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24 雨下の蜜月 3
「何で停電なんだ。……くそ」
閉め切った雨戸から射す陽はなく、広海の姿を照らすものは何もない。
暗がりに、ぐぷぐぷと淫靡な音が響いている。
「……見たいよ、広海さんの顔。可愛い口に俺のが出たり入ったりしてる。想像するだけで、頭おかしくなる……」
広海の口蓋と舌の間で、尚樹は大きさを増していた。
先端を強く吸い上げると、髪を握り締めている尚樹の指が震えた。
「駄目だ――出る」
引き剥がそうとする武骨な手に逆らって、広海は喉の奥まで彼を迎えた。
息苦しくても構わなかった。尚樹が悦んでくれるのなら。
「だめだよ広海さん……っ」
「んっ、ふ、く、んん」
雄々しい屹立に舌を絡めて、広海は激しく頭を上下した。
熱気のこもった部屋に尚樹の切迫した息遣いが響く。
彼の痙攣が舌先に伝わり、広海の下腹部もじわりと熱くなった。
「……ごめん…っ」
一途な口淫に耐えられなくなった尚樹が、弾けたように体を震わせながら達する。
口腔の粘膜にあたる飛沫を、広海は一滴も零さずに飲み干した。
尚樹の熱。正直な欲望。青苦いそれを忘れないように。
別れが前提の出会いに、ふんぎりをつけるように。
「ん…っ。尚樹、……ありがとう。君に出会えて嬉しかった」
汗ばんだ広海の背中を、ふ、とクーラーの涼風が撫でた。
暗闇が晴れ、唇を白く汚した広海の姿を蛍光灯が照らし出す。
明かりで眩んだ視界の向こうに、半泣きの顔をした尚樹がいた。
「君、泣いて…」
「くそ――くそっ」
短く吐き捨て、尚樹は広海の体に野獣のように襲いかかった。
抗う方法も、理由もなく、広海は彼を両腕で受け止める。
「どうしてそんなこと言うんだ…っ」
激情の中、尚樹が牙を立てるように広海の唇に噛み付いた。
残り少ないカウントダウンに入った彼のキスが、痛くて甘くて、くるおしい。
「俺、初めてなんだ。男の人をこんなに好きになったの」
「尚樹――」
「俺はあんたに夢中なのに、これで終わりみたいな言い方するなよ」
ベッドに組み敷かれながら、広海はいっときの夢を見るために瞳を閉じた。
もう形を覚えてしまった秘所に、めちゃくちゃに突き入れてくる尚樹の愛し方。
彼を抱き締め、怒涛のような律動に揺さぶられながら、高く上げた足を戦慄かせて、広海は啼いた。
尚樹が島を去ることを、この一瞬だけ、忘れるために。
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