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第97話 木属性の魔物討伐 最終日 薔薇の魔物の棘 ーエイプ・フリーレルー
火属性の二人がディッセンを抱えて私と神子様の所まで後退して来た。
「なんで棘が刺さったんだっ!! 風の鎧はどうしたんだよっ!!」
「もう少し離れましょう。棘はここまで飛んできます。あの毒の棘は3発で風の鎧を破壊してしまうほど強力です。ディッセンは4発目を身体に受けたんでしょう」
棘が届かなそうなところまで後退してアリージャに薔薇の魔物の動向を見張らせる。
ディッセンの左肩に親指サイズの薔薇の棘が深々と刺さっているので 治療をかけながら抜くことにした。
「うううっ、ぐわああっ」
棘の痛さにノーベンの腕の中で暴れている。
「ヒール……んん?…ヒール!!…」
「っ…なんだ、どうしたんだよ」
「この棘は抜けない、むしろどんどん身体の中にめり込んでいる。ヒールをかけても効かない」
「なんだって?!」
「ぐああああっ!!」
「フリーレル様、薔薇の魔物が刺を生やしました!」
「なに!!」
「ぐあああああああっ!!」
これはっ!! なるほど、そういうことですか!
「フリーレル頼む、なんとかしてくれっ!!ディッセンを助けてくれっ!!」
「わかってます。治療と解毒薬が効かない、そしてディッセンが弱り魔物が復活したという事は……このタイプの魔物は早く倒さないとディッセンが死にます」
「どういうことなんだ。早く答えろ!」
「この棘を媒介にしてディッセンの命を使って魔物は自分の身体を治しているんです。新しく棘が再生されたのが良い証拠です」
炎の攻撃で黒く焼け焦げた鞭のような茎に真新しい緑の棘が綺麗に生えそろっている。
「あの化け物め、よくもディッセンを。待っていろボクがすぐに倒してくるっ!!」
「待って下さい。2人で戦っても火力が足りません。魔物の王は火属性の勇者が3人がかりじゃないと倒せないんです」
「まさか、こんな状態のディッセンを戦わせる気かっ!!」
「仕方ないでしょう!!これしか方法がないんです。薔薇の魔物を倒さない限りディッセンは死を待つだけです。刺はもう鎖骨まで入り込んでいます。この棘はディッセンの心臓を目指して進んでいるんですよ。治療は出来ませんが、私が後方でディッセンに回復魔法をかけ続けて体力を補います。その間に3人で倒してください。」
「…俺、やる」
「「ディッセン!」」
「俺、…頑張って……ノーベンにご褒美をもらう………」
「ディッセン、そうだな、ご褒美沢山沢山あげるよ!」
「早く倒してみんなで帰ろ!」
「よし、行くぞ!!」
新しく生えた棘を避けながら三人は炎の魔法と炎の剣でダメージを与え続け、薔薇の魔物の花を切り刻んで燃やす。
私は徹底的に3人のサポートに私は回り、棘のダメージを受けるとすぐに風の鎧をふんだんにかけて3人の身体を守った。
薔薇の魔物は自分の体を再生させるたびにディッセンの命を吸い上げ、棘はどんどん身体の中心めがけて進んでディッセンに苦痛を与え続ける。
「ぐあああああああっ!!」
「ディッセンッ!! くそっ倒れろ、ファイヤーカッター!!」
ノーベンの手から燃え盛る炎の刃が飛び出して薔薇の魔物の体に火のダメージを打ち込んでいく。
魔物は花の部分が大事なようで他の場所に攻撃を当てることが出来ても、花のガードが完璧で傷を負わすことが出来ない。
「早く、お前なんかいなくなっちゃえっ!!ファイヤーボールっ!!!」
アリージャが魔法学園で見せたあのマグマの火球を大量に発射すると、薔薇の魔物は甲高い奇妙な声で苦しそうにうねっている。
火属性の勇者二人の派手な魔法攻撃に気を取られているうちに、隙が出来た真横から無言でディッセンが炎の剣で薔薇の魔物の花と茎を切り離して燃やした。
燃えながらも薔薇の魔物は耳障りな声で鳴いてもがいている。
「しぶとい奴だなー」
アリージャが花をファイヤーボールで、ノーベンが茎をファイヤーカッターで焼きつくし、真っ黒な炭になって動かなくなった。
エリア7の戦いはようやく終わりを告げた。
「やった。倒したぞ!!凄いぞディッセン!!もう大丈夫だ!」
「………………」
「ディッセン?」
ディッセンは炎の剣を手から落として、糸の切れた人形のように声もなく地面に倒れた。
「ディッセン?!………ディッセン…ディッセンっっ!!」
ノーベンが駆け寄り抱き起こして揺さぶってもディッセンの身体はだらんとして力が入らない。
「フリーレルっ!!早く来てディッセンを治療してっっ!!」
みんなでアルーバ兄弟の所に集まる。
まるで全ての苦しみから解放されたかのように…ディッセン・アルーバは幸せそうに笑っている。
神子様の方を振り向くと真っ青な顔にキラキラと2つの赤いイヤリングが光っていた。
「……診せて下さい……」
ノーベンの腕からディッセンを受け取り、彼の胸に手を当てて誰にも聞こえないように小さく魔法をつぶやいた。
「どうなんだ?ディッセンは治ったか?」
「…………残念ながら遅かった。あとほんの数分、いや数秒早く薔薇の魔物が絶命していれば彼は助かったんです。彼は命を懸けて薔薇の魔物を切ったのですね。」
「何を言う……さっきまで戦っていたじゃないか。ディッセンが死ぬわけないだろう!」
「ディッセンの心臓に棘が達しています。薔薇の魔物は切られながらディッセンの命を吸って自分の体を治していたのでしょう。吸う命がなくなったから薔薇の魔物は絶命したのです」
「うわああああああっ!!!嘘だぁぁぁぁっ!!ディッセーーーーーーン!!!」
ノーベンはディッセンに抱きつき泣きだした。
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