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俺と天ちゃん
昨日買った目覚まし時計が朝を告げる。隣はもう冷えていて、昨晩愛しあった相棒はルーティーンであるジョギングに行ったのだろう。
「起きた時にいないの寂しいんですけど〜天ちゃんのバカ」
「誰がばかだって?」
帰ってきた足音が聞こえず、心臓の鼓動で倒れてしまいそうだ。天一郎は白い袋を前に突き出す。中には昨日破壊された携帯が入っている。
「修理終わったって連絡入ってたぞ」
「ありがとう。さすが昨日の今日で用意できるとはあの店やるね〜」
「買い替えた」
「え⁈何で⁈」
画面がバキバキと割れていたが動いていた。中身に問題でもあったのだろうか。天ちゃんとのツーショット写真、メール、仕事ファイル……
「昨日逮捕した奴がGPS機能入れてた。更に録音もされてた」
「えっ、まさか」
「家もバレて、SEXも聞かれてたわけだ」
「あっちゃ〜、奴の異能か」
20XX年。突如空から落ちてきた未確認生命体により一部の人間が特殊な力に目覚めてしまった。俺も天ちゃんもその生命体が発した光を浴び『異能』を手に入れ慎ましやかな生活を送っている。
「ちゃんと記憶も能力も消したから心配するな」
天ちゃんの大きな手で頭を撫でられ、まるで子どもみたいだ。俺はあまり好きじゃない。まるで子供をあやすような感じ。出会い方が最悪だったし仕方ないけど。
「朝飯作ったから早く服着ろ」
「は〜い」
パンケーキだといいな。天ちゃんが初めて作ってくれた思い出の味だから好きだ。
真っ裸のまま服を何着か取り出して着た後、顔を洗い髪を梳かしヘアゴムで結ぶ。お団子ヘアも好きだけど今日はいいや。
一階に降りると天ちゃんは甘いシロップをかけている。やはりパンケーキだ。
「これ食べたら仕事だ。誠一、行けるか?」
「うん。勿論。今日は一緒に行ける?」
「ああ。能力者絡みだからな。隊長に呼ばれてる」
スーツを着てコーヒーを飲む姿もカッコイイ。焼いたトーストを齧る姿も素敵。
「早く食べないと冷めるぞ」
天ちゃんは異能力対策課の刑事。そして、俺は監視・保護対象兼相棒(自称)だ。
こんな穏やかな生活、いつまで続けてくれるのかな。
★★★★★
「山田天一郎、甘利誠一両名揃いました」
隊長室は空気が重くて好きじゃない。隊長は優しい笑みで待っているが、そんな時は碌なことがない。
「昨日はお疲れ様。盗撮、誘拐犯が捕まって何よりだ」
「じゃあ、休暇ほしいな」
「それはこの事件が片付いてから」
書類を渡されたが、能力の欄を見て危ない奴とすぐ分かった。
「異能囚人番号0001」
「何故奴が!異能を消去し独房に入っていたのでは!」
天ちゃんが声を荒立てて隊長に詰め寄るが、副隊長は宥め、隊長は話を続けようとしている。
「奴は死んだ。今回捕まえてほしいのはコピー能力者の方だ」
「死んだ?そんな馬鹿な。奴は人の脳に働きかけられる能力を失っても、元々の邪悪さは変わらない。前科だってある、本物の悪だ」
「天ちゃん、落ち着いて」
「だってアイツは……」
「言いたいことは分かる。だが、今は奴の能力をコピーした刑務官・佐々木拓海を捕まえてくれ」
「くそっ」
天ちゃんの過去はよく知らない。ただ、弟が犠牲者だということは知っているから辛さは分かる。
「俺を呼んだのは犠牲者が既に出ているからですね」
「そうだ」
「おい待て」
「甘利くん、君の異能で捕まえてほしい」
「甘利は保護監視下に置いている!ちょっとした協力ならまだいい。だが、今回は昨日の仕事以上に危ない。昨日のだって私は」
「電子機器を自在に操る犯人だったが、上は危険性は低いと考えている」
どう考えても危険な犯人だったが、現場に出ていない者には分からない。強く握られた拳を両手で包み込むと天ちゃんは凄く悲しそうな顔をしていた。分かっているけど、俺の気持ちは変わらない。
「行ってくるね、天ちゃん」
★★★★★
遺体安置所に行くと同じ課の梅原、加藤が待っていた。
「課長から話聞いたんですね」
「うん、まあね。精鋭部隊の隊長さんに頼まれちゃあね!」
「そういえば気になってたんですけど課長じゃなくて隊長って呼んでると強そうだから?」
「強そうって実際強いから」
「さすがに能力者には」
「能力者だって人間だ。拳銃で眉間を撃てば死ぬ」
「梅原先輩、怖いっす」
「でも加藤くんが考えてるほど強くないから。俺とか使ったら危ないし。だから、俺がホシと繋がったら後は任せるね」
「はい、任せて下さい」
「誠一、待たせた」
乱暴に扉が開かれ、顔色の悪い天一郎がいる。きっと悩んで折り合いをつけたのだろう。そんな顔をさせたくないが、彼が傍にいるなら安心だ。
「天ちゃん、もし俺が」
「大丈夫だ。絶対引き戻してやる」
「ん、よろしく」
頭に機械を付けてテレビに繋ぐ。何があったか皆で情報を共有するためだ。遺体の隣に寝転び手を握る。目を閉じると真っ暗闇に落とされた気分になった。遺体に刻まれた記憶の入り口を探す。微かな光が俺を呼んでいる。一歩踏み出すのはいつも恐ろしい。だが、これが天ちゃんと被害者、事件のためになる。
俺は後ろから後頭部を殴られ、犯人に後ろ手で縛られているようだ。衣服は何もつけておらず、目の前のただ一つの扉を見つめるしかない。
「お目覚めかな」
キーっと不気味な音を立てて一人の男が入ってくる。煙草の匂いが臭くて顔を背けるが、気に食わなかったようで顎を掴まれ無理矢理男の方を向かせる。嫌そうな顔をしてやると、男は嬉しそうに手を離した。筋肉質な男は俺の身体を押さえつけ冷たいジェル状の物を垂らしていく。来ると分かっているが後ろを男の太い指で遊ばれるのは気分が悪い。男はわざと音が鳴るように二本の指でかき混ぜ反応を見ていた。
「指に吸いつくぜ。ほら、もっとナカに入りたいんだよ」
「うっ、ああっ、あ、ああっ、うっ」
「我慢しなくていいぜ、甘利ちゃん」
俺の名前を呼んだことに反応すると指でイイ所を引っ掻きやがった。後ろをいじられながら、男の膝の上に座らされ、左手で前を擦られる。
「イ、っ、待て、それ以上は」
「相変わらず快楽に弱いな、ん?」
「はぁ、はぁ、うっ、あ、んんっ」
「我慢する顔もいいねぇ」
「お前っ、だれだ!!」
「よく知ってるだろ、囚人からの愛撫をよ」
囚人0001、本名はクロウ・アサギリ。他人の中に入るのが好きで精神的にも肉体的にも支配して貪る能力。狙われた者は最終的に抜け殻のようになる。
「そんなことあるわけ」
「甘利ちゃんのこと忘れられなくて蘇ってきたのよ」
被害者の経験を追体験し犯人と接触したら戻る筈だった。触れた瞬間、縁が生まれ犯人の居場所、考えをトレースする能力の筈なのに、俺は抜け出せないでいる。
「離せ離せ!お前を捕まえてやる!」
「甘利ちゃんは可愛いね。いいぜ、俺を追いかけてきな」
男の姿が消えた瞬間、空間から弾け飛ばされるように意識が戻った。飛び起きた俺の様子に三人が不安そうで、大丈夫とだけ言った。
「……犯人は囚人0001だ。意識を刑務官に植え付け体を支配したんだ」
「誠一、もう寝てろ」
「アイツは俺が来るのを待っている」
「行くな」
「でも!」
「後は梅原と加藤に任せろ。それより清めないとな」
身体に残っている感触のことに気づいているのだ。実際抱かれたわけではないのに魂に触れられた不気味な感触を早く取り除きたくて頷いた。二人が出て行った後、すぐさま隣の部屋に入りシャワーを浴びる。
「あっ、ああ、天ちゃん、もっと激しくして」
「う、ん、挿れるぞ」
「お願いっ、あんっ、そこ、はぁはぁ、突いてくんない?」
「誠一、口開けろ」
「ん、ちゅ、っあ、はぁ、んんん」
舌を絡め合うと呼吸が薄くなる。それでも天ちゃんのがナカに入り膨らんでいるのが分かると嬉しくて腰を自ら振りたくなる。
「っはあ、すぐ挿れてやるから来い」
濡れた身体で繋がったままベッドまで運ばれる。天ちゃんにしがみつく形だったからナカを深く抉られながら揺さぶられ、はしたなく鳴いてしまう。変な奴って思われてないといいな。可哀想で抱いていたとしても、俺は良かった。荒く抱かれると求められているって思えるから。
「ふ、んんっ、あっ、あっ、もう、イくぅ!」
「んんんっ!俺もだ」
体内に迸るエキスが注がれていく。俺も同時にイったから腹はベタベタ。でも、気持ち良かった。
「どうだ?」
「気持ちよかったよ」
「副作用だ、まったく。落ち着いてるし大丈夫だな」
異能を使えば代償を支払わなければならない。簡単に済むものから俺みたいに抱かれてナカに出してもらう必要があるものまで様々だ。天ちゃんは見知らぬ男としに行くぐらいならソッチのお世話もしようと言ってくれた。
「うん、もう大丈夫」
「もう一度風呂入って温まってこい。風邪ひくぞ」
「天ちゃん……」
「分かった。一緒に入るぞ」
「うん。そしてすぐ現場に行こう。アイツは俺にしか興味ないから加藤達は探すのに苦戦してるだろうし」
天ちゃんは再び俺を運んで、俺はキスをしかける。どうか冷たいキスにならないようにと。
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