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18.眠ることにした
なぜ唇をくっつけているのだろうとぼんやり思う。
しかしすぐに答えは見つかった。
そうか、魔力譲渡か……と。
確かにプラドの方法は正しい。服越しより素肌、素肌より粘膜が魔力を送り込みやすいからだ。
唇は粘膜の一部がめくれ上がってできた部位な為にそこを利用するのは合理的と言えよう。
突然でソラも驚いたが、それを思えばせっかくの気遣いを無下にしてしまう訳にはいかないくなる。
そう思いソラも力を抜いてプラドに体を預けた。
すると──
「──……ふ、ん……?」
そろり、と滑り込んできたプラドの厚い舌。
流石のソラも戸惑い体を離そうとしたが、いつの間にか握られていた手を放され腰を強く引き寄せられていて離れられなかった。
ましてや今のソラはまともに力が入らないのだ。
これは困った、とソラは思う。
何が困ったかといえば、息が出来ない。
舌まで入れられたのは驚いたが、これがプラドなりの魔力の譲渡方法だとすれば拒むのも申し訳ない。
混乱しながらなんとかそこまで理解しても、呼吸が出来ないのは困る。
「はっ……ん、ふぅ……」
僅かにあいた隙間からなんとか呼吸をしようとするが、プラドの唇が追ってきてそれを阻止する。
そうこうしている間に控えめに入り込んでいた舌が、ソラの中を確かめるようにそろそろと動き出す。
舌の先同士が接触し、つい奥に引っ込めればプラドの舌がゆっくり追ってきた。
あやすように舌を撫でられるが、息が苦しくて緊張したような力は抜けなかった。
もう限界だとプラドの背に手を回し引っ張ろうとしたが、手を回すまでは出来ても引っ張る力は無い。
だからただプラドに抱きついたような形になってしまったが、その時ソラはプラドの鼻息が強くなった気がした。
角度を変えて更に深まる口づけ。
せっかく魔力を分けようとしてくれているのだからそれに集中したいのだが、頭がくらくらしてきてまったく魔力をもらえていない。
不甲斐ない自分をソラは残念に思う。
体を張ってまで己を助けてくれようとしているのだから、せめて少しぐらい自分のものにしようと懸命に舌を絡める。
すると更にプラドの鼻息が荒くなった気がして、そこで──
「……ん、あ? お、おいっ」
──ソラは落ちた。
くたりと腕の中で伸びてしまったソラにプラドが慌てだす。
ずり落ちそうなソラを胸に抱きなおし、何度も名を呼べばゆっくりまぶたを開いたソラ。
視界に困った様子のプラドを確認し、まだぼんやりした頭でソラは思う。
また迷惑をかけてしまった、と。
「すまない……上手く、できな、かった……」
「ぐぅ……っ」
だから呼吸が整わないままでも謝罪の言葉を口にしたわけだが、プラドは苦しそうな声を漏らして押し黙ってしまった。
やはり怒っただろうか、と思うがまだまともに話せそうにない為、とりあえず呼吸を整える事に専念する。
魔力不足な上に体力を使い、くたりとプラドの胸に身を預けていると、プラドがぎこちなく口を開いた。
「あー……、その、は、初めてだった……のか?」
初めてだったのか、と問われ、ソラは小さく首を縦に振る。
魔力譲渡の方法は知っていても、実践は初めてだったからだ。
「そ、そうか……っ」
するとなぜか少しだけ嬉しそうな声を出したプラド。
「そんなんで良く誘って……」とか「お前って俺の事が……」などブツブツ呟いていたが、色々と限界が来ていたソラの耳にはまともに届かなかった。
温かな腕の中でかわりに聞こえてくるのは、妙に大きくて速い鼓動だった。
ドクリドクリと力強い音を聞いていると、まぶたはどんどん重くなる。
もう、寝てしまうか。
そう考えたソラの頭の切り替えは早い。
魔力を回復させなくては何も出来ないし、プラドにも迷惑がかかる。
だったらさっさと睡眠を摂って魔力と体力を回復させるのが、今の自分が優先させる事だろう。
「……プラド……」
少し寝かせてくれ、と言葉を続けたかったが、それは叶わぬまま。
コテンと頭を預けてきたソラの細い体を、プラドはぎこちない力加減で抱きしめつづけた。
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