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第1話 プロローグ

 馬車の車輪が小石を踏みながら進む音と、馬車の(ひずめ)が地面を蹴る音が辺りに響く。  車輪が石を踏むと客車が揺れ、小さな窓から外の景色を覗くと、雲ひとつない青空と、新芽をつけた青々とした木々がゆっくりとした風に吹かれているのが見えた。  凍える冬が過ぎ、温かな日差しが辺りを包み込みだした春。  美しい刺繍がされた白一色の花嫁衣装を着て、顔をベールを隠したまま僕は一人、静かに前を向いて座っていた。  馬車が向かう先は帝都の中心にある宮殿。  そこで冷血で情け容赦のないことから『悪魔に取り憑かれた王子』と名高いアレキサンドロス王子に謁見(えっけん)するのだ。  そして僕は、通称『悪魔の子』アレキサンドロス王子の命によって殺されるか牢獄に入れられ、一生を終えるのだろう。 「さよなら、僕の大切な故郷…。さよなら、僕の大切な兄弟たち…」  ベールの下に隠れている、瞳から一粒の涙がこぼれた。

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