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堕落の都SODOM:SODOMに月が昇る夜

 ソドムの街に、第二の月が昇る夜。    今日もたっぷりと主人の快楽の為に奉仕したシンジは、ザラキアの寝室のキングサイズのベッドの上で、隣にぴったりと寄り添うようにして、彼の抱き枕になっていた。  ザラキアが自ら切り整えた黒髪を指の間に潜らせ、柔らかに梳き流す。そうして琥珀色の指で髪に触れられるのも、ゾクゾクするほど堪らなく心地がいい。  この世界に来てからまだ半年もたっていないのに、ここは間違いなくシンジの本当の居場所であり、元の世界に帰りたいという気は微塵も起きなかった。  甘い快楽の余韻に浸りながら、ザラキアが口を開く。  「──もう少し経ったら、お前には魔族の寿命をやろうと思ってるんだ。」  「魔族の…寿命──?」  ことりと首を傾げて主人(マスター)を見上げるシンジ。その目を見詰めながら、ザラキアは、あぁ、と頷く。  「死刑に処される魔族の心臓と、お前の心臓を取り換える手術だ。身体を流れる血も、全部その魔族のものに入れ替えちまう。──当然、金の掛かることだぜ?何せ、この街で死刑宣告を受ける魔種はそうそう多くないし、お前に適合する型の心臓の持ち主を探すだけでも一苦労だ。それでも、さ。」  終生奴隷にしたのだから、終生を共にしたいのだ、とザラキアは少しだけ照れながらはにかみ笑いで言う。  その言葉は、素直に、思わず表情が(とろ)けてしまう程に嬉しかった。  「──そういえば、ご主人様(マスター)は…何歳なんですか?」  「あぁん?魔族の歳、か──。きちんと数えてる奴なんかいるのかね?とにかく、神ってヤツが人間界からこの世界を切り離し、アズラフィエルあたりの大貴族が街の原型を作った頃には、もうここに居たかなぁ…。」  それって、とんでもなく長生きなんじゃないのか?とシンジは思う。そして同時に、魔族の寿命を貰い受けたとしたら、永遠に近い、気の遠くなるほど途方もない時間をザラキアと共に、愛玩されながら過ごすのだということも。  「…まぁ、もっとも、それはもうちっとばかり後だな。人間に魔族の寿命を入れると、そこで成長は止まる。──つまり、調教があまり効かなくなってしまうってことでもある。だから、今はまだだ。もうちょっと俺様好みに快楽調教されとけ…?」  微笑んでシンジを抱き締めるザラキアの腕は、人間を奴隷として調教する恐ろしい魔物のそれだというのに、どこまでも温かく、そしてどこまでも優しい。尖った耳と山羊の角を持つ、とびっきりの美人の淫魔がシンジの唯一の主人だ。  シンジの額にチュ、と音を立ててキスをすると、ザラキアは間もなく眠り落ちるように穏やかに瞬きを繰り返し始めた。その口から、ふぁ、と大きな欠伸が漏れる。  「それに、手術の為には目一杯金を稼がなけりゃな。──覚悟しとけよ。明日も、子種をたっぷり絞るぞ…?」  「…はい。ザラキア様の言う通りに。」  「後、税金の計算もきっちりしとけよ──。お上に、無駄に払う金貨なんかビタ一文ねぇくらいに。」  「それも、はい。脱税にならないくらいに、僕がちゃんと調整しておきますよ…。」  「よしよし、お前は本当に出来のいい、可愛い奴だな…。他のどこを探しても代わりのいない、俺様の最高の性奴隷(セクシズ)だ…。」  ザラキアに背中を撫でられながら、シンジの瞼の上にもとろりと濃い疲労の眠気が落ちてくるのを感じる。  人生、誰しもどこかで紆余曲折(うよきょくせつ)があるものだ。  でも、きっと、この摩訶不思議だけれど幸福な時間は、果てしなく長く続くのだろうと思える。七つの大罪に代わって七つの美徳が賞賛され、退廃と享楽が支配するこの街に黄昏が訪れるのは、多分まだまだ先のこと。  自分を拾った唯一の主人であるザラキアの腕に身を委ね、瞼を閉ざして寝息を立て始めた。そして目覚めれば、また次の一日が始まる。  神と対立した魔物の街、SODOM(ソドム)。永遠の夜に包まれたそんな地でも、必ず花開く幸福の種がある。  幸せな眠りに落ちる二人分の吐息が絡まり合い、背徳の都の中にある広い寝室の静けさを、そっと満たしていた。 ─FIN─ 饗宴(サバト)を仕切る、金切り声の魔物が幕の合間からヒョイと顔を覗かせて(いわ)く。 「さてさて、背徳の都SODOMの物語は、(これ)にて閉幕となりまする!いずれいかなる形で再開はありやなしや?  とまれかくまれ、最高位性奴隷快楽調教師(マスター・オブ・ザ・パペット)と、その愛奴隷たる最高級性奴隷(グラン・セクシズ)の両名その他が織り成すショーがお気に召しました皆々様、なにとぞ盛大な拍手・ご感想・ご要望(リクエスト)等等…さささ、お投げ込みくだされ!お投げ込みくだされ!」

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