいなぁ」
それにペットを飼うのは前世の頃からの夢だった。結局、忙しくて面倒がみきれないと、その夢は叶わないまま終わってしまったが。
あぁ、今度こそこの夢だけは叶えたい。
「でも、値段は可愛くないんだよなぁ」
飼った後の餌代の事も考えると、相当金の準備が必要だ。まぁ、生き物だし仕方がない。飼うなら一生責任を持たねばならないのだから。
「……さて、帰るか」
そう、俺が立ち上がろうとした時だった。ふと、一匹の仔狼が目に入った。
ミュウミュウ。
あ、この狼。目が金色だ。
潤んだ瞳と、すすり泣くようなか細い鳴き声。しかし、その四肢を見ると、そりゃあもう立派な手足を持っていた。これは、将来的にはかなり大きくなるだろう。金色の目、か細い鳴き声、そして将来的には大きくなりそうな狼。ソレは、まるで――。
「なぁ、セイフ!この子、お前みたいだ!」
「っ!」
その瞬間、鎧の中から息を呑む声が聞こえた。どうしたのだろう。さっきから少し様子がおかしい気がする。そう、俺が声をかけようとした時だ。
ペロ。
「っ!!」
ペロペロ。
「お、おおっっ!」
俺の指を、金色の目の仔狼がペロリと舐めた。その舌はどこかザラついていたが、そのぺろぺろと指を舐めて甘えてくる様子に、俺の心は完全に鷲掴みにされてしまっていた。
くぅん、くぅん。
「ぐふっ。か、かわいっ!」
これは、ヤバイ!ヤバすぎる!とにもかくにも可愛すぎだろう!
「か、飼いたい……欲しい」
「へぇ、ソイツがそんなに人間にすり寄って行くのは初めて見たな」
「そ、そうなのか?」
「あぁ、尻尾まで振って珍しいモンだぜ」
間髪入れずに話しかけてくる、露店のオヤジ。いや、落ち着け。これはどう考えても営業トークだ。きっとこの仔狼は、俺でなくともこうして客にすり寄っているに違いない。でも、でも!
クゥン。
--------テル、矢。取って来た。
金色の瞳でジッと見つめてくる仔狼が、俺にはセイフに見えた。
「か、飼っちゃおうかな」
「それがいい、ソイツは立派な使い魔になるぞ」
「……うん」
とは言ったものの、この子の値段は予想以上に高い。そりゃあそうだ。オヤジの言う通り、この子は絶対に立派な狼に育つだろう。躾けさえ間違えなじゃ、きっと凄いパートナーになれるに違いない。
でも、金が……!そう、俺が頭を抱えた時だった。
--------欲しいの、あるなら、俺が……その。買う、よ。
悪魔の……いや、優しいセイフの囁きが俺の耳に木霊した。
いや、もちろんセイフに買ってくれなんて言わない。借りるだけ……金を借りるだけだ!絶対に返す、これなら、いいよな。
「なぁ、セイフ?」
「なに」
セイフの声が、いつもよりどこか低い。それどころか、ちょっと流暢な気がする。
「この子、飼いたいから……その」
金、貸してくんない?
そう、俺が口にした瞬間。俺の視界がグルンと反転していた。
「っへ!?」
「お、おい!」
いつの間にか、視界が異様に高い位置にきていた。先ほどまで同じ目線に居た仔狼が、随分下に見える。しかも、先ほどまでは甘えに満ちていた鳴き声が、今ではひどく怯え切っていた。「おい、おいっ!」という露店のオヤジの驚きに満ちた声が、どこか遠くに聞こえる。
「え、あれ。あれれ?」
え?ナニコレ、どういう状態?
俺が混乱していると、セイフの低くて落ち着いた声がスルリと俺の鼓膜へと入り込んできた。
「ダメ」
「え?」
「帰るよ、テル」
「え、え?」
どうやら俺は、いつの間にかセイフの肩に担がれているようだった。腹に、セイフの肩の固い甲冑が当たる。
「セイフ、あ、あの。下ろして、くれないかな?」
「ダメ」
「……セイフ、もしかして。怒ってる?」
俺が金貸してなんて言ったから。
そう、俺がおずおずと尋ねるが、そこからセイフは一切答えようとしなかった。そして、俺は通りを歩く人々からの好奇の視線に晒されながら、気付けば二人で部屋を取っている宿へと戻って来ていた。
あぁ、宿屋のお姉さんの「え?」という顔が頭から離れない。それに、さっきの露店の親父もそうとう驚いていた。また傭兵とか呼ばれなきゃいいけど。
「……あ、あの。セイフ?」
「……」
という現実逃避に勤しんでいると、俺はセイフの肩からベッドの上へと下ろされていた。投げ落とされる事を覚悟していたが、そんな事はなかった。セイフの手は、ともかくゆっくり優しくて、運び方とそれまでの態度とのギャップに、目を瞬かせるしかなかった。
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