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16.野宿をしよう

   いつまでもここに居るわけにもいかず、ひとまず移動する事になった。  しかしソラは動けない。そうすると、必然的にこうなるわけである。 「すまないプラド」 「ふん、感謝しろよな」  ソラはプラドの背中に担がれて見知らぬ森を進んでいく。  ソラから礼を言われ、プラドは得意げに鼻を鳴らした。  そんな彼は苔の生えた地面に足を取られないよう、ソラを担いだまま慎重に足を踏み入れる。  ソラも出来るだけ負担にならないようにとプラドの首元に回していた腕の力を強めた。するとプラドは一瞬ビクリと肩を揺らして文句の言葉を並べた。 「お、おいっ、あんまりくっつくな」 「分かった」 「……てっ、危ないだろしっかりつかまってろ!」 「……難しい要求だ」  そんなこんなで静かな森を騒がしくしながら進んでいけば、辿り着いたのは小さな川辺だった。  プラドは岩場のなるべく平坦になっている場所を選び、ソラをおろす。  ソラは岩に寄りかかって座り、プラドも座って共にやれやれと息を吐いた。 「プラド、よく水場が分かったな」 「馬鹿にするなよ。俺だって探知ぐらい使える」  探知で周りを把握したとしても、適した場所を選んだのはプラドだ。  だから感心したのだが、どうにもプラドはソラの言うことに過剰に反応し素直に褒められてくれない。  だったら余計な事は言わないでおこうと思い、ソラは今後の行動を確認した。 「一晩寝ればある程度魔力も回復すると思う」 「どちらにしろ今から下手に動くのは悪手だろ。今日は野宿だな」  日も沈みかけた森はどんどんと薄暗くなる。  プラドの言う通り今日はこのまま夜が明けるのを待つのが最善だと思われた。  しかしそれは口実で、ソラにはそれしか選択肢が無い。魔術が使えない上にまともに動けもしないのだから。  それでもプラドはソラの状態に関して口を出さず、一息ついて川へ水を汲みに行く。  当然のようにソラにも水袋を渡し、再び隣に座ったプラド。そんな彼の気遣いに感謝しながら、ソラは喉を潤した。 「あぁ、そういえば……」  しばらく無言が続いた後、ソラは何かを思いついたように呟く。  ごそごそとポーチをあさり、取り出したのは小さな革袋。それを差し出せば、プラドもつられたのか手を出し受け取った。 「これは……学園祭でお前が作っていた携帯保存食か」  革袋の紐をほどいて中を覗き込んだプラドが言う。  中には親指ほどの丸薬が入っていたのだ。 「噛まずに水で流し込むのがコツだ」 「心配しなくても、あの調理現場を見てたら間違っても味わおうとは思わねーよ」  プラドからツッコまれながらもソラは一粒口に放り、すぐさま水で流し込んだ。ひとまずこれで空腹による体力の低下は防げるだろう。  あとは体力と魔力の回復の為にひたすら体を休め、夜が明けるのを待つだけだ。  なのでソラはすぐさま頭を切り替えて、せっかくなのでプラドにかかった魔術の検証を再開させる事にした。  プラドの災難はこんな状況でも続くのである。  さてどうやってプラドに触れそうか、とソラはさりげなく隣を見やる。  するとばっちり視線が合ってしまい、“さりげなく様子を盗み見”は失敗に終わる。  失敗してしまったからには次の作戦を立てなくてはいけない。けれどどうにもプラドの様子がおかしくて、ソラも視線を合わせたまま首を傾げた。 「……プラド?」 「……」  最近はあまり目を合わせてくれなかったのに、今はジッとソラを見つめるプラド。  そんな様子のプラドを、ソラは見覚えがあった。  たしかあれは実戦考査の初日、講堂で共に課題をした際だったはずだ。  あの時もぼーっとソラを眺めていたかと思えば、その後におかしな事を口走ったのを覚えている。 「──……お前……」 「うん?」 「……髪、おろしても綺麗だな……」 「……そうか」  こんなふうに。  

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