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九 マッサージをしに来たんだが
「来たぞー」
勝手知ったるで扉を開き、部屋の中に入る。夕暮れ寮で暮らすヤツは、大抵、鍵なんか掛けない。まあ、全員ではないだろうが。部屋に入ると吉永はベッドの上に寝転がって、スマートフォンを見ていた。視線も合わせずに「おー」と返事をする姿を見ると、何だか帰りたくなる。
「そういやドラマ続き観てねーじゃん。キャシーとジョンはどうなるんだって」
「あー」
吉永は今思い出したという雰囲気で顔を上げた。既に興味などなさそうな雰囲気である。
「あれな、キャシーの同僚でキャシーに気があるトミーが居たじゃん」
「あ? ああ、あのイケメンな」
「アイツ、ジョンの運転する車に轢かれて意識不明になんの。そこでシーズン1終わるんだけどさ」
「え。マジかよ。ってか、お前もう観ちゃったの?」
ネタバレすんな。
「いや、ウィキで。で、視聴率取れなくてシーズン2制作中止なんだわ。ダメだアレ」
「最悪」
ちゃんと最後までないのかよ。しかもお前、ウィキで情報見たのかよ。
すっかり観る気が萎えて、ベッドに腰かける。その情報は聞きたくなかったが、ラストまで観て続きがないと知るよりはマシだったか……。キャシー……。
「今度は違うの観ようぜ」
「ああ、そうする……」
すっかり萎えているところに、吉永がトントンと俺の手を叩く。
「ほら、マッサージ」
「はいはい」
仕方がない。
うつぶせに寝る吉永の上に覆いかぶさるようにして、腰に手を当てる。
「この辺?」
「んっ。その辺」
体重をかけながら指を押し込む。
「あ……、あー、良いわ、それ……」
「ジジイかよ」
「うるさいな。お前のせいだろ?」
「知らねえな」
指を押し込む度に、「あっ」とか「んっ」とか吉永が声を出すので、少しだけ変な気分になってくる。あくまでマッサージだ。細い腰とか気になるが。なんかいい匂いするような気がするが。
「……もしかして、シャワー浴びた?」
「あ? ん、サッとな……、ん、んっ……」
「……」
風呂上りか。どうりで、何だか肌が桃色だし、良い匂いは石鹸の匂いか。
(体温、高い気がするし)
布越しに触れる身体が、熱い。昨夜の情事を思いださせるには、十分な状況だった。
「あっ……、ん……」
ドキリ、心臓が鳴る。明らかに、声音が甘い。吉永の顔を見る。シーツに埋めていて、表情は解らない。けれど、耳が赤い。
「っ……、ん……」
ヤバイ。とっさに、マッサージをする手を止める。吉永が、振り返った。
「航平?」
「っ……」
潤んだ瞳に、心臓がぐっと抉られる。こんなことで、煽られてどうする。吉永は、ただの先輩だっただろうが。
決して、性の対象ではなかったはずだ。
(くそ……)
動揺をごまかすように、視線を逸らす。腰から、尻。太腿――。と、視線をずらして、ふと、ベッドの上に転がるコードに気が付いた。ピンク色のコードだ。その先に、スイッチらしい装置がある。
「……?」
目線で、コードの先を追う。吉永の身体に沿うようにコードが伸びている。そのコードは、腰のあたりで服に潜り込んでいた。
(え)
恐る恐る、コードを手に取る。服の中――スエットの中に、伸びている。
ドクドクと、心臓が鳴る。下腹部に、血液が集まる。
吉永が、俺の方を見た。口元に笑み。
「どこに入ってると思う?」
「――」
淫靡な囁きに、頭が沸騰しそうだ。
恐る恐る、スエットをずらす。白い尻が、剥き出しになる。
「……履いて」
「ないよ」
ゴクリ、喉を鳴らす。ピンク色のコードが、尻の割れ目にそって奥まで延びている。ぷるんと、尻を剥き出しにする。コードは、なめらかな双丘の奥――ひくひくと震える穴の奥へと、呑み込まれていた。
「っ……、吉永……これ」
吉永がニヤニヤ笑っているのは解っていた。掌で転がされているのも。揶揄われているのも。
(スイッチ、オンだ……)
よく見れば、スイッチが入っている。ずっとこの状態だったのだろう。そう思うと、余計に興奮して、ドクドクと脈が速くなる。唇が乾いている気がして、舌で舐める。股間が痛い。
「どんなのが入ってるか、見たい?」
吉永はそう言いながら、挑発するように腰を揺らす。コードを呑み込んだアナルから目を離せない。ゆらゆらと揺れる腰に合わせるように、視線が動く。
「見たいんだ?」
「っ……。見せたい、んだろ。……自分で、出してみろよ」
「んっ……、負けず嫌い。見たい、くせに……」
「良いから。手、使うなよ」
「あは。そういうこと、言っちゃう」
そう言いながら、吉永は見せつけるように尻を突き出した。
「んっ……」
ぐっと、アナルが収縮する。吉永の腹に力が入るのがわかった。
「んん……、ぁ、ん……」
吉永の顔が、真っ赤だ。俺に見られて、恥ずかしいのだろう。同時に、酷く興奮しているらしく、吉永の性器が勃起し、先端からトロリと精液をこぼす。
息を切らせながら、アナルに力を込める。コードが揺れる。奥から、ヴヴヴと音が響く。
「頭、見えて来た……」
「あ、あっ……」
吉永は気持ち良いのか、蕩けるような表情を浮かべた。
ピンク色のオモチャが、顔を覗かせる。アナルを拡げ、オモチャが這い出る。
「ん――っ……!」
ビクビクと、吉永の足が震えた。ローターが震えながら、シーツの上に落下する。穴はまだ収縮して、蠢いているようだ。
「あ……、あ……っ、ん」
涙目で息を切らせる吉永に、ゾクゾクと背筋が震える。
「エロ……」
思わず呟いた言葉に、吉永が妖艶に笑みを浮かべた。
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