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第26話
舞妓から元の姿に戻った琥珀が旅館に戻ると、若い女教師が暖とは会えたかと聞いてきた。
彼女曰く、今日みんなと一緒に映画村に行った暖だったが、琥珀のことが心配で途中で一人旅館に帰ってきたという。
教師が琥珀は熱が下がって出かけたと伝えると、暖は琥珀を追って街に出たのだった。
スマホを取り出すと、いつの間にかバッテリー切れになってしまっていた。
猛烈に暖に会いたくなった。
旅館内を暖を探して歩いていると、琥珀の班の女子たちを発見した。
声をかけようとした時、女子二人に囲まれて紗理奈が泣いている姿が目に飛び込んできて、琥珀はとっさに近くの観葉植物の影に隠れた。
なんとなく何が起きたのか予想がついただけに、男の琥珀がそこに居合わせてはいけない気がした。
案の定、誰からどう伝わったのか分からないが、一昨日の夜の暖の激白が紗理奈の耳に入ったようだった。
二人は、「付き合ってるわけじゃないんだからまだチャンスあるよ」と、しきりに紗理奈を慰めていた。
「でもさ、それっていったい誰なのかな? 付き合ってないってことは、相手に彼氏がいるのかな? どちらにせよずっと暖君の片想いみたいだから、この際、相手の子にはっきり言ってもらったらいいんじゃない?」
男子たちの「暖を応援するよ」に比べて、女は残酷だ。
しおらしく泣いていた紗理奈も二人に煽られ、話が暖の好きな子が誰であるかを突き止める方へと向いていく。
最後はまるで魔女狩りでもするかのように、「その女、絶対に見つけ出してやる!」と三人は意気込んだ。
三人の結託はその日のうちにクラス、いや学年全体に伝染した。修学旅行という非日常が生徒たちを高揚させたのもある。
そして見事なまでに男子と女子の意見は真っ二つに割れた。
男子は暖の秘密を守ろうとし、女子はそれを暴こうとした。
そんなことで、暖の周りはがっちり男子たちで固められた。
琥珀は暖の親友だから誰よりも暖を応援し、暖の秘密を守ってやらなければいけない立場なのだが、本当のところ琥珀は暖の想い人が誰であるのかを知りたかった。
女子寄りのその気持ちのせいか、暖を守る男子たちの中に琥珀は入っていけず、結局暖とはほとんど話せないまま、修学旅行から帰ってくることになった。
女子と男子の対立はその後も続いた。
当の本人である暖は、不気味なほど沈黙を保っていた。
ほどなくして暖はラグビーからも解放され、紗理奈もさすがに以前のように暖を構い倒すのを止めたようだった。
全てが元通りになった中で、琥珀は暖に一メートル以上近づいてはいけないという血の誓いだけはそのままだった。
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