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第36話 挨拶 ーセプター・バンテールー
ガストーとリーフに言われて仕方なく、神子様にご挨拶するために魔法学園へ戻った。
「リーフ…神子様にどんな挨拶するか知らないから言えるんだよな。人の気も知らないで…」
馬車を玄関に乗りつけ、早く挨拶を済ませて家に帰らなくてはと急いで中に入って行く。
魔法学園に使えている使用人達が俺を見るなり驚いて駆け寄ってきた。
「バンテール様、お戻りになったのですね。ご連絡をいただければお出迎えしましたのに…」
「そんな事はいい、神子様にご挨拶したらすぐに帰る。どちらにいらっしゃるんだ」
「只今神子様は身を清められておりましてお時間がかかります」
「…っ、わかった。俺が挨拶に伺ったことを伝えてくれ。神子様の支度が整うまで自分の部屋で待つ」
「はい。かしこまりました」
ただでさえ女の支度には時間がかかるというのに朝っぱらから沐浴とは思ってもみなかった。
先に連絡を入れてから来れば良かったと後悔するが仕方ない。
ただ待つだけの時間が凄く長く感じた。
「遅い、遅すぎる」
あれから1時間以上経つが連絡は一向に来ない。
いい加減もう沐浴は済んでいるだろうと使用人を呼びに部屋を出るとメイドが昼食を運んできた。
「お待たせしました。昼食をお持ちいたしました」
「神子様はどうしている」
「今はお昼食の時間ですのでお部屋で召し上がっておられます」
「………」
テーブルに料理が乗せられるのを制した。
「屋敷で食べてきたから必要ない」
「失礼しました。それではお茶とお菓子をご用意致します。祝福は昼食後、神子様のお部屋で行うとのことですので準備が整いましたらお呼び致します」
「宜しく頼む」
使用人が出ていき、ぐったりと力が抜ける。
はあー、リーフは今何をしているだろう。早く屋敷に帰りたい。
13時になり、ようやく使用人が呼びに来た。
神子のいる部屋に案内され、大きなドアが開けられる。
中に入ると純白のドレスが目に飛び込んでくる。
大きな椅子に座った神子様の髪は短く茶色で生え際が黒い珍しい髪色、さすが神子様だ。
顔立ちは整っているけれど酔ったように顔が赤く目はとろんとしているから昼食に少しお酒をお呑みになったようだ。
部屋には神官と騎士が数名おり、神子様の横には大魔道士エイプ・フリーレル様が控えておられる。
「失礼致します。神子様ご挨拶が遅れ申し訳ございません。私、水属性の剣士、セプター・バンテールと申します」
「宜しく頼む。私は神子 浜中幸男と申す」
この声っ…男っ!!
挨拶が遅れた上に連絡もなしに来たから神子様がお怒りになって身代わりに男を寄越した?!
きっとどこかでこの光景を見て俺をためしているのか?!
どうすればいい、どうすれば…考えるんだ。
これ以上不敬をかうのも、駄目だが、このように侮辱されるのも耐えられん。
「セプター・バンテール祝福を授けよう。受け取るが良い」
神子様に扮した男が祝福を授けるだと?
神子様から授かるのもの嫌なのに
「わ、私は、今回はご挨拶だけと思い参上いたしました」
ドレスに身を包んだ男はゆっくりと立ち上がり俺のところまで歩いてきた。
男とキスなんか出来るかっ!!悪ふざけが過ぎる!!
「セプター・バンテール祝福を授けよう。受け取るが良い」
「………」
繰り返される言葉に怒りで拳が震える。
みんな下級色貴族の俺を笑うために仕組んだのか、こんな者たちと魔物討伐なんて出来るわけない…
急に廊下が騒がしくなり、ドアが勢いよく開くと踵を鳴らして来たのは…
「ラリー殿下!」
「まだいたのかバンテール、祝福を受け取ったのなら早く自分の部屋に戻れ」
「殿下、祝福はまだでございます」
「なに?ようやく祝福を貰いに来たかと思えば、何をもたもたしている。下級色貴族だから神子様の祝福は恐れ多いと思っているのか?いらないと言うならお前の分の祝福は私が貰ってやる」
ラリー殿下は神子様を名乗る男を抱き寄せると躊躇うことなく唇を奪った。
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