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第1話

『お前って、ほんと使えねぇよな』 いつもそう言われれてきた。 口に出していなくても、その顔が視線がそう言っていた。 その時だけ僕は人の心が読めるようになったに違いないと思うくらいに。 僕は人と争うのが苦手で、まず誰にも反発はしない。 何も言わなければ、 「自分の意見がない」 と責められ、 意見を言うと、 「下らないことを考えるな」 と言われる。 優しくすると人は僕に近づいてきて、 僕が一つでもその人と違う意見を言うと、 怒るか、離れていく。 心が乱れると、冷静な判断が出来ない。 自分が行動した事で人に迷惑をかけてしまうと そう思っただけで、 僕はそこから動けないでいた。 そのうち人は僕から離れていって、孤独になる。 そうして僕は何度も転職を繰り返している。 孤独は 人を支配して、 壊していく。 僕の上司は正論で部下を従わせている。 その部下である先輩も、けして反論はしない。 そしてその下にいる僕は、 先輩にいつも横柄な態度を取られて、 メンタルは崩壊寸前だった。 そのくせ、上司には僕と上手くやっているかのように振る舞うが、 僕と2人きりになると、途端に人格が変わる。 一度、 『なめてんのか』 と殴られた。 着火するような怒りをぶつけられて、後に謝罪をもらったけど、 それからいつどんなタイミングで怒りが着火するのか分からず、 もう彼に向かって意見は言えなくなった。 間違っていても反論ができなくなった。 僕がこの会社に入社して2年ちょっと。 先輩の横柄な態度が怖くて、仕事に集中できない。 それでまた失敗を繰り返す。 もうずっと。 でもそれは上司には言えないので、 僕は精神的に限界だと思ってからもう半年以上無理をして、 心が限界だった。 精神科に行こうと思ったけど、 仕事が忙しくてタイミングが合わなかった。 あと何年我慢すればいいのだろう? 死ななきゃ、 仕事って辞められないのかな? もうどう辞めて良いのか分からかい。 自分が仕事ができないのが悪いんだとずっと自分を攻めていたけど、 こんな鬱屈した日常で、 いい仕事が出来るわけがない。 嫌なら環境を変えろとか言うけれど、 そんな簡単には変えられない。 いつも孤独で その先に何があるというのだろうか? 自分を救ってくれる誰かに出会いたい。 無条件で僕を好きになってくれる人が 現れたら良いのに・・・ そう思って、 僕は自宅の床に寝転がり、 首に巻いていたベルトを緩めた。 結局、 今日も死ねなかった。 今まで何度死のうとしただろう。 学生時代も虐めらて、 登校拒否をした。中学・高校ともに。 勉強が出来ないもの孤独を感じる一つでもある。 だったら勉強をすればいいだろと人は言うだろう。 でもそもそも仕方が分からなければ、 身につけることが出来ない。 自分を信じれられず、 また落ち込む、その繰り返し。 先に進めず、 生きる意味が分からず、 また死にたくなる。 世の中には、 生きたくても生きられない人がいるのに、 自分で死のうとするなんてありえない。 そういう意見が世の中にあるのも知っている。 与えられた命を粗末に扱うなとか、 人の命を奪うのはいけないことで、 それは自分の命も同じだと。 それも言っていることはわかる。 でも、人は孤独には勝てない。 誰かと一緒にいても、 コミュニケーションをしてもられなければ、 それは孤独というものではないのだろうか? くだらない。 この考えで疲れてもう全て辞めたくなる。 「ほんと、世の中舐めてるよな。お前」 その先輩の言葉を最後に、 僕は今の職場を辞めた。 翌月、 大志は新しい職場に入社した。 元々好きだった書店の店員になった。 孤独だった彼は暇があればいつも一人で書店を訪れていた。 そのいつも通っている書店で求人募集があった。 バイトだがその書店の店長が大志を知っていたから、 話はスムーズに進んだ。 仕事が忙しいため必要以上の馴れ合いはない為、仕事に集中できた。 本の事だけ考えられて、仕事内容も自分に合っていた事で、 精神は安定していた。 大志は全ての業務を終え、控室に入った。 「おー、森中くんお疲れ様ー」 控室で大志を出迎えたのは、同僚の佐渡だった。 茶髪でピアスを開けている。 会社的に派手すぎなければ大丈夫だと言われている。 彼はバンドマンで、ライブのときはもっと派手にしているらしい。 「お疲れ様です」 「敬語やめてよ。俺のほうが年下じゃん」 「でも先輩だから」 「硬いな〜」 言って2人は笑う。 正社員時代は、本当に職場の人間関係に四六時中人間関係に悩まされていたが、今はフリーターになり以前より給料は減ったが楽しくて仕方がない。 「前の会社は上下関係にうるさかったから癖でさ」 「会社員って大変だな。あ、それが普通か」 佐渡は高校時代から家出をしてバイトをしながらバンドをつづけているらしい。苦労人だ。でもそれくらい自分が夢中になれる事があるって事が羨ましかった。 派手だが、とても良いやつである。 エプロンとネームプレートをロッカーに入れ、パーカーとリュックを取り出しロッカーの扉を閉める。 「来週の金曜日飲み会あるらしいけど、森中くん行く?」 店長のはからいで時々飲み会がある。ただこの店の飲み会は自由参加でただの食事会である。元々店長がタウン情報誌に載っている店に行きたいと思った事が始まりだった。 「行こうかな・・・」 この店の飲み会は、強制じゃないから時々参加している。 しかもこの店の店長は食べることが大好きで、店員とも仲がいい。 「おっけー、店長に伝えておくね」 「うん、ありがとう」 派手だが、佐渡は勤務態度が真面目で一応準社員になっている。 そして、 今の大志には、気になる人がいる。 「こんにちは」 店内整理をしていると、後ろから話しかけられて大志は振り向いた。 そこには20〜30代くらいのスーツを着たイケメンが立っていた。 いつもの笑顔で。 彼はこの書店の常連の金澤さん。 店長のお友達で大学時代はよくつるんでいたらしい。 最初は彼が買いたい本を一緒に探した事がきっかけだった。 でもその後も、金澤の方から大志に話しかけくてくるようになった。 「こんにちは金澤さん」 大志は少しだけ頭を下げる。 金澤はちらりと大志を見て、 「森中くんさ、今晩ご飯でも行かない・・・?」 イケメンは照れてもカッコいい・・・ 大志は内心そう思いつつ、 「は、はい・・・」 「じゃあ、終わったら連絡して」 大志の耳元でそう呟いて嬉しそうに去っていった。 いつからか、 これは2人だけの秘密の合図。 「あっ・・・」 大志は我慢していたが、思わず声を漏らしていた。 「声、我慢しないで」 彼の上でそう言って腰を動かす金澤。 裸でも彼は格好良くて、色っぽくて・・・ 「だ、だって」 「ほんと可愛いね、大志くん」 そう言って金澤は優しく大志のおでこにキスしながら、 大志の滑らかな肌を首から腰まで撫でて、 両足をぐいっと持ち上げ、今までよりも深く彼の中に 金澤は自分のモノを挿入していく。 「あっ、はぁはぁ・・・ん」 声を必死に抑え、でも気持ちよさに目をつぶる大志の反応に、 金澤は可愛くて仕方がなくなる。 すぐにイッてしまわないように、ゆっくり抜き差しして 大志の反応をじっっと見つめながら腰を揺り動かしていく。 それに気がついて、大志はそのゆっくりが続くとじれったくなる。 そんな時は決まって、 「・・・もっと強くして」 と、おねだりをする大志。 金澤は嬉しくなって、ぐいっと奥まで入れていく。 「んぁああっ!」 奥が苦しくて、気持ちよくて大志は金澤の背中に手を回し、 その爪が彼の背中に傷をつける。 『大志くんが好きなんだ』 ある日、金澤からそう告白された。 『キスが気持ち悪かったら諦める』 そう言って金澤は照れる大志にキスをした。 『気持ち悪く、ないです』 そう答えた。 むしろ、ドキドキが止まらなかった。 それ以来、身体に触れる事から初めて、 今は時々セックスをする仲になった。 でも、 大志は彼に返事をしていなかった。 告白はされたが、 付き合ってはいない。 抱かれるたびに大志は金澤が好きになっていった。 でも、自分に自信がない大志は返事をしないでいままでいた。 「好きだよ、大志くん」 金澤は、大志を抱く度にそう言ってくれる。 本当は嬉しくて思わず好きだと口走りそうになる。 でも、こんな自分では釣り合わない。 そう思っているのに、 身体は許してしまっている自分が、情けない。 こんな自分は彼に好きだと言う資格はないのではないかと 考えてしまう。 なぜ彼は自分が好きだと言ってくれるのだろうか? 大志は自分がなぜ好かれたのか、本気でわからなかった。 自分のどこが良くて告白をしてくれたのか? 事後の後はそう考えながら、いつも帰宅した。 次の週の金曜日。 「さ、好きなものを頼んで〜」 ウキウキの井上店長を筆頭に、書店の店員数名はそれぞれ好きなものを注文する。最近新しくできた創作料理の居酒屋。 大志の働く書店は、店長が食べ物好きで、志願者のみを連れて行く食事会。 前職は強制参加の飲み会だったから、大志は時々参加した。 居心地もよく、のんびりできて、食費も1食浮いて申し分ない。 「食べてるー?森中くん」 店長が嬉しそうに一人ひとりの席を回って声をかけている。 店員それぞれの性格を把握している店長は、 「最近何か悩んでる?」 「え?」 言い当てられてドキッとする。 店長は皆のことをよく見ている。 「仕事のこと以外でも相談にのるよ」 「あ、ありがとうございます」 大志はお礼を言って、 「じゃ、今度相談に乗って頂いてもいいですか?」 「ん、あとで日程決めようか」 「はい」 そこで店長は大志の背中をポンッと叩いて、別の店員の所に移動していった。 金澤の事を誰かに相談したかった。店長は金澤と大学一緒だったし、彼がどういう人かよく知っているだろう。 もっと知りたい。 金澤のこと。 数日後。 大志が、店内で金澤を見つけて話しかけようと近づこうとすると、 すでに金澤は佐渡と楽しく話していた。 そうして去っていく。 今日は話ができないのか・・・ ズキッ・・・ 胸の奥が痛くなる。 自分は所詮、恋人じゃない。 身体の関係を繋げているだけの自分との関係が いつかきっと終わってしまう。 その夜、 店長はいつもの調子で優しく、 「さ、好きなものを頼んで」 「ありがとうございます」 大志は多少緊張して、とりあえずハイボールを注文する。 歳の割には若い井上店長は細身でよく大きめのパーカーを来て出勤する。 今日も大きめな青のパーカーにジーンズ。 「最近上の空だね。何か悩んでるの?」 そう優しく問われれ、ふと思った井上店長はこうして献身的によく店員それぞれの悩みを聞いたりグチを聞いたり、ただ楽しい話をしたり、 この店長が皆に慕われている理由が分かるといつも思う。 こんな良い人に自分の悩みを話して良いのだろうか?と、思ってしまう。 でも、大志は意を決して、 「実は随分前に、金澤さんから告白されまして」 「え、金澤って、肇の事?」 「・・・はい」 「そうなんだ・・・」 店長は少しだけ驚いていた。 やはり話すべきじゃなかったか・・・? いくら店長が金澤と大学時代の仲間でも、もしかしたらセクシャルマイノリティは言っていないかも知れない。 余計なことを言ったかもしれない。 どうしよう・・・ 言ってしまって、後悔が波のように押し寄せた。 自分はいつもそうだ。 他人のことを考えられない人間なんだ。 などと大志は頭の中で色々考えを巡らせていたが、 「あいつ、何か迷惑掛けてたら言ってね?」 「え」 店長の反応は意外だった。 「あいつ結構前から気になる人がいるって言ってたから」 「ええっ?」 「だから昔より店に来る頻度も増えて」 「えええ」 大志は自分が変な顔をしている自覚はあった。 その大志の顔を見て、 「・・・どうやら迷惑してるってわけじゃないみたいだね」 「・・・・」 自分が赤くなっている自覚を必死で隠そうとするが、今は無理だ。 大志はハイボールを一気に飲み干した。 数分後、 「森中くーん、大丈夫?」 ベロベロに飲んで、テーブルに突っ伏した大志は、 「大丈夫れす」 ろれつが回っていない。 大丈夫じゃない。 「金澤しゃんに、会いたいぃ〜」 といって、またテーブルに突っ伏した。 さっきから同じことを呟いている。 井上はふっと吹き出し、 スマホを取り出した。 「もしもし肇?森中くん迎えに来てくれる?」 『?』 急に連絡が入り、電話の向こうで疑問符を浮かべた。 「大志くん?」 数分後、大志が声掛けられてテーブルから顔を上げると、 そこには急いで来たのか、普段着のままの金澤が大志の目の前にいた。 大志はじっと金澤を見上げて、 「金澤しゃん・・・」 「大丈・・・」 言いかけて金澤は言葉が止まる。 大志が静かに金澤に抱きついた。 「会いたかったぁぁ」 「へ?」 べろべろで抱きつかれ、金澤は嬉くおもいながらも戸惑った。 しっかり抱きつかれ離れない。 大志はそのまま眠ってしまった。 金澤は井上を見る。井上はニコニコしながら、 「よろしく」 「お前・・・」 戸惑いながらも嬉しそうな金澤に、井上は満足して帰っていった。 「ん・・」 大志はふと目を覚ました。 知ってる匂い。 自分はベッドにいた。隣には金澤が自分の頭を腕で支えつつ大志を胸に抱きしめている。 「起きた?」 「何でいるの?」 「ここ俺の家」 「・・・何で俺金澤さんの家にいるの?」 すると、金澤は少しだけ微笑んで、 「大志くんが俺に会いたい〜って言ってるから迎えに来てって、健一から連絡があったんだよ」 「・・・そうですか」 否定も肯定もせず、大志はそのまま金澤の胸に顔を埋めた。 その大志の態度が可愛くて、 自分の胸にいる彼の頭を撫でた。 「今日は甘えんぼうだね」 「・・・ダメ?」 やけに素直につぶやく大志に、たまらない気持ちになる。 「俺は大歓迎だよ」 そういって、大志のおでこにキスをする。 そのまま、大志を両腕で抱きしめなだめるように背中をポンポンと叩く。 優しくされるたびに、 気持ちが溢れてくる。 こうしてそばにいるだけで、 抱きしめられているだけで、 幸せな気持ちになる。 これが好きって気持ちなんだ。 大志はむくっと起き上がり、じっと金澤を見つめる。 「水飲む?」 「はい」 大志の返事にベッドサイドにすでに用意しておいた ペットボトルの水を大志に渡そうとするが、 「口移しで飲ませて」 「え」 大志の言葉に金澤は少しだけ照れる。 そんなおねだりをする大志は初めて見るから。 酔ってるせいなのか、 少しというか内心めちゃくちゃ嬉しい。 金澤はペットボトルの水を自分の口に含んで、 そのまま大志に口移しをして飲ませる。 ごくごくと水を飲んで、 大志はそのまま金澤の唇を奪う。 舌を入れられ、それに答える金澤。 深く深くキスをして、 大志は金澤のシャツの上のボタンをはずし、 彼の首筋にキスをする。 彼のその大胆な行動にドキッとする金澤。 「た、大志くん、酔ってるの?」 ドキドキしながら、金澤は彼に声かける。 大志は金澤のシャツを脱がしながら、彼の胸、二の腕、 脇腹とドンドン下に降りていく。 「そうですね。酔ってます」 そう返事をしながら彼のズボンを下ろし、 すでに硬くなっている彼のモノを大志はじっと見つめて、 先っぽを舐める。 それに金澤はビクッと反応する。 そのままゆっくり咥えて舌で裏筋を撫でながら、 ゆっくりと口を動かしていく。 「っあ」 思わず声を漏らす金澤。 酔っていつもより積極的になっている大志がたまらない。 可愛すぎてもうイッてしまいそうだ。 金澤は自分のモノを咥えている大志を放し、 「気持ちよくない?」 「良すぎるって」 もう我慢できずに大志を押し倒す。 大志の服を剥ぎ取るように脱がせ、 タガが外れたように彼の口を深いキスで塞ぐ。 大志のピンクでぷっくりしている乳首を舐めて吸って、 「んぁあ」 それにいつもより声を上げてイッてしまう大志が可愛い。 たまらない。 前を触りつつ、後ろに指を入れていじっていく。 「ああん、金澤さ・・・」 そのまま後ろに挿れられ気持ちよさそうな喘ぎ声を上げる。 いつもより激しく腰を揺り動かしながら、 「好き」 金澤はいつものように好きと言いながら、 大志にキスする。 それにキスで返す大志。 そしてじっと彼を見つめ 「俺も」 「え・・・」 大志の口から出た言葉が、 意外なもので、 一瞬耳を疑った。 「っ」 その言葉を聞いて、金澤はイッてしまった。 大きく息をして、 「大志くん、今なんて・・・」 そう聞こうとしたが、すでに大志は眠りについていた。 聞き間違いじゃなければ、 大志は言った。 『俺も』 金澤は眠ってしまった大志をギュッと抱きしめた。 夢じゃありませんように。 翌朝、 大志は酷い二日酔いで目が覚めるとなぜか金澤の部屋で寝ていた。 わけが分からずとりあえず、井上店長と飲んでいた自分が、金澤を迎えに呼び出したようだ。 痛い頭を抑えながらお礼と謝罪を言って、彼の部屋を後にした。 今日が土曜で良かった。 2日眠ったら、二日酔いは良くなっているはずだ。 しかも自分が井上店長に何を相談したのかも覚えていない。 いつもなら、二日酔いが良くなると大抵は記憶も思い出してくる。 月曜日になり、 だんだんと自分が何を相談したかを思い出してきていた。 在庫チェックをしながら、 大志は金曜日の事を考えていた。 井上店長に金澤の事を聞いて、すごく飲んで、 なぜか金澤が迎えに来て、 抱っこされながタクシーに乗り、 金澤のベッドに寝かされて、 「・・・」 大志は顔を押さえた。 恥ずかしい事ばかりしてた。 めちゃめちゃ甘えて、それに嬉しそうな金澤の顔。 まるで恋人じゃないか・・・。 それに、 「好きだよ」 「俺も」 え、 待って・・・ 俺もって、言った? 自分で気が付かなかったけど、 俺もって、言った。 確かに言った。 ・・・言ってしまった。 どうしよう。 どうしよう!!! 「森中ぁさっきから、どうしようどうしようって、どうしたの?」 と、動揺する大志の後ろから佐渡が声かけた。 振り返った大志の顔を見て、 ぎょっとした。 「お前・・・大丈夫?」 顔面蒼白の大志を見て、多少引き気味に心配して聞いてきた。 何とか業務を終え、営業終了後、 バックヤードで帰り支度をしていると、 「お前ほんと大丈夫?」 佐渡は仕事中はずしていたピアスを自分の耳につけ直しながら、 「ずっと、どうしようっていってたけど何かあった?」 あえてしれっとしながら聞いてくる。 それに店長も、パソコンに向かいながら、 「そうだよ。相談くらいのるよ」 優しくうながした。 大志はエプロンをはずしながら、ロッカーの方に向きながら 「・・・金澤さんって、いつも会うたびに、その・・・好きっていってくれるんですけど」 「?うん」 「それが?それは前にも言われてるんだろ?」 佐渡の言葉にうなずく。 「でも、この間、その・・・」 『?』 いいにくそうに、もじもじとする大志。 2人は疑問符を浮かべながら、続きの言葉を待った。 「このあいだ、つい、『俺も』って、言っちゃったみたいで・・・」 その言葉に、 『・・・え?』 2人は再び疑問符を浮かべた。 大志は顔を真っ赤にして、 「その時は、酔ってて、言ったことを忘れていたんだけど、 さっき、急に思い出して・・・」 自分の顔を押さえた。 井上店長と佐渡は顔を見合わせる。 「まだ言ってなかったんだ」 「遅すぎねぇ?金澤さんかわいそー」 2人の言葉にぐうの音も出ない。 まさかあんなふいに言ってしまうなんて、 自分でも意外だった。 「好きなんだろ?金澤さんの事」 佐渡にまっすぐに問われて、 少しの間を開けて 「うん・・・多分」 「多分って何だよ」 「だ、だって」 「ふいに出るってことは、無意識に好きなんだよ」 確信を突くような佐渡の言葉に、 「・・・確かに好きだけど、その」 大志は拳をきゅっと握りしめ、席を立つ。 「俺じゃ、釣り合わないよ」 カバンを手に出てった。 あれから金澤は店に来ていない。 連絡もないし、自分からもしていない。 会ってどうすればいいのかわからない。 ふと駅の前に立っている金澤を見かけた。 遠くから見ても彼はカッコよかった。 スーツがよく似合って、 細身の身体は、脱ぐと適度な筋肉があって 最高にエロい。 通りすがりの人が見惚れるくらいの素敵な人が、 自分を好きだというのだ。 自分に自信がない大志にとって、 とても大きなハードルだった。 などと考えていると、 駅の前にいる彼に一人の女性が駆け寄る。 2人は笑いながら、歩いていった。 それを呆然と見送る大志。 ああそうか、 自分は何を勘違いしていたんだろう。 恋人じゃないんだ、自分は。 俺もなんて言ったから、 きっと重く感じたんだ。 どんどん大志の心に黒い思考が 押し寄せた。 俺は・・・馬鹿だ。 大志はトボトボと家に帰った。 家の扉を閉め、 「・・・・・・・・・・・・・・・・・」 玄関に立ち尽くしたまま、 黙っていてもただ流れていく涙を、 拭くこともなく、 しばらくその場に立ち尽くした。 こんなにつらいなら、 好きになるんじゃなかった。 やっぱり こんな自分は選ばれない。 こんなダメな自分なんて。 何を調子に乗っていたのだろうか? こんなダメな自分なんて、 幸せになれないんだ。 「うっ・・・」 声を殺して泣いた。 翌日、 「あれ、大志くんは?」 夕方、書店に来た金澤がきょろきょろと店を見回した後、近くにいる佐渡に話しかけた。 佐渡は在庫チェックをしながら、 「あいつ、休みですよ」 「・・・そう」 明らかにがっかりする金澤。 本当に彼は大志が好きなんだなぁと思った。 「あのさ、最近の大志くんってどうしてる・・・?」 もじもじしながら聞いてきた。 (女子かよ) 内心突っ込む佐渡。 「しばらく忙しくて会ってなかったから・・・」 あれからどうしてたか、気になって吐いたようだ。 佐渡は、 「店終わったら、ちょっと時間ありませんか?」 「・・・いいけど」 きょとんとする金澤。 その夜。 大志は何もやる気が起きないでいた。 考えすぎて熱が出てしまった。 薬を飲んで水分取って寝たら、さすがに熱は下がった。 でも、何もやる気が起きなかった。 自分は調子に乗っていたのかも知れない。 もう会わない方がいいかもしれない。 忘れよう。 あの長い指も、 意外と筋肉質な身体も、 キスしたくなる首筋も、 甘くキスしてくれるあの唇も、 忘れられない・・・ 大志は、いつも金澤が自分に触れている時を思い出し、 ベッドの上でスウェットをめくり上げ、自分で乳首を弄る。 そのままもう片方の手でズボンの中に手を入れて握る。 彼なら先っぽを手のひらで撫でてそのままゆっくりと指で根本までなぞっていく。 金澤の手はいつも優しくて良い所を触ってくれる。 どこを触られても気持ちいい。 しばらく自分で扱いて、 『大志くん、好きだよ』 いつも優しい声で言ってくれる。 抱かれると気持ちよくて、 幸せになれた。 「あっ、あっ、ん・・・俺も、好き」 もうすぐイきそうになった時、 ピンポーン。 インターホンがなる。 時間は夜の22時。 こんな時間に誰だ。 しかも、イキそうだったのに。 大志は慌てて服を整え、 玄関に急ぐ。 「大志くん・・・?金澤です」 大志はドキッとした。 何で、今? 想像で抱かれていたのに、 今顔を見るとヤバい。 「・・・何か用ですか?」 ドア越しに声をかける。 「とりあえず開けてくれる?」 「いやです」 間髪入れず拒否する大志。 「佐渡くんに聞いたよ。俺が女の人とこないだ歩いてたって。あれ違うから!妹だから!」 「・・・え」 「妹が結婚するからお祝いしてくれって煩くて・・・」 妹? 俺の勘違い? 急に力が抜ける。 「・・・もしかして嫉妬した?」 ドア越しに、金澤がそう口にする。 「・・・・」 完全に嫉妬だ。 明らかだった。 それくらい金澤のことが好きだ。 でも・・・ 「なんで、俺のこと好きなの?」 「え?」 突然問われて戸惑う金澤。 大志は玄関のドアの前でしゃがみ込んで、 「俺なんかどうしようもないのに、 すぐにネガティブになるし・・・何で俺なんかっ」 まただ。 自分に自信がない。 そんな自分が嫌いだ。 なのになんで好きだと言ってくれるのか分からかい。 金澤は、少し前に井上店長が言っていた言葉を思い出す。 『森中くんは前職でかなり人間関係に悩んでいたから、 過度に自信がないんだよ』 そう言っていた。 金澤は、 「理由なんてないよ。・・・でも強いて言うなら」 優しい声でそう言った。 「店で初めて見かけた時、目が釘付けになった。 あんなに心を奪われたのは正直初めてで、自分でも戸惑った」 金澤はドアの外であることも構わず、 「本を探してくれたり話しかけた時の受け答えとか、話をする度気になって、いつしかその・・・キスしたらどんな反応するのかって想像して」 照れた声色になる。 「その想像が・・・抱きたいって方にいって・・・」 普通に話していた時も、内心そんな事を考えていたなんて・・・ 恥ずかしすぎる。 大志の鼓動が激しくなった。 「だから、こんな誤解で諦めたくない」 必死な声が聞こえる。 自分は本当に馬鹿な質問をした。 「開けて」 促されて、 しかたがなくドアを開けた。 目の前には、いつもの金澤がいた。 大志はドアを開け、彼の顔を見つめた。 その時全身がぞくぞくっとして、 「っあ・・」 身体が震えて、 ビュクッ ズボンの中でイッてしまった。 床には少しだけ滴る大志の精液。 はあっはあっ・・・ イッてしまい息を荒げる大志。 今来たばかりの金澤の目の前で、 彼の顔を見ただけで、 イッてしまった。 「え・・・今イッたの?」 「い、いや、その」 大志はどう言い訳しようか迷った。 でも言い訳できない。 彼の顔を見てイッてしまった。 恥ずかしい。 大志はブルブルと震えて、 「何だよ、今自分でシテたのに・・・何で今来るんだよ!」 怒りと恥ずかしさで震えながら泣き出した。 金澤はそんなエロい大志を前に、 「ごっごめん・・・」 泣いてしまった大志の頭を、金澤は優しく撫でてそっと彼を抱きかかえた。 そのままベッドへ運んでいく。 ゆっくりとベッドに彼を下ろして、 「俺のこと考えてシてくれたの?」 「・・・そうだよ」 「じゃあ責任取らないとね」 金澤はシャツを脱いで、大志を脱がして彼の股間をマジマジと見た。 パンツの中はすでのさっきイッたお陰で、 もうグジャグジャだった。 それを見られて、さらに赤くなる大志。 そんな大志を見て、 「可愛い・・・大志くん」 ちゅっと彼の口にキスをして、自分の服を脱いでいく金澤。 さっきまで想像していた彼の裸を目の当たりのして、 大志はじっと彼の身体を凝視した。 格好良くて、 エロくて、 もうすでに完勃ちしている金澤は、 荒い息を吐いて彼と繋がった。 「んっ」 ゆっくりと後ろの挿入され、声を漏らす大志。 ぬちゃぬちゃと、やらしい音が部屋に響く。 抜き挿しを繰り返し、繋がっているという事がやけに 生々しく感じてしまう。 「好きだよ、大志くん」 「っ・・・」 大志は口を押さえている。 それを見て金澤はクスリと笑い、 大志の両腕を彼の頭の上で押さえ、 「どうして口塞ぐの?大志くん」 「っあ、だ、だって・・・あ」 (また余計なことを口走ってしまいそうで・・・) 金澤は大志の耳元に顔を近づけて、 「好きだよ」 また言った。 金澤はゆっくり大志の頭を撫でて、 「このいつも跳ねてるくせ毛も、 クリクリな目も、つやつやした肌も いつも 僕を虜にするその唇も全部好き」 いいながら、何度もキスをする。 「たまに店の遠くからこっちを見てる所も」 「え!気付いてたの・・・」 「当たり前でしょ、俺はずっと大志くんを見ていたんだから」 とふふっと笑う金澤。 いつもより優しく微笑んだ。 「人は完璧じゃないんだ。 時々は落ち込んだって良い、 ネガティブになっていい。 たとえどんなに大志くんが、 自分を嫌いになっても 俺はそんな大志くんも好きだから」 彼はまっすぐこちらを見て、 「全部好き」 胸が一杯になってくる。 こんなに自分を好きだと言ってくれた人は今までいなかった。 「今日は言ってくれないの?『俺も』って」 「へっ?」 その言葉に全身赤くなる大志。 「大志、言って」 艶っぽくおねだりする金澤。 大志は胸がいっぱいになった。 「俺も・・・すき」 震える声でそう言った。 その言葉に、金澤は胸がいっぱいになる。 もちろん大志が好きでもない奴と寝る様な奴じゃない事は知っている。 それに気持ちは十分過ぎるくらい伝わっていた。 でも、金澤も自信がなかった。 自分が彼に選ばれるのか不安だった。 「嬉しい・・・」 声を詰まらせて、涙を流していた。 でも嬉しそうに笑っていた。 大志はそんな彼の涙を手で優しく拭ってやる。 「泣かないで」 まっすぐ彼を見て、 「好きだよ、金澤さん」 今度ははっきり言った。 金澤は大志と深く深く、 口づけを交わし、 朝まで抱き合った。 後日、 「あの2人上手くいってるみたいですね」 「そうだね、良かったよ」 バックヤードでコーヒーを飲みながら佐渡は井上店長と話をした。 自分に自信のない大志がやっと嬉しそうに話すようになって、 2人はホッとしていた。 ただ、佐渡は少しだけ大志に相談されなくなって寂しさを感じていた。 そんな彼を見つめて、 井上はふっと笑う。 「寂しそうだね、森中くんに相談されなくなったから?」 「ん?ははっ、まあね」 気のない返事を返す佐渡。 別にそこまででないが、図星だった。 「今日飲みに行かない?」 「え?」 「相談にのるよ」 「別にないですよ、悩みなんて」 「ふうん」 何となく一緒にいるのを拒否されたように思い、 「じゃあ、僕の相談に乗ってよ」 「え」 「ならいいでしょ?」 店長の悩み? 何か悩んでいるのか? それを部下の俺に? 「俺でよければ、いいですけど」 「ありがと、じゃあ今夜ね」 言って店長は仕事に戻った。 少しの間をおいて、 「え、今夜!?」 驚くが井上店長はもう仕事に戻った。 その夜、 いつもの居酒屋。 個室には井上店長と佐渡がいた。 実は2人で来たのは初めてだった。 佐渡のような茶髪でピアスのバンドマンがこの店で働ける事になったのは、 井上店長の口添えがあったからだ。 「好きなもの頼んで」 「あ、りがとうございます・・・」 人に偏見のない井上店長は、 見た目やセクシャルマイノリティなどでは 人を差別しない人で授業員からもそうだが、 人に好かれている。 そう誰にでも。 佐渡は出来れば2人きりで食事に来ることは避けたかった。 2人になると、何を話して良いのか分からなかった。 とりあえず注文したビールをちびちびと飲んで、 佐渡はメニューを見るフリをして、  井上を見ないようにしていた。 「佐渡くん、仕事楽しい?」 「え、は、はい」 「店内で何か変えたい事はない?」 「んー・・・」 言われて佐渡は、腕を組んで考える。 「しいていえば、新刊の棚のレイアウトを変えたほうがいいと思う。高すぎる棚をやめて、低めの棚で統一して目立つようにする・・・とか」 「なるほど、いいね」 ふふっと笑う井上。 気のせいか分からないが、 井上が佐渡と2人だけ話す時、 少しだけ井上の雰囲気が変わることに気がついていた。 気のせいかも知れないが。 それが少しだけぞわぞわした。 「それで相談って何ですか?」 早めに切り出す佐渡。 井上が相談死体なんて言ってきたのは 初めてだった。 「うーん」 井上は椅子の背もたれに体重を預け、 言いしぶる。 「びっくりしない?」 「え?」 少しだけはにかむ彼に、愚問付を浮かべる佐渡。 井上は佐渡から顔をそむけ、 「あのさ、僕が君のこと好きだって言ったらどう思う?」 何故か呑気に口にするその言葉に、 呑気に言っているが、目が真剣なのはわかった。 佐渡は完全に固まった。 佐渡には井上が何を言いたかったのか、 薄々予想していた。 佐渡は顔をそむけ、 「何も」 気のない素振りでそう答えた。 といいつつ内心動揺が止まらなかった。 「気持ち悪い?」 「・・・気持ち悪くはないです、けど」 言葉を続けてしまい。 佐渡は、しまったとおもった。 井上は興味のある顔をする。 「けど?」 「・・・・・・・・・・・・」 次に続ける言葉が見つからない。 しばらくの沈黙の後。 ぷはっと井上が吹き出す。 「ないんじゃん、続ける言葉」 可愛らしく笑う井上に、 佐渡は目をそらす。 「俺は誰とも付き合う気はないです」 「どうして?やっぱり森中くんが好きなの?」 「あいつはそういうのじゃない」 「じゃあどうして?」 やけに食い気味になる彼に、 少しだけ考えて、 「今はバンドが一番だから」 きっぱり言ってビールを一気に飲み干す。 それを聞いて、 井上はしばらく考え、 「そっか」 少しだけ悲しげに笑う井上に、佐渡の良心が痛む、 明らかにホッとした顔をする佐渡。 その彼を見て、少しだけ目をそらしながら、 「最近の君の曲、片思いの曲が多いよね」 その言葉に佐渡の手が止まる。 「ライブいつも行っているけど」 声色が少しだけ変わる。 「君が作詞作曲してるんでしょ?」 佐渡は答えない。 井上はつづける。 「評判いいらしいね。ファンの子が言ってた。バンド仲間も最近の曲はすごく良いって」 「ち、ちょっと!」 そこで慌てる佐渡。 「何?」 「バンド仲間って何!?」 「たまたま会場で会ったから、佐渡くんの上司ですって挨拶して」 「ちょっと!?」 「そしたら、ああーあの井上さんかーって」 そこで佐渡は完全に頭を抱えた。 「おかげでいい曲出来てますって、お礼言われて」 「・・・」 「よくわかんなけど、いえいえって答えた」 井上がそこまで言って、佐渡をよく見ると、 両手で顔を覆っていた。 今自分はどんな顔をしているのか分からないが、 少なくとも井上に見せるわけにはいかない。 てかこのリアクション自体が肯定している事になるのではないのか。 何でバンド仲間に挨拶? あいつらもあいつらだ! ・・・いや、そもそも話した自分が悪い。 井上が自分たちのライブに来ていたのを実は初めて知った。 何で?どうして? 佐渡はハッとして顔を上げて、 「てかどうしてライブの場所知ってるんだよ?」 「大志くんに聞いた、というか最初は一緒に行ったから」 何をしてくれてるんだ森中・・・ 「ずっと興味あったから。最初は君の声が好きになって、 気がつけば君自身を好きになってた」 自分が信じる生き方はいつも先へ進んでいくのを邪魔した。 初めて髪を染めた時、 ピアスを開けた時、 好きな音楽で生きると決めた時、 それを全て認めて、 味方になってくれたのは、 井上が初めてだった。 いつしか信頼は恋心に変わっていった。 それを口に出すことは出来なかったから、 曲に込めた。 あまりにも心が込もってて、 バンド仲間に理由を聞かれ話した。 でも、仲間は応援してくれた。 ただ思うだけで良かった。 なのに。 「俺を困らせたいの?」 「そんなつもりはないよ」 下を向いたままの佐渡に、井上はいつもの優しい声で、 「君のことが好きなだけ。君が俺をどう思っているのか気になっただけ」 大人だな、店長は。 「それに」 井上は頬杖を付きながら言葉を続けて、 「キスしたらどんな顔するのかとか」 「!」 「セックスしたらどんな反応するのかとか」 「ちょっと‼」 思わず顔を上げる佐渡。 彼の顔が見れて、嬉しそうに笑う井上。 「まあ、そこまでは早急だから、今はいいけど」 「今はって・・・」 観念したような佐渡に井上は、 「これから覚悟しててね」 と、佐渡のグラスに自分のグラスの端を、 乾杯の意味を込めてコツンとブツけてくる。 「・・・やだってば」 佐渡は赤面したまま頭を抱えた。 エピローグ。 大志と金澤は佐渡のバンド《エレクト》のライブに来ていた。 最近人気が出てきて、今までより少しだけ多いなライブハウスで行われていた。 「佐渡くん今日はとてもよかったよ」 楽屋に挨拶をしに行って、 花束を渡しながらそう伝えた。 ライブ後の興奮冷めやらない佐渡は、 「ありがと。金澤さんもありがとございます来てくれて」 花束を受け取りながら、大志と一緒に来た金澤に挨拶をした。 2人は順調に付き合いを続けているようで佐渡はホッとしていた。 金澤は、 「初めてきたけどすごく良かったよ!特に最後の曲なんて」 「・・・うん」 少しだけ照れたまま、佐渡は頷いた。 自分でも不思議だった。 気がついたら、今まで井上のことを思って何曲も曲を書いていた。 今日のライブで歌った最近の曲は、 両思いの曲。 正確には、井上の押しに佐渡が折れたのだ。 「あれ?さっきまで井上店長いたのに」 その大志の言葉に佐渡は頭を掻いて、 「楽屋には来るなって言ってるからな」 その言葉に、 不満を口々にするバンド仲間。 それに、うるさい!と、一喝し、 「いいんだよ!」 つまり照れるのだろう。 それを見て笑い顔を見合わす大志と金澤。 「いいんだよ、家に帰ったら会えるから」 「空ぁ〜、ノロケ言ってる〜」 「うるさい!」 相変わらず照れてるが、曲の中では素直に気持ちを表現している。 そのギャップに、皆佐渡が好きになる。 本音を言えば佐渡はずっと、井上が好きだった。 茶髪でピアスで素直じゃないガキの自分を、 受け入れてくれた。 味方でいてくれた。 好きだと言ってくれた。 そんな彼にいつか聞いてみたいと書いた曲。 《ダメな僕を君が好きだという理由》 終。 おまけ:飲み会後の話。 次の日の夜、井上は突然佐渡の家に行きたいと言い出した。 あまりに突然だったので、佐渡は慌てた。 (何で?急に家に?俺何かした?) 佐渡はてっきり説教をされるのかと身構えていたが、 家に入るなり、井上は佐渡にキスをしてきた。 「!?」 軽くなんてものではない。 下を絡ませ、上顎を舌で撫で回す井上。 「んっ、ち、ちょっと!」 顔を真っ赤にして口を話して待ったをかける佐渡。 井上は、途中で止められて不満な顔をしていた。 「何?」 「いや、何で急にこんな・・・」 「僕からすれば急じゃないよ。ずっと我慢してた」 「へえ!?」 素っ頓狂な声を出す佐渡に、 「どれだけ君に手を出したかったか、分からないでしょ?」 「・・・」 昨日井上店長に告白されて、次の日にはこんな・・・・ 佐渡の頭は追いつかなかった。 自分だってずっと井上店長に片思いしていた。 でも自分は告白する勇気がなかったから、全てをバンドの曲に込めて思いを歌ってた。 本人になんて知らせるつもりなんてなかった。 なのに・・・ 井上はあっさり佐渡に告白してきて、 あまつさえ最近作った曲が全て井上に向けた想いだったことも知られてしまった。 これ以上恥ずかしいことなんて無いと想ってたのに。 「どっちがいい?」 「え、何・・・」 「抱きたいか、抱かれたいか」 「!?」 あまりの井上のストレートさに、佐渡は頭が追いつかない。 ボッと赤くなり硬直した。 「君だって想像してないわけなじゃないだろ?」 「・・・ま、まあ」 自分だって何回か井上で抜いたことあるし。 目の前にいる井上をじっと見つめ、 「だっ、抱きたいです・・・」 「いいよ」 そう言って微笑む井上は佐渡に再びキスをした。 これは、やばい。 「んっ、あっ、はあっ」 佐渡が腰を揺り動かす度に、 井上のやらしい喘ぎ声が部屋に響く。 ばちゅっばちゅっと、肌がぶつかる音と、ローションの滑る音、 もう2回目だが、全然萎えない。 井上がやらし過ぎて止まらない。 イッてしまう度、 「もっとしてぇ」 と、甘くねだりしてくるのだ。 「これは、一生離せないな・・・」 ぼそっと佐渡はつぶやいた。 「え・・・なんて・・・?」 あまりに気持ちよくて、井上は聞いていなかった。 佐渡はくすりと笑い、 「何でもないよ」 きっと次も曲にして伝えるよ。 佐渡は心の中でそう呟いた。 おまけ:終わり。

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