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第44話
十月に入り、一週間が過ぎた頃だった。衣替えが始まり、長袖が丁度良い気候になってきた。
十月に入ってからの摘発件数はゼロだった。まだ一週間と少ししか経っていないと思っていたが、九月が嘘のように学園は落ち着いていた。色々な人たちの協力あってこそだろうと俺は素直に喜んでいた。それを疑わなかった。
このままでいけば部活動のメンバーにも、十月いっぱいを持ってお別れしてもいいんじゃないかと総一郎と笑顔で話もしていた。
だから、予想もしていなかった。顔も知らない犯人の足音がひたひたとすぐそこまで近づいていたことを。
九月の分厚い報告書を持って、生徒会室へと向かっていた。みんな、巡回で出払っているから、俺が行くしかない。走ればすぐに戻ってこれるからいいだろう、と軽い気持ちでインカムを外して、重い報告書を担いでいった。生徒会室をノックするのは、憂鬱だったため、無理やりポストに突っ込んで、俺は踵を返した。また変なものを見せられたら気分が悪い。ここ二ヶ月の学園の荒れっぷりのおかげで、俺もかなりたくましく図々しくなっていた。
今日はみんなも早く上がれるかな、と心穏やかに風紀室のドアに手をかけた時、携帯が震えた。誰だ、と手に取り、海智だ、と認識するや否や、いきなり後ろから大きな身体に押さえつけられた。突き飛ばして大声をあげようとするが、力の差は歴然で、口元に布を当てられる。フェロモンともつかぬ甘いにおいが鼻腔を埋めると、脳がくらりと揺れて、身体から力が抜けて、意識を手放した。
どさ、と投げ落とされた身体の痛みで、意識が戻ってくる。埃っぽく、息苦しい。ぼやけた頭で辺りを見回す。どこかの倉庫のようだった。下はマットのようだった。
「お、お目覚めだぞ」
男の声がして、顔を起してそちらに目をやると、覆面をかぶった体格のいい男が複数名いた。ぐ、と手を引き寄せると、結束バンドできつく締められていた。足元も同じようだった。口元にはおそらくガムテープが貼られており、息苦しさが強くなった気がした。ふー、ふー、と鼻で呼吸をしながら、やつらを睨む。相手は五人。全生徒を把握している俺対策のための覆面。明らかな計画犯だった。
「ひゃ~怖い怖いっ」
「子ウサギちゃんが睨んでくるぅ」
げらげらと下品な笑い声が倉庫内に響く。不愉快さに声を立てようにも、口は塞がれていて、呻き声しか出せない。やつらの中から、一番体格の良い男が俺のもとにしゃがみこんだ。口元に弧を描きながら、俺の携帯を目の前に落とした。
「やさしい俺たちがチャンスをやるよ」
不審さにより眉根を詰めて睨み返す。は、とそれすら笑い飛ばされてしまい、顔を思い切り捕まれる。痛みにゆがめると楽しそうにやつらは笑う。
「一回だけ電話をかけさせてやるよ。相手は履歴で一番上のやつ。つながったら解放してやる、つながらなかったら…」
なあ、と後ろのやつらに笑いかけると、笑い声が轟く。口笛も聞こえる。
「ベータの男は好みじゃねえが、まあ、顔は可愛いし、お前にはたくさん世話になったからなあ」
顔を間近に寄せられて気持ち悪さに胃が縮こまり、口の中が苦くなる。
「たっぷりお仕置きしてやるよ」
俺たちアルファ様がな、と笑う。
ふざけるな、と怒りで全身の血液が沸騰したが、今の俺に助かる道は、この目の前に落とされた携帯電話しかない。最高で最悪のチャンスだ。ガムテープの下で舌打ちをする。男が目の前で携帯をタップする。画面を俺に見せて、履歴で一番上にいた名前を押す。
「さあ、出てくれるかな~」
あ~ぞくぞくする~、と後ろのやつらが下品に股間を押さえて、げらげらと笑う。気色の悪さに全身の毛穴から汗がにじむ。
でも、大丈夫だ。
一番上の名前は、海智だった。
いつも海智は、俺の電話に出てくれた。優しく話しかけてくれた。大丈夫。
男がスピーカーにセットした電話がコール音を響かせる。一回、二回…。
「あっれ~?」
にやにやと目の前の大男がにたりと笑う。
たら、と額から眉間を通って汗が垂れた。なぜだ。
いくら遅くても、いつもならこのくらいで出るのに。
視界が揺れてくる。どうして。なぜ。
「あ~、こりゃ出ないな」
んん、とガムテープ越しに吠える。
「これだけ鳴らしても出ないってことは…残念だったなあ」
お仕置きタ―イムッ!と目の前の男は立ち上がり、声高々に叫んだ。そして、携帯の電源を切ってから、俺の目の前に落とす。それを取ろうと身体をすぐに動かすと、腹に男の靴先がいきおいをつけてめり込んだ。強烈な痛みに目の前がちかちかとし、口から液体が漏れるが、ガムテープでふさがれてしまい、出ることはない。鼻水がこぼれ、息も絶え絶えになる。くらくらと意識が朦朧とする中で、男たちが舌なめずりをして俺を見下ろしているのだけは認識できた。
「オメガのレイプもそろそろ飽きてきたとこだし、こういういくら殴っても死ななそうなのもいいな」
反対側に立っていた男が背中から蹴り上げた。鋭い痛みに身体を丸めて、少しでも緩和されるように身体を守ろうとする。しかし、ぐ、と上下それぞれから太い腕が伸びてきて、手足が動かせなくなる。
「んーっんんーっ!!」
それでも力任せにじたばたと全身を動かす。俺の二の腕よりも太い手首の相手、それも複数名に叶うはずもない。
「うるせえな」
ばちん、と脳が揺れて、また星が飛ぶ。すぐに右頬が熱を持ちだして、自然と涙が滲む。
「せっかくなら、かわいく喘げよ」
俺の上に男が跨ると、おろしたての長袖のシャツを簡単に引き裂かれる。シャツは横に大きく開かれ残ったネクタイを横から別の大男がつかみ上げる。息苦しさに瞼が重くなる。
「ありゃ、泣いちゃってるの?」
「天下の風紀様が?」
かわい~と男たちがまた下品に笑う。耳障りな笑い声に顔をしかめ、動かない拳を震わせる。
「よく見りゃかわいいじゃん」
横からしみじみとつぶやく男の声を筆頭に、覆面がいくつも顔の前に集まる。
「確かに。これならなんとかイケるかも」
「え~でもベータだろ?」
「でも、この乳首ちゃんなんか、かわいいよ」
びん、と胸元の小さな飾りが急に弾かれ、強い刺激が加えられた。思わず目をつむり、呻く。
「あ~結構いいね~」
反対の胸を別の男が、揉みしだく。気持ち悪さに全身が粟立つ。
「この日のために我慢させられてきたんだから、早くヤろうぜ」
そうだな、と笑う男に気色の悪さしかない。急に胸元に冷たい何かが垂らされて、目を見張る。とろ、と粘り気のある液体を男たちが俺の身体に塗りたくる。変に甘ったるいにおいが立ち込め、余計に吐き気がこみ上げる。
「あ~いい匂い」
「やっぱ、オメガフェロモンないと気持ちよくないわ~」
身体に垂らされた液体を掬った手が俺の首元から顎、頬、こめかみにさらに塗り付ける。オメガ特有のあまったるいフェロモンのにおいがそこら中から匂い立つ。気持ち悪い。
「たまんね」
ずり、と胸元に熱い塊が押し付けられて、急いで視線をやると後悔する。
男のどす黒い肉棒が、俺の乳首にこすりつけられていた。
「おいずりぃよ~じゃあ、俺はこっち」
反対側の男も、硬さを持ちだした大きいグロテスクなそれを、もう片方の乳首にこすりつけた。頭の中がオメガの臭いでぐちゃぐちゃで、何も考えることができなくなってくる。気持ち悪い。
「じゃあ、俺は、こっちだ」
腹の上にいた男が身体をずらすと、ずる、とズボンを下着ごと力づくで降ろされる。ひや、と冷たい空気が尻を撫でる。結束バンドでまとめられた足を肩に担ぐと、冷たい液体を俺の股間にたっぷりと垂らした。その気色の悪さに肌がさらに粟立つ。
「う、ぐう…うう…」
低く呻けば呻くほど、やつらは熱をもった瞳で俺を見下ろす。
「おい、あれどうした」
「あれって、ちんこ棒?」
なんと間抜けな名前の何かを後ろからごそごそと取り出すと目の前の男が、これこれと低く笑いながら目の前に掲げた。
「こいつでまず、お前のケツ穴をおまんこにしてもらおうな~」
どぎついピンク色をした、血管を浮き上がらせた精巧なつくりのディルドに例のローションをたっぷりとかける。情けない卑猥な言葉に自尊心がどんどんと踏みにじられていく。
「あ~早くぶっこみてえ」
「俺も勃ってきた…フェラさせてえ…」
俺の目の前にずい、と勃起したペニスがやってきた。ひりつく頬に、生温かい肉棒がこすりつけられて、胃の中のものがせり上がってくる。
「うっ」
呻き声が下から聞こえると、大量の生ぬるい液体が胸元にかけられるのを感じる。
「うっは、お前、はやすぎっ」
他の男たちがげらげらと大笑いする。
「や~やっぱこのオメガローションさまさまだろ~あ~早くぶっこみてえ」
べり、と口元のガムテープを乱暴にはがされる。
「あ、おい!」
「大丈夫だって、こうすりゃ」
「んぐっうっ」
ぬろ、と頭上にいた男がかがんで、俺の唇に生臭いものが意思をもって擦り付けられる。目の前には男の喉仏があり、やめろっと叫ぼうとすると、隙間を縫って舌が入り込んでくる。ぐちゅぐちゅと唾液が口の端から垂らされる。思い切り舌を噛んでやろうとすると、急に下半身を冷たい何かが宛がわれて、身体が硬直する。ぐう、とそれが押し込まれてくる。無意識に腹筋に力が入り、それを排除しようと身体が強張る。それに反して、男たちは力を込めてねじ込もうとする。
ぬと、と唾液が糸を引きながら自由になり、叫ぼうとすると、容赦なく肉棒が押し込まれる。いきなり喉奥をつかれ、えづくとその喉の締まりに気をよくしたのか、男ががつがつと腰を振り出す。陰毛が鼻に当たって呼吸が苦しい。
助けて…
男たちの惨い仕打ちに、意識が飛びそうになる。
助けて。
目をつむって、強く念じる。ある男の姿を思い浮かべながら。
助けて…!
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