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41.さぁ、デートをしよう

     そうして迎えた休日。  ソラは予めプラドに指定していた待ち合わせ場所に出向くと、すでにプラドが仁王立ちで待っていた。 「おい、メルランダ」 「なんだ?」 「お前の指定された通りに来たけどな」 「あぁ」 「日が昇る前に森の前で動きやすい服装と使い慣れた武器を持って待ち合わせ、で合ってるか」 「ふむ、正しい」 「……で? 今日はどこに……いや何をするんだ?」 「魔物の討伐だ」 「だろうなっ!」  ソラが指定したのは学園の敷地内にある森の前。以前実技考査があった場所である。  そこで指定された通りに戦いやすい格好とやたらビシッと決めた髪型で来たプラドは、分かっちゃいたが膝から崩れ落ちた。 「なんっっで魔物の討伐なんだよ!」 「私がプラドと魔物の討伐をしたかったからなのだが……ダメだっただろうか?」 「んんん……っ」  かわいい恋人との甘酸っぱいドキドキ初デートを期待していたプラドは落胆したが、落胆からの不意打ちのかわいいお願いにプラドの情緒は忙しい。  アメとムチの使い分けである。もちろん無自覚だ。 「俺、だけ……だからな……こんなもんに付き合えるのは……俺だけだ……」  プラドは自分を納得させるための呪文を唱えながら立ち上がり、気を取り直してソラに向き合う。  そんなプラドに何がダメだったのだろうと首を傾げるが、考えたところでソラには分からなかった。  今日のデートプランはソラだけで考えたのでは無い。  協力者がいるのだ。その協力者とは、もちろんパン屋のマリアである。  祖母のヒナタにプラドとの交際を手紙で伝え、そのついでにデートとはどこに行くべきなのか相談した。するとヒナタとは別にマリアからも手紙が届いたのだ。  マリアによれば、まずは自分の趣味に付き合ってもらい、お互いの理解を深めるのはどうか、とアドバイスがあった。  なるほどと感銘を受けたソラは、さっそく実行したまでである。 「それで? 何の魔物を倒すんだ」 「以前倒しそこねた異変種のゴーレムだ」 「は?」  歩き出したプラドはとりあえず立ち直ったようなので本日の目標を伝えると、プラドはこちらを振り向きギョッとした顔で足を止める。 「ギルドに討伐依頼が出てたヤツだろ? アイツまだ討伐されてないのか!? それほどやっかいなゴーレムなのかよ……」 「いや、それほどやっかいではない。異変種ではあるが、よくある異変種だからな」 「じゃあ何で討伐されてないんだ?」 「面倒だからだ」 「面倒……」  敵の魔力を操る魔物はさほど珍しくない。それでも異変種ゴーレムが討伐されない理由は、ゴーレムが生息する場所が関係していた。  その理由は、学園の校内である事だ。  つまり討伐するには学園に入るための手続きも必要となり、ほんの少しだけ面倒くさいのだ。 「冒険者は面倒が嫌いだ」 「……書類一枚出すだけじゃねーか」 「冒険者は書類仕事が大嫌いだ」 「……」  その点この二人であれば、学園の許可が無くとも敷地内に入れる。なんせ学生なのだから。  そしてギルド組織に加入するのも依頼を受けるのも学生の自由、かつ自己責任だ。  なのでソラはわりと早くからギルドに入り、依頼を受けては報酬を本の購入や実験素材の補充に当てていた。 「勉強以外にそんな事まで……」  ギルド加入の経緯を聞かれたので簡単に説明すれば、プラドは唸るように呟く。  そして渋々だった足が次第に速くなっていく。  どうやらプラドのライバル心に火をつけたようだ。 「それで! またあのゴーレムがいた沼地に行くのか!」 「これを使う」  やる気になったプラドがソラを急かしだしたので、ソラはプラドの服を引いて「これ」とプラドの手のひらに置いた。 「これは……」  プラドの手に置かれたのはヒビの入った水晶。  実技考査の際に配られた緊急用の移転魔道具だが、ゴーレムの攻撃を受けて大きくヒビが入ってしまい、とても移転魔道具として使えそうにない。  しかし、僅かに魔力を感じ取ったプラドは怪訝な顔をしてソラに問う。 「お前、これにゴーレムの魔力を閉じ込めたな……?」 「さすがプラドだ」  プラドが断定した通り、壊れかけの水晶にはゴーレムの魔力を封じている。  実技考査を終えた後日、魔力支配の攻撃を受けた際の魔力が水晶にわずかに残っているのに気づき、記憶するよう細工したのだ。 「つまりこの魔力を辿ればヤツの居場所が分かるって事か」 「そうだ」 「何でもありだなお前……」  プラドが感心するような悔しがるような複雑な声で呟いて、何はともあれ二人で森の中へ進んでいった。  出てくる魔物を瞬殺しながら進むこと数時間。日が森を照らし出した頃になってようやくゴーレムの気配が強くなってきた。  その間、何の問題も無く進めており、とても順調だとソラは思う。  以前の実技考査でも感じたが、プラドとの合同討伐はとても楽だ。  討伐依頼はいつも一人でこなしているが、決して一人が好きなわけではなく、一人の方が順調に行く事が多いからだった。  けれどプラドとならば、一人でこなすより順調にいっている。 「……」 「……何だよ」 「いや……──」  森での適切な行動をとれ、余計な話もせず、反応に困る賛美もない。  おまけに木の根に足を取られかけたら、当たり前のよう支えてくれる。  確かにマリアから自分の趣味につきあってもらったらどうかとアドバイスを受けた。  けれど共に森に入りたいと思ったのは、相手がプラドだったからだ。 「──プラドはとても優秀だと思っただけだ」 「は!? なん……突然なんだよ!」 「キミになら、背中を預けられる」 「……っ!」  安心できるから、無意識に森に誘ったのかもしれない。  だが、そう何度も甘えて良いわけではないのだろうな、とソラが考えた時だった。 「い、今更何だ! 恋人なんだから当然だろうが!」 「……恋人だと当然なのか?」 「そりゃな!」  確かにプラドと居ると楽だ。けれど、あまり頼りにし過ぎては迷惑になる。  そう思ったのだが、プラドは恋人なら当然だと言う。 「そうか……」  きっとプラドにとっては何気ない言葉。 「じゃあ、これからも頼りにしよう」  けれどソラには、とても心を軽くする魔術のような言霊だった。 「当然だ……俺以外頼るなよ」  甘い空気が漂いだした最中、遠目に討伐対象のゴーレムが見えはじめた。  

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