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第13話

「ノーデンス様、今日も凛として美々しいこと」 「でも最近は食事の時間にお見かけしなくなったな。夜遅くまで働かれて、昼近くに起き出してるようで」 「ほら、この間ロッタ様のことで陛下にお叱りを受けただろう。あれは城中で噂が広まったし、沈んでいるのでは?」 一歩部屋から出ると自分の噂話が聞こえる。彼らは声を潜めているつもりだろうが、地獄耳の為に全て綺麗に拾うことができた。 聞こえないふりをして、涼しい顔で闊歩するのは慣れている。なるべく毅然とした態度で仕事へ向かった。 夜が更けた頃ようやく今日の仕事を終え、城に戻った。いつもより身体が怠くてふらふらする。さすがに以前のような風邪ではないだろうが、疲れがたまってるようだ。今すぐ部屋へ戻って、ベッドに倒れたい。でもその前にシャワーを浴びたい。飯は……食べなくてもいいか。 「ノース」 「わわわわっ! へ、陛下!?」 王宮の広間を抜け、自室がある塔へ登った。その階段上で待っていたのはローランドだった。 しかも一人。また護衛もつけずにここまで来たらしい。 後、いるわけないと思ってる人間がいるのって結構ビビるもんだな。醜態を晒してしまったことも歯痒く、内心舌打ちした。 「陛下……差し出がましいことを申し上げますが、いくら城内でもお独りで行動するのは……」 「いいから部屋に入れろ」 ……こいつ、本当に何様だ。 国王様……というセルフツッコミを心の中で済ませ、自室の鍵を開ける。彼が自分に会いに来た理由も、わざわざ部屋に上がる理由も分からないが、逆らうという選択肢はない。馬鹿みたいに広い客間へ通し、ソファに腰掛けた彼に紅茶を淹れた。 席に着いてもしばらく無言が続いた。特に話すこともないし、何ならこうして向かい合うのはロッタ王女の件以来だ。増してや二人きりなんて……へとへとで帰って来たというのに、何故また疲れる状況に身を置かないといけないのか。心底ため息をつきたくなった。 「近頃諸外国による武器の買収が何倍にも増えている。それは良いが、大半は無名の商人で輸出後の経路が分からない。これからは身元が分かる証明書類を用意した者にのみ武器を売るようにしたらどうかという意見があった。お前が来なかった日の会議に」 ようやく飛び出したのは仕事の話。それも遠回しに文句を言ってきている。舌を出したいのを堪え、自分用の紅茶もカップに注いだ。 「では官吏の言う通りにしてみてはどうでしょう。俺は賛成しかねますが」 お言葉ですけど、とワンクッション挟み、身につけているアクセサリーを一つずつ外していく。もう業務時間外だ。これくらいは許されるはず。 「どこよりも自由な交易を行っていたからこそ、ランスタッドはここまで大きくなれたのですよ? 私達のようにしがない鍛冶師が有名になったのも、武器の素晴らしさが世に知れたのも。そもそも他人に売り払ったものを全て管理するなんて不可能だ。交易を制限すれば忽ち信用と期待を失い、協力者はぐんと減る。今は損失の方が大きいに決まってます」 感情が昂っているせいだと思うが、遠慮など一切見せずに言い放った。 ローランドの機嫌次第で立場が危うくなってもおかしくなかったが、存外彼は興味深そうに頬杖をついた。 「私もそう思う」 「え?」 「だから、あくまで宰相達の提案だ。私はその場で否定も肯定もしていない。お前の意見を聴きに来ただけだ。武器を造るのはお前達だからな」 真っ直ぐな瞳で見据えられ、思わず視線を逸らす。 てっきり説教か、冷やかしに来られたのだと思っていた。彼が真剣に仕事の話をしに来たのだと分かって今度は萎縮してしまう。 「俺は……陛下に従います」 それしか言えない。 決定権は全て彼にある。多くの者は彼の逆鱗に触れないよう言葉を控える。自分も結局はそのひとりだ。 いつもはそれが嫌で仕方ない。でも今日は何故か受け入れている自分がいる。倦怠感でどうでもよくなっているのかもしれない。 ローランドは目を細め、それから自身の膝を叩いた。 「分かった。一応は意見も聴けたことだし、この話はまた今度にしよう」

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