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第65話 計画 ②
「あのね、次は本屋さんに行きたい」
「本が欲しいならヒューゴに言って、揃えて貰えばいいんじゃないのか?」
確かにいつもならそうする。でも今日の目的は本当のアレクを知ってもらうこと。
「今日は自分で手に取って選びたいんだ」
それだけ告げて、本屋に向かってもらった。
「い、いらっしゃいませ」
洋裁店に入った時のように、本屋の店主もアレクの存在に怯えに怯えている。
アレクはその表情を見て、一瞬悲しそうな顔をした。
「こんにちは。クロエが街一番の本屋さんだと教えてくれので来ました」
この本屋はクロエがよく行く店。あの官能小説もこの店で買ったようで、品数、種類は豊富だと聞いた。
「それは、ありがたいお言葉でございます。それで今日はどのような本をお探しでしょうか?」
言葉選びが間違っていないか、店主はおどおどしている。
「子供達向けの本。実は僕、後宮で働く侍女の子ども達と読書会をしてるんだけど、そこで読む本を探しているんだ」
「侍女の子ども達と、ですか?」
「うん。だれも知り合いのいない僕が、後宮でも友達ができるようにって、アレクが子ども達と読書会をすることを許してくれたんだ。だから今ではみんなと仲良しだよ」
そう僕が言うと、店主は目をぱちぱちとニ回、目を|瞬《しばた》かせアレクを見た。
「そういえばアレクの書斎にも、沢山本が置いてあるよね」
アレクは本が好き。これはヒューゴ様情報。
「本はさまざまな知識を与えてくれる。それに街で人気な本を読むことは、今、国民が何に興味をもっていて、何を求めているのかを知ることができる。それも俺の仕事だ」
アレクが本を読むのに、そんな意味があったなんて。
読書一つとっても国民のためを思ってのこと。
アレクが国民に対しての想いに、胸がキュンとなる。
アレクの言葉が心に響いたのは僕だけでなく、
「殿下がそんなお気持ちで、読書をされていたなんて知りませんでした」
店主にも響いたようだ。
「では店主。ユベールの本選びの次は、今国民が興味を持っている本を出してくれ」
「もちろんでございます!では紅茶を用意させていただきますので、紅茶を飲みながらお好きな本を手に取ってお待ちください」
店主が椅子とテーブルを用意する。
「感謝する」
宮殿のように豪華でも座り心地も良くなさそうな椅子をだったけど、それを咎めることなくアレクは自然に座った。僕はアレクのこういうところが大好きだ。
本が好きな僕とアレクは、思いの外、本屋に長居してしまい、紅茶の他に店主の奥さんが焼いたというクッキーまで食べた。
「世話になった」
僕達が選んだ本を馬車に乗せると、アレクは店主に礼を言った。
昼過ぎに出たのにあたりはオレンジ色に染まった夕焼け。ぐ~とお腹もなる。
「腹が減ったな。急いで宮殿に帰ろう」
アレクはそう言ったが、僕には最後の仕上げがある。
「僕、今日は城下 で夕食を食べたい」
「ここでか?行きたい店でもあるのか?」
「うん!そこは料理が美味しいって有名な酒場でね、美味しいお酒も置いてあるんだって」
城下一番賑わっている宿屋。その宿屋は一階で美味しい料理とお酒が飲めると評判らしい。
「美味しい酒が置いてあるのか。それは楽しみだ」
アレクはもう僕に振り回されることを、覚悟しているみたい。
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