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第67話 計画 ④

 店にいたみんなに惜しまれながら、酒場を後にする。馬車の揺れが程よく眠気を誘い、うつらうつらしてしまう。 「眠いのか?」  うん。と答えると僕の対面に座っていたアレクが僕の隣に座り、 「今日は俺が膝枕してやくる」  自分の膝をポンポンと叩く。 「いいの?」  聞くと、 「遠慮するな」  僕を引き寄せ、アレクは僕を膝枕した。アレクの太ももは、鍛え上げられた筋肉がゴツゴツしていて、決してふわふわの枕みたいじゃなかったけど、見上げればアレクがいて、頭を優しく撫でられるのは本当に気持ちいい。 「で、今日の戦いの戦略を説明してもらおうか。どうして俺を洋裁店や本屋、酒場に連れて行った?」 「内緒」  アレクに頭を撫でられ、気持ちいいまま眠りたい。それに今日の僕の計画はアレクに言うつもりはない。 「内緒か……。では仕方ない。頭を撫でるのは無しだな」  アレクは僕の頭を撫でる手を、ピタッと止めた。  そんな……。  僕が見上げても知らん顔。 「戦略を教えてくれたら、撫でてやるがどうする?」  今日は色々気を張っていて疲れている。だから二人っきりになった時は、アレクにいっぱい甘やかしてほしい。 「言ったら撫でてくれる?」 「ああ、ユベールが眠るまでな。しかも今日はマッサージつきだ」  マッサージ付き!?なんて魅力的。 「この機会を逃すと、俺がマッサージする機会なんて、もうないかもしれないぞ」  なんて僕を試すようおに言うから、 「もう、話すよ~」  僕はアレクの提案に屈してしまった。  今日の僕の目標は『本当のアレクを知ってもらう』こと。  それには今までにたってしまった悪評を払拭するだけの新しい噂を流すこと。噂って言っても本当のことだけど。  そして噂を流してもらうために選んだ先が、洋裁店、本屋、酒場の3店。  なぜそこかというと、洋裁店は貴婦人たちの雑談所。そこで見聞きしたことはあっという間に貴婦人達の間に広がる。  次は本屋。そこに出入りしているのは、主人から色々な本を頼まれ買いに来ている使用人達が集まりやすい。なのでそこでの話は、自然と屋敷に持ち帰られ使用人の間で広がる。  最後に酒場。ここは庶民の娯楽の場所。そこでの話は庶民の間で広がる。  そしてここで大事なのは、話す内容をその店その店にあった内容にする。  洋裁店では服の話。本屋では本に関する話。酒場では食に関する話。そこにいるお客が興味のある話をしないと、せっかく流した話の内容が半減してしまう……。だからする話はしっかり吟味する必要がある。 「……っていうのが僕が計画してたこと。うまくいったかどうかはわからないけど、僕はアレクと一緒にお出かけできたのが、すごく嬉しかったし楽しかった」  僕が話をしてる間、アレクはずっと僕を真剣な眼差しで見つめ、話が終わると今日一番愉快そうに笑う。しかも涙を流して。 「もう!どうしてそんなに笑うんだよ!」  僕は起き上がりアレクの胸を拳で叩く。でもアレクには何のダメージもない。 「そんな計画を立てての今日だったなんて、驚きだ!」  またしてもアハハと大きな口を開けて笑う。 「きちんとした情報拡散場の確保と、俺を自然に誘導し、相手に違和感なく伝えたいことを伝える。ユベールがこんな緻密な計画をたて実行に移せる人だとは思ってもみなかった。脱帽だ。ヒューゴより優秀な参謀になるんじゃないのか?」  頭を撫でられアレクに褒められて、胸がくすぐったい。 「僕のこと凄いって思った?」 「ああ、凄いし素晴らしいと思った。俺のユベールは美しく優しいだけじゃなく、頭もいい。こんな完璧な人間がいていいものかと思ってしまったよ」  アレクは僕の体をグイッと引き寄せ、また膝枕してくれ頭を撫でてくれる。 「ユベール、本当にありがとう。俺も本当に楽しかった。また城下に行こうな」 「うん」  僕はそう返事をしたまま眠りについた。

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