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第5話

「勇仁様、ご無事で、何よりです」  上半身を起こした新は、開口一番嬉しそうにそう言い、勇仁はひしと新を抱きしめた。 「私はお前を失うのではと、気が気ではなかった」 「俺は勇仁様を失うのではと、気が狂いそうでした」  新は勇仁の腕に体重を預けながら、「勇仁様に申し上げていなかったことを、お話しても良いですか」と真剣な目で彼を見上げた。  勇仁は側に立っていた従者に、「人払いをしろ」と命じる。潮が引くように人がいなくなった部屋で、新はほっとしたように勇仁に話し始めた。 「一昨日のことです。図書室の奥で、義昭様が新法賛成派の大臣と勇仁様を暗殺する相談をしていました。それで早く勇仁様に知らせねばと思ったのですが、誰が勇仁様の味方で敵か分からない状況だったので、誰にも知らせず、自分で勇仁様を守ろうと思いました」 「街についていくと言っていたのは、そういう理由だったのか」  勇仁の腕の中で、新は小さく頷く。 「しかし、なぜ鳥に変身できたのだ。鳥人になるには、鳥人の体液を三度摂取しなくてはならないのだぞ。まさか、私以外の鳥人と……」 「違います! すみません。勇仁様が街へ行かれる前夜に、俺が勝手に勇仁様にキスしたんです。自分を奮い立たせようと思って。その時に、体液をいただきました」  新を抱く勇仁の腕にぐっと力がこもり、新は慌てて弁解した。勇仁はほっとした顔をして、腕の力を緩める。「他の鳥人の体液を貰った」などと言えば相手を今にも殺しそうな雰囲気を感じて、新は冷や汗をかいた。  勇仁は新を抱いたまま、汗で張りついた彼の前髪を梳いたり、血色の悪い頬を擦ったりして、新がここにいることを確認しているようだった。しばらくすると、新をベッドにもう一度寝かせ、居住まいを正して言った。 「アラタ、私もお前に話していないことがある。聞いてくれるか」  新が頷いたのを見て、勇仁は言葉を続ける。 「アラタを王妃にしたいと私が朝議で発言してから、医務部の者たちがお前を調べたろう。その時に、お前がこの国で太古の昔に絶滅した『純人間』という種族だと分かったのだ」 「純、人間……」  新は絶句した。  自分はてっきり全く別の世界から来たのだと思っていた。けれど実は、過去からタイムスリップしていた。ここは、未来の日本だったのだ。 「純人間は感情が昂ぶると、鳥人にのみ強く作用するフェロモンを出すらしい。初めてバーランドにアラタが来た時、受刑者たちに襲われたのはそのせいだ」  そういえば、新はこの国に来てから何度も「惹きつけられる香りがする」「甘い香りがする」と言われてきた。それはフェロモンのせいだったのだ。 「また、医務部の調べでは、純人間は鳥人への抗体がないため、体液を三度摂取すると死ぬということだった。それで、お前を監禁した」  勇仁はそこまで言うと、顔をぐしゃりと歪めた。 「お前が、鳥人に怯えてこの国を出ていくのではと、怖かったのだ。お前を手放したくなくて、閉じ込めてしまった」  すまない、と謝られて、新はベッドの上で首を横に振った。勇仁の苦しみは分かっている、と伝えるように。  しかし、勇仁は顔に苦悩の色を濃くした。 「以前、お前に父のことを話したな。私は、自分が憎んでいる父と同じことをしていると思った。父は母を愛情で縛りつけ、がんじがらめにしていた。私も新を愛しているという免罪符で、自分のそばに縛りつけていた。私は、愚かだ」 「勇仁様」  静かに聞いていた新がベッドから起き上がり、前髪を両手で握りしめ俯いている勇仁の腕にそっと触れた。 「勇仁様は俺に言ってくださいましたね、『自分を大事にしようと努めることで、誰かが救われることもあるから、自分を大事にしていいのだ』と。勇仁様が俺をそばに縛りつけておいてくれたおかげで、俺は勇仁様を救えました。勇仁様が俺を自由にさせてくれていたら、俺は義昭様の手の者に殺されていたかもしれません。だから、勇仁様は自分を責めなくていいんです。勇仁様のおかげで、勇仁様も、俺も、こうして元気に生きているんだもの」 「アラタ、アラタ、すまなかった」  勇仁が今にも泣き出しそうな顔で、新に抱きついた。こらえていたものが全て出ていったような、いたずらを親に打ち明けた子どものような仕草だった。新は聖母のようにほほえみながら、勇仁のぐしゃぐしゃになった髪を梳く。 「勇仁様、義昭様は新法賛成派をも買収しはじめています。どうか、ますます気をつけられてください。これからもどんなタイミングでお命を狙われるか分かりません」 「ああ、しかしこれからは決して私のために命を張ろうなどとは思わないでくれ。お前が死んでしまえば、私はまさに今の父のように、世界を憎みながら生きることになる」  勇仁が新の胸に顔を寄せ、ぎゅうと強く抱きしめる。新は勇仁の頭を両腕で抱き込み、約束した。 「死にません。勇仁様が望むなら、決して、勇仁様を残して死なないと約束します」 「ありがとう」  互いが生きていることを確かめ合うように、二人は長い時間抱き合っていた。  先に口を開いたのは、新だった。 「勇仁様、義昭様は勇仁様を暗殺しようとした射手をすぐに殺して始末すると言っていました。射手といち早く接触し、義昭様が元凶であることを自白してもらわねばなりません」 「分かっている。矢の持ち主は秀に探させているから、安心しなさい。近く、義昭のことも、アラタの聞いた会話を証拠に、謀反の疑いで裁判を行う予定だ」  勇仁は新の胸から顔を離すと、新の手を握りながら決意するように言った。 「今度こそ、義昭の息の根を止めなければな」 「はい」  新は勇気づけるように、勇仁の手を握り返した。  勇仁は新の両手を取ると、そこにキスを落とす。 「お前にやっと思う存分キスできる。触れられてもキスできないのは、本当につらかった」 「俺もです」  勇仁の顔が近づき、唇同士がやわらかく触れ合う。角度を変えて唇を甘噛みしあい、舌を重ね合う。今度は、治療目的ではないキスだ。血の味が残る口の中を、勇仁の舌が舐めて一掃していく。上顎を舌先でつつかれ、頬の内側から舌の裏まで舐め回され、新は勇仁に翻弄された。 「ふ、あ」 「アラタ」  新は勇仁の太い首に腕を回すと、夢中で勇仁の舌に自分のそれを絡めた。勇仁の雄芯に奉仕するようにじゅぷじゅぷと舌を出し入れし、唾液をすする。自分の身体の奥の熱がどんどん昂ぶっている感覚があった。 「あ、俺、フェロモン、出てますか……?」 「ああ、とてもいい香りがする。私以外には絶対に嗅がせたくない」  勇仁に舌先をやわらかく噛まれ、そのびりりとした痛みにさえ感じてしまう自分に新は恥じらう。 「嗅がせません、勇仁様以外の誰にも」 「私だけの香りだ。アラタの香り」  熱に浮かされたように言う勇仁に、新は嬉しくなる。他の誰でもない、新の香りを勇仁はこれほど狂おしく求めてくれているのだ。自分が純人間で良かった、と新は思う。  勇仁がふと、頭を振って新を見つめ直した。目の奥には、情熱と冷静さが混在している。 「アラタ、胸は、傷痕は痛くないか? このまま……行為に及んでも大丈夫か?」 「もう全く痛くないです。むしろ、いつもより調子がいいくらい。これまで勇仁様に触れられなくて寂しかった分を、埋めてください」  新が熱っぽく頼むと、勇仁の喉が、ぐる、とまるで獲物を前にした肉食獣のような音を出した。 「男を煽るのは、よくないな。アラタ」 「勇仁様に、貪られたいのです」  欲情で潤んだ瞳で新が勇仁を見つめると、勇仁は苦しげな表情で、ネグリジェの裾から手を入れ、新の素肌を撫であげた。ネグリジェの下には揃いの生地で作られた短いズボンを履かされていたが、あっけなく脱がされてしまう。 「アラタの肌は美しいな。こんな素晴らしい手触りのものを私は他に触ったことがない」 「勇仁様こそ。俺は勇仁様の瞳がいっとう好きです。どんな宝石も、こんなに深い輝きを持ちません」  小さな尻をゆったりと揉まれ、新は後孔が疼くのが分かった。最近ずっと拡げようと開発していたから、そこに挿入《い》れられるのをつい期待してしまう。  勇仁は乱暴に上着を脱ぎ、ズボンを引き下げた。ぶるん、と雄芯がまろび出る。勇仁の強靭な肉体が眩しい日差しの中で露わになって、新はうっとりと見つめた。 「お前はもう大丈夫だと言ったが、挿入《い》れるのは負担が大きくて心配だ。だから……」 「っん!」  勇仁の大きな手が、新の花芯と自分のものをまとめて掴んだ。 「こちらで気持ちよくなろう」  勇仁の雄芯は釘を打てそうなほどに固くしなっており、触れたところから火傷しそうなほどだった。健気に勃起した新の薄桃色の花芯は、勇仁の雄芯とまとめられると嬉しそうにびくびくと跳ねる。 「この間はただ擦っただけだったが、新はどこが好みだろうな?」 「あ、あ、勇仁様っ」  勇仁は新の花芯の幹を雄芯の先端でつう、となぞり、むちゅりと先端同士をキスさせる。特に敏感な先端に触れられ、新の腰が引けた。勇仁はその隙を逃さず、新の細腰を引き寄せる。 「逃げるな、気持ちよくするだけだ」 「んうう」  もう片方の手で先端同士をまとめて、手のひらでぐりぐりとこねられ、新は思わずのけぞった。もうとっくに射精したかのように先走りはたっぷりと溢れていて、勇仁の手の中でぐちゃぐちゃと鳴っている。それが恥ずかしくて、新はまともに勇仁の顔が見られない。 「新は先端が好きなのだな。もっと触ってやろう」 「ダメです、勇仁様、もう、俺」  片手で幹を擦り、もう片方の手で先端を擦られ、快感の逃げ場がなくなる。新は勇仁の逞しい胸にしがみつき、涎を垂らして喘いだ。もう、前後も左右も分からない。ただただ、勇仁が快感を与えてくれていることしか分からない。 「私、も、イきそうだ」 「勇仁様、勇仁様っ」  新が快感のままにめちゃくちゃに腰を動かすと、勇仁が息を詰めた。  どぷり、と同時に音がして、勇仁の手の中から二人分の白濁が溢れ出る。性管に残った精子までも出し切ろうとするように、イったばかりの花芯にまだ硬い勇仁の雄芯を擦りつけられて、新はびくびくと身体を震わせた。 「あ、あ」 「アラタ……」  勇仁は荒い息をつきながら、白濁で塗れた両手をベッド横に置いていた布で拭う。息を整えると、新を正面から抱きしめた。 「全てが、うまくいくはずだ」  新は胸を喘がせながら、勇仁の腕に頬を寄せた。 「はい、必ず」  二人はいつまでも抱き合い、キスを交わしていたが、日が傾いてきたのでともに食事をとることにした。使用人たちに服を整えてもらい、大広間に設置された食卓につく。そういえば、勇仁と食事をともにするのは初めてだ。新は今更ながらに背筋が伸びるのを感じた。  勇仁はオオタカの血を引いているからか、肉が好きなようだ。鹿やイノシシなどの肉を、わっしわっしと豪快に食べ進めている。新はといえば塩漬けのタラや煮たレンズ豆をちまちまと食べ、勇仁から「もっと肉を食べないと力が出ないぞ」と心配された。  肉にもたまに手を伸ばしつつ食事を進めていると、突然秀が勇仁のもとに現れた。 「王様、早急にお耳に入れたいことが」 「申せ」 「射手が見つかりました」  新は食事をしていた手を止めて、ガタン、とイスを蹴って立ち上がった。まさかこんなにも早く見つかるなんて!勇仁は冷静な表情で、秀の報告を聞いている。 「私に矢を放った者で間違いないのか?」 「はい、奴が持っていた矢と王様に放たれた矢の矢じりと矢羽が全く同じでした。本人も罪を認めています」 「良くやった。一週間後に義昭の謀反を追求する裁判を開く。それまでに義昭の謀反の証拠を一つでも多く探してくれ。射手が自害せぬよう、監視も抜かりないように」 「承知いたしました」  秀はすう、と音もなく去っていった。 「勇仁様!」 「ああ、こんなにも早く見つかるとは」  興奮する新に、勇仁が頷く。 「俺も秀様に倣って、証拠を集めるお手伝いをした方が良いでしょうか」 「いや、残念なことだがアラタを『かりそめの王妃』として軽視する官吏はまだ多い。お前が官吏たちに話を聞こうとしても真実を話すとは思えない。この一週間は、アラタ自身が義昭にまた狙われぬよう、気を引き締めてくれ」 「はい」  勇仁の言うことはもっともだった。新は一応王妃のような扱いは受けているが、まだ王宮に出入りする貴族たちの信用や尊敬は得られていない。  射手も見つかった今、義昭は相当焦っているはずだ。窮地に陥った義昭が何をしでかすか、想像もつかない。あらゆる手を使って勇仁と新を殺しにくる危険性もある。新はごくりと生唾を飲み込み、身を守ることに全力を尽くそうと思った。  それから一週間、新はなるべく自室で時間を過ごし、食事の毒味も念入りにしてもらうように侍女に頼んだ。秀は勇仁派閥の官吏たちに、義昭から自分の派閥に寝返るよう持ちかけられたことはないかと話を聞き、裁判で証言してくれる者たちを集めようと苦心した。勇仁は義昭が賄賂をもらい、下級の官吏たちに役職を優遇していた証拠を探すよう部下たちに命じ、自分でも密かに官吏たちに話を聞くなどして調査を進めた。  いざ裁判の朝、新は勇仁の腕の中で目を覚ました。  従者が勇仁を起こしに来て、新は勇仁とともに朝の準備をする。  嵐のような一週間だった。新は気を張りすぎていささか痩せてしまったが、それも今日で終わりだ。二人並んで朝の支度を使用人にしてもらっていると、勇仁の従者が、秀が勇仁へのお目通りを願っていると伝えてきた。 「秀が朝早くに訪ねてくるのは珍しいな」 「何かあったのでしょうか」  勇仁が目通りを許可すると、秀は珍しく髪を振り乱して寝室に駆け込んできた。 「王様、射手が殺されました」 「何だと!?」  勇仁が吠え、新は叫んでしまいそうになる口を両手でふさいだ。 「監視の者が交代する合間を狙って、義昭様の手の者と会い、殺されたようです。遺体は路地に捨てられていました」  申し訳ありません、全て私の責任です、と頭を下げる秀のこめかみには汗が伝っていた。 「くそっ、義昭めが!」  部屋が揺れそうなほど、勇仁が思いきり近くの壁を殴った。  義昭の謀反を証明する今回の裁判では、射手の証言こそが最も重要だった。  賄賂で地位を得た下級の官吏たちは義昭からの報復を恐れて証言できないようで、役に立たなさそうだ、と新は勇仁から聞いていた。裁判は今日の昼、行われる予定だ。勇仁は一体どうするつもりだろう、と新は勇仁の顔を見る。 「裁判を延期するのはいかがでしょうか」  新がおずおずと提案すると、勇仁は渋い顔で言う。 「王は、一度口にしたことは撤回できない。王自身でさえもだ」  そんな、と新はよろめく。ではどうやって義昭を裁くのか。証拠もなく謀反の疑いだけで裁判を起こしたとなると、逆に勇仁が貴族たちから責められ、立場が悪くなるのではないか。 「王様、私に一つお任せいただけませんか。証拠になるかもしれない情報があるのです」  秀が突然、口火を切った。 「それは何だ」 「確証を得られていないので申し上げることはできません。しかし、裁判までに必ず間に合わせてみせます」  勇仁は厳しい顔をして悩んでいるようだった。秀は微動だにせず、勇仁の返事を待っている。 「分かった。秀に任せよう」 「王様、良いのですか」  新は思わず口を挟んでしまう。  秀は優秀な大臣だ。しかし、勇仁にも言えない情報など、本当に信じていいのだろうか。何か理由をつけて、裁判を延期か中止にすべきではないか。 「秀を信じる。義昭の謀反の証拠を持ち帰ってくれ」 「必ず」  秀は頭を下げると、風のように部屋を去っていった。 「勇仁様、秀様がもし証拠を持って帰れなかった場合は」  新が恐る恐る尋ねると、勇仁は厳しい表情を崩さないまま返した。 「その時は、王の座を追われ、義昭の息のかかった王族に代替わりするかもしれん。愚昧な王など、いても意味がないからな」 「そんな」  新が勇仁の腕に思わず縋ると、勇仁は新を元気づけるようにその手を握った。 「秀はこれまで私の要望以上の働きをしてきた。それを信じるしかない」  勇仁はそのまま政務室へ向かい、新は部屋に取り残された。  今、新が勇仁のためにできることはない。できることといえば、義昭の手にかからぬよう自分の身を守ることだけだ。せめて自分だけでも、義昭の悪事を証言しなければ。  新は自分の部屋に戻ると、じっと裁判開始を待った。 (秀様が、どうか、証拠を持って帰れますように)  窓の外の空を見つめ、両手を組んで神に祈った。神がいるならどうか、勇仁を、秀を、救ってほしい。夏の空はどこまでも青く、ただただ澄んでいた。  いよいよ裁判の時間が近づき、新は緊張しながら勇仁の政務室へ向かった。  政務室には大勢の官吏たちが詰めかけているようで、口々に話している声が部屋の外までさざ波のように聞こえてくる。 「アラタ様のご到着です!」  新が扉の前に到着すると使用人が叫び、扉がゆっくりと開く。おしゃべりしていた大臣たちの目が、ざっ、と新に集まった。 「アラタ様がご証人なのか?」 「アラタ様はもうお身内のようなもの、証人というには公平性が足りないと思うが」  大臣たちの声が聞こえ、新の表情は固くなる。  秀はいないかと見回すが、それらしき姿はどこにも見えない。扉から一直線に続く絨毯の脇にある席に座ると、ざわめきが突然大きくなった。 「カノーラス・義昭様のご到着です!」  扉が開き、義昭が堂々と入室してきた。宝石がふんだんにあしらわれた白銀の上着とズボンを身に着けた姿は、嫌味なほど派手やかで、尊大に見える。義昭が絨毯の先にある壇上と対角線上にある席に着くと、使用人がまた叫んだ。 「王様のご到着です!」  壇上の後ろから、勇仁が現れた。勇仁は彼の瞳と同じ、落ち着いた琥珀色の上下を着ている。金糸で刺繍された大鷲が、日の光を受けて獰猛にきらめいた。  勇仁の到着を受けて、一同が起立する。 「これより開廷する」  勇仁が言い渡すと、場はしんと静まり返った。新は横目で義昭を見たが、彼はどこ吹く風といった様子でうっすらと微笑んでいる。  新は怒りのあまり、手のひらから血が出そうなほど手を握りしめてしまう。勇仁を殺そうとしておきながら、あの舐めきった態度。絶対に許せない。 「議題は、義昭の謀反の疑いについてだ。証人、アラタ。お前が見たこと、聞いたことを話せ」 「はい」  新は侍女の肩を借りて立つと、すうと息を吸い込んだ。 「私は一週間と一日前、図書館で義昭様と大臣の一人が、勇仁様を暗殺しようと計画しているのをこの耳で聞きました」 「な、なんという」 「恐ろしいことだ」  大臣たちがどよめくのを聞きながら、新は言葉を続ける。 「義昭様は、新法について民の声を聞くために王宮を出られた王様を、買収した射手に矢を射らせて殺すつもりだと仰っていました。また、王様亡き後は、王族である義昭様の甥に王位を譲らせるつもりだと。そうすれば政治の手綱は義昭様の手に渡り、これまで以上に富を築けると」  よどみなく新が勇仁に向かって言いきると、勇仁は頷いた。 「義昭、身に覚えがあるか?」 「いいえ、王様。神に誓って記憶にございません。恐れ多くも、私めのような小心者がそのような大層な策略を練るなど不可能にございます」  新が、ぎっ、と義昭を睨みつけるが、義昭は鼻歌でも歌い出しそうなほど平気な顔をしている。 「アラタ様は、お聞き間違えをなさったのではないでしょうか? 実際に、射手は私が勇仁様を殺せと命じたのだと自白でもしたのでしょうか?」  義昭は今にも笑い出しそうな顔をして、ちらりと新を横目で見た。 (いけしゃあしゃあと!)  新は怒りが煮えたぎるのを感じた。その射手を殺したのは他ならぬお前だろう!と大声で叫びたいが、証拠がない。証拠がない以上、何を言っても義昭の思うつぼだ。  大臣たちはざわざわと騒ぎ出していたが、新にはそれ以上何も言うことができない。唇を噛み締め、下を向いた。 「アラタ様だけの証言で私に謀反の罪をお疑いになるのは、いかがなものでしょうか? 王様、これはあまりにも横暴でございます」  困ったように義昭が言うのに、勇仁も新も反論できない。  誰か、義昭の企みを暴ける者はいないのか。  そう思った時だった。 「証人が、もう一人ございます」  朗々とした声が、政務室に響き渡った。  新が声のした方を振り向くと、そこには秀と、ぼろを着た、目つきの鋭い小柄な少年が立っていた。 「お、お前……!」  義昭は、幽霊でも見たかのように驚いている。  秀は少年を連れて、扉の前から絨毯を真っ直ぐ歩いてくると、新の横に少年を立たせた。  少年は勇仁をしっかと見据え、「発言をお許しください」と頭を下げた。 「良い、発言を許す」 「ありがとうございます」  頭を上げた少年は、よどみなく語りだした。 「私は先の戦争で多くの敵を殺し、『弓の名手』と呼ばれました。しかし最近は戦もなく、工芸品などを作り生活していくのがやっとでした。そんな中、義昭様から突然呼び出され、『王様を殺せば一生働かなくてもいいほどの金をやる』と誘われました」  大臣たちが大きくざわついた。新は少年の言葉を聞き漏らさぬよう、しっかりと耳をすませた。 「王様が市場に来られる日を教えられ、俺は王様を殺そうと矢を放ちました。しかし、『真白き鳥』に阻まれ、殺すことは叶いませんでした。王様を殺しそこねたことで、俺は義昭様から見限られたと思いました。けれど、義昭様はなぜか俺にもう一度会いたいと仰られました。もう一度だけチャンスをやる、計画を立て直そうと」  一息にそこまで話した少年は、周囲を見回す。  誰もが固唾を飲んで聞いていた。少年は言葉を続けた。 「俺には、姿かたちが瓜二つの、双子の弟がいます。身体が悪い弟の治療費を稼ぐためにも、金が必要でした。俺はもう一度義昭様に会いに行こうとしましたが、弟は俺を激しく引き止めました。『絶対に口封じに殺される、罠だ』と言って。俺は金欲しさに弟の忠告を無視しましたが、義昭様と会う約束をしたその晩、なぜかすっかり眠り込んでしまい、約束の時間に会いに行けませんでした。その翌日、街で俺の死体が見つかったと噂が広がりました」  大臣たちは、固唾を飲んで成り行きを見守っている。少年が話すほど、義昭はみるみる青ざめていた。 「慌てて見に行くと、死んでいたのは、俺の弟でした。何が起こったのか分からないまま家に戻ると、弟が書いた遺書が見つかりました。遺書を読み、俺は真実が分かりました。弟は俺に、自分が飲んでいた不眠の薬を飲ませて、義昭様に会いに行ったのです。『義昭様に会いに行く。もし僕が帰らなければ、義昭様に殺されたと思って』と、遺書には書いてありました。俺は、俺の弟は、王様を殺そうとした口封じに、義昭様に殺されたのです!」  少年は怒りのためか、小さな身体をぶるぶると震わせていた。義昭をひたと見据える両目には、憎しみの炎が燃えている。義昭は唇をわななかせ、硬直していた。 「彼の弟の遺体は、回収しました。こちらです」  秀は騎士たちに、小さな棺桶を部屋に運び入れさせた。 「遺体の切り傷は、カノーラス家で作られている特注の剣の傷と一致しました」  大臣たちの間にどよめきが広がる。 「ありえない!」  唐突に義昭が叫んだ。 「王様、この者は嘘を申しております。私はこの者と会ったこともなければ、殺害を依頼したこともありません! 全て何者かに仕組まれた罠です! 濡れ衣です!」 「いや、あんたは俺に殺害を依頼した。これが証拠だ」  少年は、重そうな何かが入れられた絹の袋を懐から出し、どさり、と目の前の机に置いた。その袋には、カノーラス家の家紋が灰水色の糸で刺繍されている。 「これは王様を暗殺するに際して、義昭様からいただいた前金です。カノーラス家の先祖に誓って、俺を裏切らないと義昭様から直々にいただきました。ご貴族の方々なら、家紋が入ったものをやり取りすることがどれだけ重い契約を意味するのか、ご存知のはずです」 「嘘だ! でたらめだ!」  義昭は机を思いきり薙ぎ払い、叫んだ。騎士たちが駆けつけ、義昭を取り押さえる。 「これだけ証拠が揃っても、まだしらばっくれるのか。そろそろ罪を認めたらどうだ」  勇仁が冷たく睥睨すると、騎士たちに羽交い締めにされている義昭は唸った。  新と少年は、義昭の様子をじっと見つめる。 「くそったれ! 出来損ないの王めが! お前の父のように大人しく我々の操り人形になっていれば、命までは狙わなかったものを!」  義昭が豹変し、勇仁に罵声を浴びせる。  大臣たちは後ずさり、義昭から距離を取った。 「お前たち! 王を殺せ! こいつの首を取るのだ! さすれば我々の時代が来る! 我々が国を支配し、億万の富を得るのだ!」  顔いっぱいに下卑た笑いを浮かべながら義昭が叫んだが、大臣たちはしんと静まり返ったままだった。 「どうやらお前の仲間たちは、お前を裏切ったようだな」  勇仁が静かに言うと、義昭は声にならない声で絶叫した。 「義昭は謀反を計画した罪で、貴族の地位を剥奪、全財産の没収及びムツガルへの流刑を命じる。射手は、罪の自白を考慮し、王の直轄地での五年間の労働を命じる。これにて閉廷!」  勇仁が判決を言い渡すと、大臣たちは一斉に頭を下げた。喚き暴れる義昭は、騎士たちに押さえられながら部屋の外へ出ていった。射手の少年も、秀に連れられ、部屋の外に出ていく。  ぞろぞろと政務室から出ていく官吏たちを見つめながら、新はほっと息を吐いた。苦境を、どうにか乗り越えられた。勇仁を見ると、彼も新を見ており、二人は目を合わせて微笑んだ。 「勇仁様、私は新法案の進捗確認に行ってまいります」 「頼む。ああ、それと、少しこちらに来なさい」  勇仁から手招きされて、新は勇仁のそばに近寄った。勇仁は壇上のそばに来た新を、もっと近くに、と呼び寄せる。恐る恐る壇上に上がった新を侍女から奪うように引き寄せると、勇仁は新の耳に声ごと息を吹き込んだ。 「今晩こそお前を抱くから、準備しておきなさい」 「抱っ……!」  新は一瞬で茹でダコのように真っ赤になった。抱くと宣言されるのは初めてで、嬉しさと緊張で身体がこわばる。 「やっと大きな事件が終わった。これでお前を思う存分抱ける。楽しみにしている」 「お、俺もです。ちゃんと身体を清めておきます」  新がもじもじと言うと、勇仁は嬉しそうに笑い、新の頬にキスをした。 「夜まで待ちきれないな。ではまた後で」 「はい!」  勇仁に肩を叩かれ、新は背筋を伸ばした。ぎくしゃくと部屋を出て、図書館へ向かう。 (今日、こそ、勇仁様に抱いていただける)  図書館に着いても、新法案を前にしても、新はどこか浮ついた気持ちだった。勇仁と一つになりたいという願いが、やっと現実になるのだ。 (嬉しい)  浮足立つ気持ちを押し殺し、なんとか冷静になろうとするが、無理だった。つい一週間前に擦り合いをした時に見た、日に照らされた勇仁の立派な肉体が、目の奥に張りついて消えない。じわじわと身体が熱くなって、居ても立っても居られない気持ちになる。  仕事をしようと頑張ってはみたが、しばらくすると新はもう集中することを諦めた。今日は早めに仕事を切り上げ、後孔を拡げて勇仁を待っておくことにしよう。  使用人たちには、「普段より念入りに身体を清めてほしい」と頼んだ。その頼みだけで察されたのか、いつもの倍以上の時間をかけて身体を隅々まで洗われた。使用人たちに夜の事情がばれているのは恥ずかしかったが、今更だ。  風呂から上がると、新は人払いし、侍女に勇仁の雄芯と同じサイズの張り型と香油を準備してもらった。  最近まで後孔を拡げていたから大丈夫だろうとは思ったが、勇仁がいざ挿入《い》れた時に切れてしまったら困る。勇仁は新に関しては人一倍心配性だから、体液で治癒できると分かっていても大騒ぎしそうだ。あらかじめ準備しておかねば、と気合いを入れて張り型を握った。  新はネグリジェの下だけを脱ぐと、尻の下に布を敷いた。香油が垂れても、これなら敷布を汚さずに済む。花の香りのする香油を右手にたっぷり絡ませ、後孔にぐぷりと指を差し込む。  最初は、中指だけ。異物感に慣れたら、人差し指も増やす。指を縦に開き、後孔を開いていく。薬指まで挿入《はい》るようになったら、指ではなく張り型に持ち替えた。  でっぷりと肥った先端が後孔にぴたりとくっつく。こんな大きなもの、挿入《はい》るはずがない、といつも思うのだが、ふっ、といきむと、後孔が開くのが分かる。男のものを貪欲に飲み込もうとする動きに、頬がじんわりと赤く染まった。先端をやや強引に中に押し込むと、ずるりと飲み込めた。  ひとまず先端は挿入《はい》った。ふう、と息を吐き、ゆっくりと中に幹を押し込んでいく。先日見つけた腹側にあるしこりを先端がかすめると、新の花芯がびくんと跳ね上がった。 「っん……」  勇仁にここを突いてもらったら、どんな心地がするだろう。自分でしてもこれだけ気持ちがいいのだ。想像するだけで口の中に涎がいっぱいに溜まる。今日は拡げるのが目的だから、と、しこりにはなるべく触れないようにして、奥まで幹を飲み込んだ。  自分で何度も奥に突き入れるほど、むずむずとした痒みが湧く。張り型ではうまく触れられないが、勇仁に挿入《い》れてもらう時は、奥の奥まで突いてもらおう。  入り口を拡げるため、円を描くように張り型を動かしつつ、できるだけ奥まで張り型で拓く。花芯は今にも爆発しそうなほど反り返っていたが、我慢、と自分に言い聞かせて気を逸らした。  もうそろそろ慣らせただろうか、と張り型を引き抜こうとした時だった。 「王様が、寝室に来るようにと仰せです」  侍女が天蓋のレースをかき分け、新に知らせる。  普段より随分早い誘いに、新は慌てた。湯で濡らした布で使用人たちに身体を拭いてもらうと、急いで下着を身につけ、勇仁の寝室に向かう。 「急がせたか」 「いいえ! ずっとお待ちしていました」  勇仁はすでに入浴を済ませたようで、新と同じネグリジェ姿だった。濃いラベンダーの香りが彼の高い体温とともにふわりと香って、快感の予感に身体の芯がぞくぞくと震える。  侍女から新を受け取ると、勇仁はすぐに人払いをしてくれた。勇仁に横抱きにされ、彼のベッドに向かう。  新はそっとベッドに降ろされ、額にキスを落とされた。 「身体に不調はないか? いつもより早く仕事を切り上げていたようだったが」 「いえ! その、恥ずかしながら、勇仁様に抱いていただけると思ったら、仕事に身が入らず、早めに切り上げたのです。も、申し訳ありません」  頬を赤らめながら新が言うと、勇仁が苦笑した。 「謝ることはない。私もお前を抱きたくて気が急いていた」  ちゅ、ちゅ、と顔にキスの雨を降らされ、新も応えようと勇仁の首に腕を回し、唇を寄せる。勇仁の唇に捕らえられ、かぷりと唇を甘噛みされた。角度を変えながら何度も唇を味わわれ、新は愛おしさがこみ上げてくるのを感じる。 唇の隙間から舌を忍ばせると、待ち焦がれていたというように、互いに舌をきつく絡め合う。舌の凸凹一つ一つまで感じられそうなほど、勇仁はじっくりと新の舌を舐めていく。舌の裏の筋までゆったりなぞられて、新は自分が丸裸にされ、身体の輪郭をねぶられているような気持ちになった。  ぞくぞくと湧き上がる快感に、新は思わず、よりきつく勇仁の首に抱きついてしまう。 「私のかわいいアラタ、気持ちいいか?」 「はい……溶けちゃいそうです」  艷やかな低い声が耳に吹き込まれて、新はびくびくと細腰を揺らした。ずるい、こんなに素敵な声を聴かされたら、絶対に濡れてしまうと分かっているだろうに。  でも、その甘い罠のような声に、抗えない。蜂蜜のように、とろりと溶けた瞳で勇仁を見つめ、答える。  勇仁は満足げに新の唇にちゅ、と音を立ててキスを落とすと、ネグリジェを脱がせた。待ちきれないというように、自分も荒っぽい仕草で下着まで全て脱いでしまう。二人、生まれたままの姿になって、向かい合った。勇仁は、新の身体をまたいだ格好で、新の身体を上から下までじっくりと見つめる。 「新の胸も、ここも、まるで咲いたばかりの花のように初々しい色をしている。私以外の誰かに見せたことはあるか?」  勇仁は新の薄い胸にある薄桃色の頂と、花芯の幹をつんと指先でつつく。 「ひゃっ、な、いです! 子どもみたいで恥ずかしくて、いつも、隠していました」  新の花芯はもう期待に震えていて、透明な蜜を零しはじめていた。まだキスしかしていないのに、恥ずかしい。既に勇仁に見られているというのに、少しでも隠そうと内ももをこすり合わせてしまう。 「安心した。見た者がいれば、その者の目を潰すところだった」  勇仁の恐ろしい執着を垣間見せられて、新はごくりと唾を飲み込む。でも、この執着が心地よかった。これまで誰からも必要とされなかった新を、こんなにも求めてくれることが、嬉しい。 「これまでも、これからも、俺の全ては勇仁様のものです」  勇仁にキスをねだるように唇を突き出すと、彼は嬉しそうに応えてくれる。  舌を絡めあいながら、勇仁は新の初々しい色の乳輪をやわらかく揉む。どちらもの乳輪も指先でそっと撫でられ、つままれ、新は身体をくねらせた。  柔らかかった乳輪は今や勇仁の指の刺激を待ち望んでいるように、固くしこっている。ぷくんと飛び出た乳首も恥ずかしい。まるで、早く触ってくれと懇願しているようだ。 「あ、勇仁、さま」  乳輪ごと片方の乳首を口に含まれ、新はびくんと腰を大きく波打たせた。  熱いほどの勇仁の腔内で、自分の乳首が舐め回される。舌先だけでつついたかと思えば、痕を残すように強く吸いつかれ、その緩急に翻弄される。  もう片方の乳首は指の腹を使ってやさしく擦りあげられ、まるで勃起した花芯を擦られているような感覚になる。  花芯の垂らす涎が、どんどん増えていくのが分かる。あと少し刺激を加えられたら、イきそうだ。 「勇仁様、俺、もうイきたい、です」  胸元に吸いつく勇仁を見下ろして、新は懇願した。堪え性がなくて恥ずかしかったが、仕方ない。だって、他の誰でもない、愛する勇仁に触れられているのだ。我慢などできるはずがなかった。 「イってみせなさい。アラタの達した時の顔はかわいいから、何度でも見たい」  ぺろりと唇を舐める仕草さえ、まるで肉食獣のように雄々しく美しい。新は恍惚としながら、乳首に与えられる刺激にびくびくと跳ねた。  まるで母乳を待ち望んでいるかのように、勇仁は乳首を歯で甘く噛んでしごいてくる。その固い感触が怖くも、気持ちいい。くにゅくにゅと指先で乳輪を撫で回されるのも、また違った刺激でたまらなかった。花芯に熱が溜まっていく。  もう、イく。 「勇仁、様っ、イきますっ」  勇仁の強靭な肩につかまり、びゅ、びゅ、と花芯から白蜜を飛ばす。量は多く、新の顎近くまで飛んだ。はあはあと肩で息をしていると、勇仁が新の腹に溜まった蜜をぺろりと舐めた。 「や! 勇仁様、そんなの舐めちゃだめです!」  慌てて我に返り勇仁をどかそうとするが、びくともしない。舌で器用に白蜜を掬うと、ごくりと飲んでしまう。 「お前は鳥人になったはずなのに、不思議とまだほのかに甘い香りがする。精液さえも甘く感じる。不思議だ」 「純人間の血が、まだ色濃く残っているのでしょうか」  新は恐る恐る自分の白蜜を舐めてみるが、ただ青臭いだけで甘さは感じない。 「この程度のフェロモン量であれば、鳥人がむやみやたらと惹きつけられることもなかろう。良かった」  勇仁は嬉しそうに言い、イったばかりでばかりで敏感な新の脇腹をするりと撫でた。 「ひゃっ」  ゆっくりと撫で下ろした手の先には、まだ角度を保ったまま震えている花芯がある。 「かわいいな、食べてしまいたくなる」  白蜜に塗れた幹を舐めると、勇仁はぱくりと口の中に花芯を収めてしまった。そんなところを勇仁に含まれるとは夢にも思わず、新は飛び上がりそうになる。 「あ、あっ! 勇仁様っ!」  勇仁は口をすぼめて花芯全体をしごいたり、幹に舌を絡めてみたりと楽しそうだ。  先端の小さな鈴口に舌先をねじこまれて、新は恐怖と快感の間で背をわななかせた。それ以上進まれたら怖い、けれど、もっと暴いてほしい。勇仁の唇と花芯の間でぐちゅぐちゅと卑猥な音がして、新は耳をも犯されているような気がした。 「甘い、これ以上ない甘露だ」  鈴口から白蜜の残りを絞り尽くすようにすすられ、新の背がしなる。花芯はもうすっかり反り返って、今にもまた射精してしまいそうだった。  新は勇仁の髪に手を差し入れると、くいと引っ張って、顔を上げさせた。 「ん? 何だ」 「勇仁様、お、俺も、勇仁様にしたい、です。舐めたい……」  自分ばかりが気持ちよくなっているようで、嫌だ。勇仁にも自分と同じくらい、いやもっと、気持ちよくなってほしいのだ。新が甘えるように頼むと、勇仁は少し驚いたような顔をして、顔をくしゃりと破顔させた。 「アラタの口には大きすぎるかもしれんぞ」 「頑張ります、勇仁様に気持ちよくなってほしいから」  勇仁が膝立ちのまま、寝そべる新の顔の前に自分のそそりたっている雄芯を見せつけた。自分の顔ほどありそうな長さのそれに、新の喉がごくりと鳴る。  血管がぼこぼこと浮き出ている幹にそっと小さな舌を這わせると、雄芯がびくりとしなった。ちろちろと血管をなぞるように舐めると、勇仁が喉をのけぞらせる。 「気持ちいい。上手だ、アラタ」 「うれひ、です」  横笛を吹くように幹を口に含み、やわらかく唇で食みながら舌で舐めていく。先端からとろりと落ちてきた先走りの露のおかげで、滑りが良くなった。  幹を辿り、先端に行き着いた。よく熟れた李のように紅いそこに、舌をぐっとねじ込む。先ほど勇仁にされて気持ちよかったことを、そのまましてあげたかったのだ。  勇仁は腹筋を震わせ、耐えているようだった。赤ん坊の拳ほどありそうな先端を含むと、口がいっぱいになる。張り出した傘からその裏まで丁寧に舐め、鈴口はしつこいほどにねぶった。どぷりと先走りが大量に溢れて、口の端から唾液とともにこぼれ出す。 「はあっ、ア、ラタ、もう、我慢できない」 「俺も……」  勇仁はずるりと新の口から先端を引き抜くと、身体の位置を下げ、新の両太ももを掴んで恥部を露わにさせた。おしめを替える赤ん坊のような格好になり、新の頬が赤く染まる。 「すんなり挿入《はい》る。準備をしてくれていたのか?」  勇仁は指をゆっくりと新の後孔に挿入《い》れながら尋ねてくる。秘部からくちくちと濡れた音がするが、きっと香油が中に残っていたのだろう。 「はい、勇仁様に、思いきり抱いていただきたくて」 「かわいいことをしてくれる」  ちゅう、と額にキスを落とされて、新は嬉しくなる。香油を垂らしながらゆっくりと二本、三本、と指を増やされて、新は圧迫感に呻いた。自分の指や張り型では感じなかったが、勇仁の指が今自分の中に挿入《はい》っていると思うと、ついぎゅうと締めてしまう。 「勇仁様、少し、挿入《い》れてみてくださいませんか。早く勇仁様が欲しい……」  丁寧に解してくれるのに焦れて新が言うと、勇仁が笑った。 「我慢しているのが自分だけだと思うなよ、アラタ」  緩んだ後孔に雄芯の先端を擦りつけられて、その熱さに思わず新の尻が浮く。  ぬるり、ぬるり、と先走りの露をまとった先端が、蟻の門渡りから後孔までを往復するが、それだけでも気持ちいい。ぐ、と強めに蟻の門渡りを押されると、後孔の中のしこりも押し込まれる感覚があって、花芯から白蜜がぴゅくりと少量漏れた。 「はあ、勇仁様、もっと……」 「ゆっくり、挿入《い》れるからな。痛かったらすぐに言え」  ぐ、と後孔に大きな先端が押しつけられ、ひどい異物感が新を襲う。変な感じだ。でも、ここを抜ければ……。ずるん、と先端が挿入《はい》りきると、新はほっとした。  勇仁のものが挿入《はい》っている、と思うだけで、襞は貪欲に先端にしゃぶりついてしまう。勇仁は額にじんわりと汗をかいていて、苦しそうなのが分かった。 「アラタ、先に進んでもいいか?」 「はい、もっと奥、ほしいです」  勇仁の荒い息遣いが耳のそばで聞こえ、新の背中にぞわぞわと快感の波が立つ。  この薄っぺらい貧相な身体に、勇仁は欲情してくれているのだ。愛おしくてたまらなくなり、新は痛いほど彼の身体に抱きついた。  幹が、ぐ、ぐ、と襞をまくりあげるようにして、新の中に突き行ってくる。興奮のためかぷくりと膨らんでいるしこりを、肥え太った幹で押し潰されて、新の両脚はがくがくと震えた。小さな袋から、花芯の性管に一気に白蜜が上がってくるのを感じる。  しゃぶりつく襞を擦りながら奥に進んできた勇仁の雄芯は、とうとう、こつりと新の最奥にぶち当たった。勇仁はびっしょりと汗をかいていて、新の身体にもぽつぽつと汗が流れ落ちてくる。 「勇仁様、苦しいですか? 気持ちよくない?」  新が勇仁を見上げて不安げに尋ねると、彼はにやりと笑った。 「逆だ。新の中が気持ちよくてすぐに暴発してしまいそうなのを、必死でこらえているからつらい。今夜は新と一緒にイくと決めていたのだ」  顎をすくわれ、口づけられる。 「俺、も、勇仁様と一緒にイきたいです」  うっとりと新が言うと、勇仁は嬉しそうに笑った。 「一つ相談があるのだが、アラタ、この奥を犯してもいいか?」 「この奥?」  こつ、こつ、と最奥を先端で突かれて、それだけで新は身体がとろけそうになる。下半身を見ると、勇仁の雄芯は途中までしか挿入《はい》っていなかった。新は目を見開く。張り型ではここまでが限界だったのに、勇仁のものは、もっと長かったのだ。 「い、痛くありませんか」 「あまりの快感に病みつきになる者もいるらしい。試してみないか?」  少年のようにわくわくした顔をする勇仁を前に、新はごくり、と唾を飲み込んだ。病みつきになってしまうほどの快感、味わってみたい。 「こ、怖くなったら、止めてください」 「分かった」  勇仁は新の緊張を解すように、やさしく口づけてきた。すっかり慣れた幸せな感触に、新の身体が、くたりと弛緩する。舌を絡み合わせ、ねぶり合っていると、勇仁の腰がゆっくりと動いた。  こつ、こつ、とまた奥をノックしてくる。雄芯が最奥に触れるたび、淡い電流が身体に走り、射精しそうになる。粗相しそうなのをこらえている時のような感覚だ。寄せては返す波のような快感を我慢していると、勇仁が唐突に唇を離し、耳元で囁いた。 「いくぞ」  ボゴッ、と新の腹の奥で鈍い音がした。 「か……は」  新は目を見開いたまま、動けない。  思考がスパークする。何も、考えられない。ただ、自分の下半身に肉の輪がついていて、そこをぶち抜かれると気持ちいいということしか、分からない。  その衝撃の後、猛烈にその輪を擦ってほしいという欲求が噴き上がる。 「あ、あ、ゆ、じ、さま」 「アラタ、どうしてほしい?」  こんな時まで、勇仁は優しい。痛くないか窺うように尋ねられて、新はわけも分からず懇願した。 「奥、奥いっぱい、突いてください、いっぱい……!」 「悦かったのだな、よし」  勇仁は嬉しそうに答えると、新の細腰を両手で掴んだ。勇仁の手は大きいので、新の腰は両手で簡単に回ってしまいそうなほどだ。勇仁は勢いよく腰を引いた。  ズボ、と腹の奥から音がして、香油と体液塗れの雄芯がぶるんと外に出てくる。そして少しの間もおかず、雄芯が一気に新の中に埋め込まれる。ずぶずぶ、と肉を掻き分けて雄芯が新を犯し、新は背を駆け上がる快感に思わずのけぞった。 「ああああ!!」  ゴッ、とまた音がして、腹の奥の輪をぶち抜かれる。  瞬きをしているはずなのに、目の前が白く光って何も見えない。  ぶちゅ、ごちゅ、と腹の奥で何度も音が鳴り、勇仁が何度も奥でピストンしているのが分かる。身体じゅうの神経という神経に、何百万ボルトもの電流が流されているようだ。どこもかしこも、触れた瞬間に火花が散るような快感があって、新はその嵐に飲み込まれた。 「あ、あ、勇仁様、イく、イきますっ」 「ああ……私も、中に、出すぞ」  快感の嵐の中で、新は縋るように勇仁の手を握る。勇仁から指をしっかりと絡め、握り返されて、新は安心して快感に身を委ねた。 「いっぱいください、いっぱい……!」  無我夢中でねだると、勇仁の雄芯の動きが速くなった。  じゅる、ぐちゅ、と体液と香油が混ぜ合わさる音が、どんどん大きくなる。目の前に、ひときわ大きな波が来ていた。 「あ、あ、イき、ますっ……!」 「……っ、アラタ、愛してる……!!」  どぷ、と新の腹の奥に熱い奔流が叩きつけられる。何度も雄芯を出し入れされるたび、新の身体はびくびくと激しく跳ねた。 「勇仁様、俺も、愛して、ます」  回らない舌で、懸命に言葉を紡ぐ。快感に霞んだ瞳の向こうで、幸せそうな勇仁の笑顔が見えた。新は目を閉じると、そのまま意識を手放した。

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