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第63話 お祝い

莉音の内定が決まり、那央も採用試験に合格した。 BARヒュッゲでお祝いをする。 坂上がケーキを用意してくれた。 那央は初めてのBARだ。 莉音は祝われる側だが、那央のためにカクテルを作った。 翔優は、料理を作って提供した。 「それでは、二人の新しい人生の門出に、乾杯!」 まるで結婚式のセリフみたいだが、それでもいいだろう。 「二人とも、よく頑張ったね。どちらも難関なんでしょ?」 坂上が言う。 「ええ、まあ。俺は、獅堂さんのおかげでなんとかなりましたが、那央は自力ですから。」 「俺の方はギフテッド専門で、手探りすぎたんでもう運ですね……。なんで受かったのかイマイチわかってないです。」 那央が複雑な表情で言う。 「まあまあ、審査した側の見る目を信じようじゃないか。翔優も世話になった。料理の腕は確かだから、食べてくれよ。」 そう言って、料理を食べるよう促した。 料理に舌鼓を打つ。 「翔優さんは、そのままアンプデモアで働いてくれるんですか?俺も先輩も抜けちゃうんで、そうなったらオーナーは助かると思うんですけど……。」 那央が翔優を見て言った。 「はい、彼が良ければ。」 「翔優さんがシェフ姿で料理を運ぶの、お客さんはすごく喜ぶんですよ。イケメンシェフだって。」 莉音が翔優に酒を注ぎながら言った。 「はあ、そうですか……。」 「三者三様のイケメン揃いだもんね。橘君は紳士的、那央君はマスコット系だし、翔優はミステリアスだね。」 坂上が言った。 坂上の好みから言えば、背の低い那央だろう。 「君たちがいなくなる前に、翔優に彼女を見繕ってくれ。見ての通り、彼は自分から女性にいけないから。」 「この間、ラブレターきましたよ。渡しましたよね?」 那央が翔優を見る。 「ええ。お断りしましたけど。」 「翔優は、誰でもいいから、まず一度女性と付き合え。二人とも、本当によろしく頼むよ。」 僕はおかわりを頼んだ。 若い二人は会話上手だった。 時々見つめ合い、愛を確かめあっているようだ。 久々に、甘い恋人たちの雰囲気にあてられた。 二人をほほえましいと思えるくらいには、年をとった。 ―――――――――――― はからずも飲み過ぎた。 いい気分だった。 人の幸せを、そのまま喜べる自分になっていた。 今まで、人生を斜に構えて見ていた。 何がきっかけでそうなったのかはわからない。 洞察が深くなったのは良かったかもしれないが、それが自分の幸福感には繋がらなかった。 千鳥足の僕を、翔優が支える。 翔優も、莉音に勧められてよく飲んでいた。 家では飲まないので、翔優の限界はわからない。 今のところ、酔っているようには見えなかった。 マンションに着いて、寝室に向かった。 「今日は、そのまま寝るよ。いい日だった。おやすみ。」 寝室に入り、帯をほどく。 寝巻きを手に取ったときだった。 部屋に翔優が入ってきた。

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